
診療報酬改定は、病院経営に極めて大きな影響を与える重要なイベントです。2年に一度の見直しに向けて、早期から情報収集と対策準備を進めることが、安定した病院経営の鍵となります。 この記事では、診療報酬改定の基本的な仕組みから、改定プロセスの中核を担う「中医協」の役割、諮問から施行までのスケジュール、そして2026年(令和8年度)改定の方向性について解説します。
診療報酬改定とは
診療報酬改定とは、簡単に言うと「医療サービスの公定価格」を2年に1度見直すことです。医療機関が提供する診療行為や医薬品の一つひとつには、国が定めた価格(診療報酬点数)が設定されています。この点数が変わることで、医療機関の収入、ひいては経営全体が大きく変動するため、すべての医療機関にとって最重要事項の一つといえます。
診療報酬は1点を10円として計算され、医療機関の収入の根幹をなしています。この改定は、医療技術の進歩や疾病構造の変化、社会経済情勢などを踏まえ、医療の質を確保しつつ、国民皆保険制度を持続可能なものにすることを目的として行われます。たとえば、国が推進したい医療の点数を高く設定し、逆に抑制したい医療の点数を低くするといった価格誘導により、医療提供体制を社会が求める方向へと導く役割も担っています。
診療報酬改定は誰がどう決める?中医協の役割とスケジュール
診療報酬改定の内容は、厚生労働大臣の諮問機関である「中央社会保険医療協議会(中医協)」での議論を経て決定されます。中医協は、改定プロセスのまさに中心的な役割を担う組織です。
保険診療について審議する「中央社会保険医療協議会(中医協)」
中医協は、診療報酬の具体的な点数設定や、保険診療のルールについて審議する専門組織です。ここで交わされる議論が、改定の方向性を事実上決定づけます。中医協の議事録や配布資料は厚生労働省のウェブサイトで公開されており、改定の動向を把握するための最も重要な情報源となります。
診療報酬改定のスケジュール
診療報酬改定は、およそ1年半をかけた長いプロセスを経て行われます。2026年度診療報酬改定を例に挙げると、大まかなスケジュールは以下のようになります。
- 2024年:基礎資料の収集
医療経済実態調査など、改定の基礎となるデータ収集が始まります。 - 2025年夏頃~:主要なテーマについての議論開始:
中医協で次期改定の基本認識や重点課題についての議論が本格化します。 - 2025年秋~冬:建議と基本方針の策定
社会保障審議会・医療保険部会などから改定に関する意見(建議)が出され、それらを踏まえて政府が「改定の基本方針」を決定します。全体の改定率(プラス改定かマイナス改定か)もこの時期に決まります。 - 2026年1月~2月上旬:個別項目の議論と答申
基本方針に基づき、中医協で個別の診療行為の点数など、具体的な内容が詰められます。最終的に取りまとめられた内容が、中医協から厚生労働大臣へ答申されます。 - 2026年3月上旬:告示
答申の内容が官報で告示され、改定の正式な内容が確定します。 - 2026年6月1日:施行
新しい診療報酬が全国の医療機関で適用されます。従来は4月1日からの施行でしたが、2024年度より原則6月1日の施行へと後ろ倒しになりました。
2026年度診療報酬改定の方向性
2025年9月時点で、2026年度改定の具体的な議論は始まっていません。2024年度改定で示された方向性や、日本の医療が抱える構造的な課題から、主要なテーマを予測することは可能です。
2024年度診療報酬改定の振り返りと継続的な課題
2024年度改定は診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の三つの報酬が同時に改定される「トリプル改定」として注目されました。なかでも重点課題として取り上げられたのは以下のテーマです。
- 医療従事者の人材確保と賃上げに向けた取り組みを推進
- タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進
- ICTによる業務効率化
- 長時間労働などの勤務環境の改善
- 多様な働き方を踏まえた評価の拡充
- 医療人材および医療資源の偏在への対応
これらのテーマは一度の改定で完結するものではなく、2026年度改定でも引き続き重要な論点となる可能性が極めて高いでしょう。
各テーマの動向を早期に捉え、自院がどのような医療を提供し、地域でどのような役割を担っていくのかを明確にすることが、今後の病院経営において不可欠です。中医協の議論を注視し、次期改定への備えを進めていきましょう。