充実評価の「麻酔管理料」で医事課が押さえるべき3点―診療報酬請求最前線

診療報酬請求最前線

2018年度(平成30年度)の診療報酬改定では「麻酔管理料」が大きく評価され、点数・項目ともに大幅に増えています。さらに麻酔管理料Ⅱの施設基準においては、麻酔科医の条件として、常勤だけでなく「非常勤」でも算定可能とされたことに気がついているでしょうか。

常勤・非常勤の組み合わせで、より算定しやすく

麻酔管理料は、麻酔の安全管理体制の確保と質の高い麻酔の提供を目的にした加算です。麻酔管理料Ⅰは麻酔科標榜医、麻酔管理料Ⅱは麻酔科標榜医の指導下で麻酔科医が管理した手術を評価するもので、今回見直しがあったのは麻酔管理料Ⅱの施設基準です。

麻酔管理料(Ⅱ)の施設基準
    1. 麻酔科を標榜している保険医療機関である。
    2. 常勤の麻酔科標榜医が5名以上配置されている。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週24時間以上の勤務を行っている麻酔科標榜医である非常勤医師を2名以上組み合わせることにより、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該医師の実労働時間を常勤換算し常勤医師数に算入することができる。ただし、常勤換算し常勤医師数に算入することができるのは、常勤配置のうち4名までに限る。
    3. 常勤の麻酔科標榜医により麻酔の安全管理体制が確保されている。
    4. 24時間緊急手術の麻酔に対応できる体制を有している。
    5. 麻酔科標榜医と麻酔科標榜医以外の医師が共同して麻酔を実施する体制が確保されている。

下線部分の条件は、改定によって新たに追記された部分です。これにより、「常勤の麻酔科標榜医が5名以上配置」に対し、非常勤の実労働時間を常勤換算できることになりました。注意点としては、非常勤医師を2名以上組み合わせることや、常勤換算は常勤4名分を上限として最低1名は常勤医師であることを示しています。

適時調査・個別指導で最もチェックされる麻酔管理料

そもそも麻酔管理料の算定は、保険請求上の条件が厳しいだけでなく細かな手順が定められているため、その見極めが難しく、麻酔記録などを確認して医事算定者が判断することが多く見られます。

ネックとなるのが、麻酔管理料ⅠとⅡ、ともに条件になっている「麻酔前後の診察及び麻酔の内容を診療録に記載する」部分の運用です。麻酔前後の診察を行わず、術時の管理だけで麻酔管理料を算定することは、明らかに不適切な算定になりますが、診療録の記載が不備であったり、全く記録が無いといった状況で請求している場合にも問題となります。そのため適時調査や個別指導では、最もチェックされやすい項目に挙げられているので留意すべきでしょう。

このような診療情報管理体制は、日常の運用やシステムの変更などで解決できることなので、麻酔記録の管理方法をしっかりと整えておくことが大切です。

麻酔管理料Ⅰ、麻酔管理料Ⅱ

(4)麻酔前後の診察及び麻酔の内容を診療録に記載する。

なお、麻酔前後の診察について記載された麻酔記録又は麻酔中の麻酔記録の診療録への添付により診療録への記載に代えることができる。

8時間超の手術7500点は、対象手術が拡大

一方、麻酔管理料の配点については、下記のように増点されました。さらに注目すべきなのは「長時間麻酔管理加算7500点」(8時間を超えた手術)の対象手術が拡大(増加)したことです。

麻酔管理料

L009 麻酔管理料(Ⅰ)

      1. 硬膜外麻酔又は脊椎麻酔を行った場合 250点
      2. マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔を行った場合 1,050点

L010 麻酔管理料(Ⅱ)

      1. 硬膜外麻酔又は脊椎麻酔を行った場合 150点
      2. マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔を行った場合 450点

長時間麻酔管理加算 7,500点
(区分番号L008に掲げるマスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔の実施時間が8時間を超えた場合)

・区分番号L010に掲げる麻酔管理料(Ⅱ)を算定している場合は算定できない。
区分番号K017、K020、K136−2、K142−2の1、K151−2、K154−2K169の1K172、K175の2、K177K314の2、K379−2の2、K394の2、K395、K403の2K415の2K514の9K514−4K519K529の1K529−2の2K552の1K553−2の2K553−2の3K553の3K555の3、K558、K560の1のイからK560の1のハまでK560の2、K560の3のイからK560の3の二まで、K560の4、K560の5、K560−2の2の二K567の3、K579−2の2、K580の2、K581の3、K582の2、K582の3、K583の1からK583の4まで、K584の2、K585、K586の2、K587、K592−2、K605−2、K605−4、K610の1、K645、K675の4、K675の5、K677−2の1、K695の4、K695の6、K695の7、K697−5、K697−7、K703の1からK703の4まで、K704K801の1、K803の2、K803の4及びK803−2に掲げる手術に当たって、区分番号L008に掲げるマスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔の実施時間が8時間を超えた場合は、長時間麻酔管理加算として、7,500点を所定点数に加算する。
※下線部分は2018年改定で追加されたもの。対応する手術内容は記事末尾を参照。

拡大の例としては、K142−2脊椎側湾症手術、K394の2 喉頭悪性腫瘍手術(全摘)、K703膵頭部腫瘍摘出術などが挙げられます。かなり多くの区分番号が指定されたので、当該手技に関連する手術を多く実施している医療機関は、チェックすべきポイントです。

長時間麻酔管理加算は麻酔管理料Ⅰの算定が条件となりますが、運用上、長時間に及ぶ手術が予定されている場合は、前もって麻酔管理料Ⅰを算定できるような体制を整えて挑むことが効果的です。

麻酔管理料Ⅰのネックは、施設基準で届け出た常勤の麻酔科標榜医が術前術後の診察、術時の麻酔を実施する必要があり、あらかじめ人員体制を整えておく必要があること。もちろん、麻酔科標榜医が多数在籍しているような医療機関は問題ありませんが、ギリギリの人数で運用しているところでは押さえておくべき大切な視点になります。

Kコードに対応する手術内容(2018年改定の追加分)

K142-2の1:脊椎側彎症手術 固定術
K154-2:顕微鏡使用によるてんかん手術(焦点切除術、側頭葉切除術、脳梁離断術)
K169の1:頭蓋内腫瘍摘出術(松果体部腫瘍)
K172:脳動静脈奇形摘出術
K177:脳動脈瘤頸部クリッピング
K314の2:中耳悪性腫瘍手術(側頭骨摘出術)
K394の2:喉頭悪性腫瘍手術(全摘)
K403の2:気管形成手術(管状気管、気管移植等)(開胸又は胸骨正中切開によるもの)
K415の2:舌悪性腫瘍手術(亜全摘)
K514の9:肺悪性腫瘍手術(胸膜肺全摘)
K514-4:同種死体肺移植術
K519:先天性気管狭窄症手術
K529の1:食道悪性腫瘍手術(消化管再建手術を併施するもの)(頸部、胸部、腹部の操作によるもの)
K529-2の2:胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術(胸部、腹部の操作によるもの)
K552の1:冠動脈、大動脈バイパス移植術(1吻合のもの)
K553の3:心室瘤切除術(梗塞切除を含む。)(冠動脈血行再建術(2吻合以上)を伴うもの)
K553-2の2:左室形成術、心室中隔穿孔閉鎖術、左室自由壁破裂修復術 冠動脈血行再建術(1吻合)を伴うもの
K553-2の3:左室形成術、心室中隔穿孔閉鎖術、左室自由壁破裂修復術 冠動脈血行再建術(2吻合以上)を伴うもの
K555の3:弁置換術(3弁のもの)
K560の1のイからK560の1のハまで:大動脈瘤切除術(吻合又は移植を含む。)上行大動脈(大動脈弁置換術又は形成術を伴うもの、人工弁置換術を伴う大動脈基部置換術、自己弁温存型大動脈基部置換術)
K560の2:大動脈瘤切除術(吻合又は移植を含む。)弓部大動脈
K560の3のイからK560の3の二まで:大動脈瘤切除術(吻合又は移植を含む。)上行大動脈及び弓部大動脈の同時手術(大動脈弁置換術又は形成術を伴うもの、人工弁置換術を伴う大動脈基部置換術、自己弁温存型大動脈基部置換術)
K560の4:大動脈瘤切除術(吻合又は移植を含む。)下行大動脈
K560-2の2の二:オープン型ステントグラフト内挿術 上行大動脈及び弓部大動脈の同時手術(その他のもの)
K567の3:大動脈縮窄(離断)症手術(複雑心奇形手術を伴うもの)
K580の2:ファロー四徴症手術(末梢肺動脈形成術を伴うもの)
K582の2:両大血管右室起始症手術(右室流出路形成を伴うもの)
K583:大血管転位症手術
K585:総動脈幹症手術
K586の2:単心室症又は三尖弁閉鎖症手術(フォンタン手術)
K587:左心低形成症候群手術(ノルウッド手術)
K592-2:肺動脈血栓内膜摘除術
K610の1:動脈形成術、吻合術(頭蓋内動脈)
K675の4:胆嚢悪性腫瘍手術(膵頭十二指腸切除を伴うもの)
K695の4:肝切除術(1区域切除(外側区域切除を除く。))
K695の6:肝切除術(3区域切除以上のもの)
K695の7:肝切除術(2区域切除以上であって、血行再建を伴うもの)
K703:膵頭部腫瘍切除術
K704:膵全摘術
K803の2:膀胱悪性腫瘍手術(全摘(腸管等を利用して尿路変更を行わないもの))
K803の4:膀胱悪性腫瘍手術(全摘(回腸又は結腸導管を利用して尿路変更を行うもの))

<編集:小野茉奈佳>

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