
ニュースや資料でたびたび見かける医療・介護業界ならではの用語。ぼんやりと理解しているけど、部下や同僚に説明できる自信はない…。当シリーズではそんな方々に向けて、医療制度や介護制度、病院経営に関する用語を解説します。第2回で取り上げるのは「医療計画」です。
医療計画とは
医療計画とは、医療法に基づき、地域における医療提供体制を確保するために都道府県が策定する行政計画です。医療資源の効率的な活用と、質の高い医療サービスの安定的な提供を目指しています。
医療計画の目的:地域医療の質の向上と効率化
医療計画の目的は、「限られた医療資源(医師、看護師、病床など)を地域ごとに最適に配分し、住民が必要な医療を適切な場所で受けられる体制を構築すること」にあります。 具体的には、以下のような目的を掲げています。
- 医療資源の地域偏在の是正: 都市部と地方での医師数や病床数の格差をなくす。
- 医療機能の分化と連携の推進: 急性期、回復期、慢性期といった病院の役割を明確にし、地域の医療機関が連携して患者を支える体制(地域包括ケアシステム)を構築する。
- 地域医療構想の実現: 将来の人口動態や医療需要を予測し、それに応じた病床数の必要量を推計・調整する。
医療法に基づく都道府県の責務
医療法第30条の4において、都道府県は「地域の実情に応じて、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るための計画」として医療計画を定めることが義務付けられています。この計画は、原則として6年ごとに見直され、社会情勢や医療ニーズの変化に対応する仕組みになっています。
医療計画の歴史的背景と制度の変遷
医療計画が1985年の第二次医療法改正で初めて導入された背景には、当時の深刻な医療資源の地域偏在がありました。特に病院の病床数が都市部で過剰になる一方、地方では不足するという問題が顕在化していました。 この「病床過剰時代」に対応するため、国は病床数をコントロールする仕組みとして、都道府県が主体となる医療計画を制度化したのです。
これまでの医療計画の歩み
医療計画は、改定のたびにその重点項目を進化させてきました。
- 第1次 (1986〜): 地域偏在の抑制と必要病床数の算定を主目的としてスタート。
- 第4次 (2001〜): 4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)対策が盛り込まれる。
- 第5次 (2007〜): 4疾病に精神疾患を加え「5疾病」とし、在宅医療などが事業として追加される。
- 第7次 (2018〜): 5事業6疾病体制となり、地域医療構想との一体的な推進が強調される。
第8次医療計画(2024年度~2029年度)のポイント
2024年度から始まった第8次医療計画は、これまでの流れを踏襲しつつ、新たな課題に対応するための重要な変更が加えられました。
6事業体制へ:新興感染症への対応を追加
第8次医療計画の最大の特徴は、従来の「5事業」に「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加され、「6事業」となった点です。これにより、平時からの備えと有事の際の迅速な医療提供体制の構築が、都道府県および各医療機関の責務として明確化されました。
【第8次医療計画における6事業】
- 救急医療
- 災害時における医療
- へき地の医療
- 周産期医療
- 小児医療
- 新興感染症等の感染拡大時における医療(新規追加)
医師の働き方改革との連携
2024年4月から本格的に適用された「医師の働き方改革」も、医療計画と密接に関連します。医師の労働時間短縮を実現しつつ、地域の医療提供体制を維持するためには、各医療機関の機能分化と連携、タスク・シフト/シェアの推進が不可欠です。医療計画は、そのための具体的な方策を地域ごとに定める役割を担っています。
医療計画が病院経営に与える影響
医療計画は、個々の病院経営に直接的な影響を及ぼします。経営層として特に注視すべき点を3つ挙げます。
病床機能の再編と役割の明確化
医療計画の根幹をなす地域医療構想では、地域の将来的な医療ニーズに基づき、病床機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとの必要量が示されます。 自院がどの機能を担うのか、地域の医療計画に沿った形で明確なポジショニングを取ることが、今後の経営戦略の基盤となります。場合によっては、病床機能の転換やダウンサイジングといった判断も必要になる可能性があります。
診療報酬改定との連動
国の医療政策の方向性を示す医療計画は、2年に一度の診療報酬改定に大きな影響を与えます。例えば、計画で在宅医療の推進が掲げられれば、在宅医療に関連する診療報酬が手厚くなる、といった連動が見られます。 医療計画を読み解くことは、将来の診療報酬改定の方向性を予測し、収益構造を最適化するための重要なヒントとなります。
補助金・交付金の動向
国や都道府県は、医療計画の実現を後押しするために、様々な補助金や交付金(地域医療介護総合確保基金など)を設けています。 病床機能の転換や、地域で不足している医療機能を担うための設備投資など、計画に合致した事業展開は、資金調達の面で有利に働く可能性があります。