
須貝和則(すがい・かずのり)
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター医事管理課長/診療情報管理室長、国際医療福祉大学院 診療情報管理学修士。1987年、財団法人癌研究会附属病院に入職後、大学病院や民間病院グループを経て現職。その間、診療情報管理士、診療情報管理士指導者などを取得。現在、日本診療情報管理士会副会長、日本診療情報管理学会理事、医師事務作業補助者コース小委員会 委員長などを務める。
病院が最もよく取り扱う指標の一つに平均在院日数があります。今回は、この指標の活用方法について考えたいと思います。
筆者は、平均在院日数の変動を、 病院統計として ただ漠然と見るのではなく、医療マネジメントの視点から分析・活用することが重要であると感じています。たとえばDPCの効率性指数や「重症度、医療・看護必要度」などと関連付け、経営面への影響を見るということです。
また、平均在院日数は入院基本料の施設基準件の一つですが、計算の除外対象患者に関する記載が、2018年度の診療報酬改定で少し変更されました。計算上の大きな違いはありませんが、改めて確認しておきましょう。
計算対象外の患者に要注意!DPC病床の短手3に落とし穴
まず、今年度改定をふまえた注意点について。平均在院日数を計算する際、「短期滞在手術等基本料3(短手3)は対象患者から除外する」という条件自体に変更はありません。しかし改定に伴い、DPC算定病床ではこの短手3の手技がDPC包括請求対象に含まれることになったため、混同して平均在院日数の計算対象に含んで計算してしまう恐れがあります。したがって、改めて計算対象外とする手術等、すなわち「平均在院日数の計算対象としない患者」の選別が必要になっているのです。
具体的には、別表第2「平均在院日数の計算対象としない患者」の23(下記参照)が要注意。文中の「厚生労働省大臣が指定する病院」とは、DPC対象病院を指します。別表11の3にある手術等を実施し、入院後5日以内に退院した患者は、平均在院日数の計算から除外しましょう。
平均在院日数の計算対象としない患者(別表第2)
(省略)
23 診療報酬の算定方法第1号ただし書に規定する別に厚生労働大臣が指定する病院の病棟を有する病院において、(中略)別表第11の3に規定する手術、検査又は放射線治療を行った患者(入院した日から起算して5日までに退院した患者に限る。)
【参考】短期滞在手術等基本料に係る手術等(別表第11)
(省略)
3 短期滞在手術等基本料3を算定する手術、検査又は放射線治療
- D237 終夜睡眠ポリグラフィー 3 1及び2以外の場合
- D291-2 小児食物アレルギー負荷検査
- D413 前立腺針生検法
- K093-2 関節鏡下手根管開放手術
- K196-2 胸腔鏡下交感神経節切除術(両側)
- K282 水晶体再建術 1 眼内レンズを挿入する場合 ロ その他のもの
- K474 乳腺腫瘍摘出術 1 長径5cm未満
- K616-4 経皮的シャント拡張術・血栓除去術
- K617 下肢静脈瘤手術 1 抜去切除術
- K617 下肢静脈瘤手術 2 硬化療法(一連として)
- K617 下肢静脈瘤手術 3 高位結紮術
- K633 ヘルニア手術 5 鼠径ヘルニア
- K634 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(両側)
- K721 内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術 1 長径2cm未満
- K721 内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術 2 長径2cm以上
- K743 痔核手術(脱肛を含む。) 2 硬化療法(四段階注射法によるもの)
- K768 体外衝撃波腎・尿管結石破砕術(一連につき)
- K867 子宮頸部(膣部)切除術
- K873 子宮鏡下子宮筋腫摘出術
- M001-2 ガンマナイフによる定位放射線治療
2つの平均在院日数
そもそも、医療現場で用いられる平均在院日数という指標には、2タイプがあることをご存知でしょうか。短手3等に関するものは、以下の【1】にあたります。
【1】入院基本料等の施設基準で利用するもの(計算式は別添6 別紙4で規定)
【2】各月の病床稼働状況を把握する、病院統計用のもの(院内用に【1】より簡素に計算)
平均在院日数の違いは、前述したような算定対象外患者の選別(電子カルテ上の設定)に関わります。ここをしっかり設定できていないと、両者が混在し、不正確な数値になっている可能性があります。電子カルテが導入されている医療機関の多くでは、【1】の計算を医事統計システムによって対応しています。そして対象外患者の設定は、人の手によって除外設定のコード登録を患者一人ひとり行うことが往々にしてあります。そこで、別表第2「平均在院日数の計算対象としない患者」を改めて確認しておきましょう。
平均在院日数の計算対象としない患者(別表第2)
- 精神科身体合併症管理加算を算定する患者
- 救命救急入院料(広範囲熱傷特定集中治療管理料に限る。)を算定する患者
- 特定集中治療室管理料(広範囲熱傷特定集中治療管理料に限る。)を算定する患者
- 小児特定集中治療室管理料を算定する患者
- 新生児特定集中治療室管理料を算定する患者
- 総合周産期特定集中治療室管理料を算定する患者
- 新生児治療回復室入院医療管理料を算定する患者
- 一類感染症患者入院医療管理料を算定する患者
- 特殊疾患入院医療管理料を算定する患者
- 回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者
- 地域包括ケア病棟入院料を算定する患者
- 特殊疾患病棟入院料を算定する患者
- 緩和ケア病棟入院料を算定する患者
- 精神科救急入院料を算定する患者
- 精神科救急・合併症入院料を算定する患者
- 精神科急性期治療病棟入院料を算定する患者
- 児童・思春期精神科入院医療管理料を算定する患者
- 精神療養病棟入院料を算定する患者
- 2 地域移行機能強化病棟入院料を算定する患者
- 一般病棟(一般病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料(一般病棟に限る。)又は専門病院入院基本料を算定する病棟を除く。)に入院した日から起算して90日を超えて入院している患者であって、医科点数表第1章第2部第1節障害者施設等入院基本料の注5に規定する厚生労働大臣の定める状態等にあるもの
- 一般病棟に入院した日から起算して90日を超えて入院している患者であって、医科点数表第1章第2部第1節一般病棟入院基本料の注11、特定機能病院入院基本料の注9又は専門病院入院基本料の注8の規定により療養病棟入院料1の例により算定している患者
- 認知症治療病棟入院料を算定している患者
- 短期滞在手術等基本料1及び3(入院した日から起算して5日までの期間に限る。)を算定している患者
- 診療報酬の算定方法第1号ただし書に規定する別に厚生労働大臣が指定する病院の病棟を有する病院において、別表第11の2に規定する手術を行った患者(入院した日の翌日までに退院した患者に限る。)又は別表第11の3に規定する手術、検査又は放射線治療を行った患者(入院した日から起算して5日までに退院した患者に限る。)
平均在院日数など、施設基準で要件になっている数値は、言うまでもなく最も慎重に算出しなければならない部分です。誤って届け出ていることが適時調査などで発覚し、条件を満たせていなければ、莫大な返還金を求められるので注意しましょう。
医事課の分析力が問われる平均在院日数
さて、続いて病院統計に用いられる平均在院日数を考えてみましょう。こちらは病院経営管理上、特にポピュラーな指標で、病床稼働率と関連付けて分析する等、多くの医療機関で用いられています。ある意味、病院の経営実態を表す指標と言えるでしょう。その分、この数値が変動すれば、臨床現場の傾向や実態について説明が求められます。医事課は数値を追うだけでなく、シビアに原因を分析する必要があるということです。
たとえば、年末年始や5月の大型連休といった長期休暇の前月には、平均在院日数が短く出ます。これは、連休前後に一時的な入退院が増加し、計算式の分母「新入棟患者数 + 新退棟患者数」が増える等の理由からです。これを在院日数の短い患者が増えたからなどと分析するとミスリードになります(関連記事)。また、冬季に病床稼働率が上昇すると、平均在院日数が長くなる傾向も見られますが、これは循環器疾患や脳血管疾患、肺炎の患者の増加が原因として考えられます。このようなことを踏まえながら、原因分析を行わなければなりません。
その際に効果的なのが、DPCデータによる効率性指数(在院日数短縮の努力を評価する指標)の分析です。効率性指数の分析は、DPC分類ごとの標準的な在院日数と自院との比較になるので、客観的な状況把握・評価が可能です。
たとえば季節柄、患者数が減って病床稼働率が低下すると、近い日程でもベッドを確保しやすくなるので、「予定入院かつ短期入院」のできる疾患の比率が多くなる傾向にあります。平均在院日数は短縮するため、「病床が空いているのに、入院期間も短くしている」と勘違いする病院幹部も中にはいるでしょう。効率性指数を見せれば、疾患比率の変化に応じて平均在院日数が短縮したことを客観的に伝えることができます。
平均在院日数の算定方法(別添6 別紙4)
1 入院基本料等の施設基準に係る平均在院日数の算定は、次の式による。
(1)に掲げる数 / (2)に掲げる数
(1)当該病棟における直近3か月間の在院患者延日数
(2)(当該病棟における当該3か月間の新入棟患者数+当該病棟における当該3か月間の新退棟患者数)/ 2
なお、小数点以下は切り上げる。
2 上記算定式において、在院患者とは、毎日24時現在当該病棟に在院中の患者をいい、当該病棟に入院してその日のうちに退院又は死亡した者を含むものである。なお、患者が当該病棟から他の病棟へ移動したときは、当該移動した日は当該病棟における入院日として在院患者延日数に含める。
3 上記算定式において、新入棟患者数とは、当該3か月間に新たに当該病棟に入院した患者の数(以下「新入院患者」という。)及び他の病棟から当該病棟に移動した患者数の合計をいうが、当該入院における1回目の当該病棟への入棟のみを数え、再入棟は数えない。
また、病棟種別の異なる病棟が2つ以上ある場合において、当該2以上の病棟間を同一の患者が移動した場合は、1回目の入棟のみを新入棟患者として数える。
当該3か月以前から当該病棟に入院していた患者は、新入棟患者数には算入しない。
当該病院を退院後、当該病棟に再入院した患者は、新入院患者として取り扱う。
4 上記算定式において、新退棟患者数とは、当該3か月間に当該病棟から退院(死亡を含む。)した患者数と当該病棟から他の病棟に移動した患者数をいう。ただし、当該入院における1回目の当該病棟からの退棟のみを数え、再退棟は数えないこととする。
病棟種別の異なる病棟が2以上ある場合において、当該2以上の病棟間を同一の患者が移動した場合は、1回目の退棟のみを新退棟患者として数えるものとする。
5 「基本診療料の施設基準等」の別表第二に規定する入院患者は1の(1)及び(2)から除く。
6 短期滞在手術等基本料3を算定した患者及び基本診療料の施設基準等の別表第2の23に該当する患者であって6日以降も入院する場合は、(1)及び(2)に含めるものとし、入院日から起算した日数を含めて平均在院日数を計算すること。
<編集:角田歩樹>
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