【医療DX化】残業時間を削減しつつ内視鏡件数を増加―NTT東日本関東病院

医療DX化

NTT東日本関東病院(東京都品川区)は2022年10月より、10階A病棟を最先端のICT技術を取り入れた「スマートホスピタル病棟」として運用しています。一部の検査機器等の部分的なICT化ではなく、病棟全体のDX化を進めることで「医療安全・医療の質向上」「医療従事者の働き方改革」が向上しました。今回はスマートホスピタル病棟の設置・運営に従事されてきた、同院看護部副看護部長の村岡修子さん、DX推進部門DX推進担当課長の久住呂涼子さん、運営企画部DX戦略担当の小嶋祐人さんに話をうかがいました。

医療DX化の前におさえたい「医療の質向上」のための5つのポイント

――スマートホスピタル病棟の概要を教えてください。

久住呂(以下、敬称略):スマートホスピタル病棟は2022年10月に当院の10階A病棟(消化管内科病棟)で始まりました。当院のスマートホスピタル病棟の特徴は、一部のシステムや機器等の部分的な導入ではなく、病棟全体でDX化を進めたことです。

村岡:「医療の質の向上」には5つのポイントがあると考えています。それらは「1.医療過誤をなくす(減らす)」「2.医療提供の偏差・分散を減らす」「3.収支改善」「4.患者エクスペリエンスの向上」「5.職務満足度の向上」です。これらのポイントが押さえ、持続的に改善できる体制を整えられることが、「医療がスマート化されている状態」だと捉えています。具体的な取り組みは後述しますが、今回のスマートホスピタル病棟に関する取り組みも、これらのポイントを踏まえて検討されていきました。
また、当院はNTT東日本の企業立病院です。病院には6つの基本方針がありますが、その一つに「ITの医療への活用と社会への還元」を掲げています。医療DX化による社会貢献が、当院のブランド力の向上につながるという側面もありました。

――スマートホスピタル病棟として消化管内科の病棟を選ばれた理由を教えてください。

村岡:第一に当院の消化管内科は、クリティカルパスが適応される患者さんが多数をしめており、治療やケアが標準化されていたことがあります。第二に消化管内科は、病棟スタッフと内視鏡室スタッフが連携して治療とケアを行うことから、ICTを活用した連携を検討できることがDX化とマッチしていました。そして、第三に当院は全国的に見ても消化管内科の内視鏡治療が必要な患者さんが多く集まる病院であり、患者さんへの貢献としても経営面でのインパクトとしても大きかったことが挙げられます。

――DX化の導入・周知の中で直面した、課題や苦労があれば教えてください。

小嶋:DX化と並行して病棟自体の改修工事があったため、どちらもつつがなく進めていくのは大変でした。とはいえ、事務部門と看護部でタスクフォースチームを立ち上げて風通しの良い関係を築けていたため、大きな問題なく計画を進めることができました。消化管内科の医師やメディカルスタッフが「内視鏡検査・治療の効率性を上げたい!」と、新しい病棟に生まれ変わることに前向きで、一貫して協力的だったことも心強かったですね。

導入後、検査・治療件数1.4倍を実現したシンプルな施策

――内視鏡検査・治療の効率性を上げるために、具体的にどのようなDX化を進めたのですか?

小嶋:内視鏡検査・治療はその特性上、どうしても当日の患者さんの便の状態などによって、検査・治療が予定通りにできないことがあります。従来から紙や内線電話を用いて効率的な運用を目指してはいましたが、限界はありました。そこで、導入したのがリアルタイムで内視鏡室と病棟間で連携がとれる「電子ホワイトボード」 です。電子ホワイトボードの導入により、治療に関わる全員がそれぞれのフロアにいながら、「患者さんの便の状態」「医師の追加の投薬指示」「送り出しの順番・入れ替え」などが一目でわかるようになりました。非常にシンプルな施策ですが効果は劇的で嬉しい驚きでした。
久住呂:電子ホワイトボードを導入する前は1ヶ月90件だった検査・治療件数が、導入2ヶ月後には129件と約1.4倍になりました。強調したいのは、検査・治療件数がこれだけ伸びたにもかかわらず、検査・治療終了時間は17分しか伸びていないことです。まさしく、ロスを減らして効率的に質の高い医療が提供できている証左です。

村岡:電子ホワイトボードに載せる項目は、紙で運用していた頃の内容を踏襲したことも、現場がギャップを感じることなく立ち上がりが上手くいった要因のひとつです。
この施策は検査・治療件数の増加だけでなく、看護師の時間外労働削減、そして精神的な負担軽減にもつながっています。病棟の看護師は、複数の患者さんを受け持っています。その中には、内視鏡検査・治療を受ける患者さんもいれば、そうではない患者さんもいます。これまでは、電話連絡によって、内視鏡室から病棟へ出棟時間を伝えていたために、検査や治療を受ける患者さんの出棟時間を事前に把握できませんでした。しかし、電子ホワイトボードを導入したことで、常に出棟時間を一目でチェックできるようになりました。その結果、病棟の看護師は「次の患者さんが来るまでにあと10分はありそうだから、その間に他の業務をしよう」といったように、タイムマネジメントしやすくなり業務を効率化できました。

――「DX化の取り組みを進めたいが、現場との合意形成がうまくいかない」という病院に向けて、アドバイスをいただけますか。

村岡:当院は、「ITの医療への活用と社会への還元」を基本方針としている通り、もともと院長や経営層が医療DX化に積極的であり、その点ではDX化が受け入れやすい風土ではありました。なので、やはり経営層の理解を得られているかどうかは重要です。そのうえで、医療者やDX推進担当者がそれぞれ独立して検討するのではなく、「一緒に効率化に取り組んでいく」というマインドを現場とつくることが大切でしょう。

久住呂:前述のとおり、当院では院長をはじめたとした経営層が「DXの推進」に力を入れており、TOPが向けたメッセージを発信し続けることで、院内のDXマインドが醸成されております。また、2年ほど前にDX推進の組織体制に着手し、「すべての人にDXを」をポリシーに医療・社会に貢献すべく、病院全体でDX推進に取り組んでおり、そのような環境も大きいと思っております。

DXをドライブするのは結局、人(熱意)であると考えているため、「一緒に取り組む」というマインドをつくるためには、DX化に関心がある人の悩みに対して「すぐに応える」ことが重要だと思います。「現場の思いを形にしたい」という我々の姿勢が伝われば、協力の輪は徐々に広がっていくのではないでしょうか。

――今後の医療DX化の展望、目標について教えてください。

村岡:医療DXとは単にデジタル技術やIT機器を導入することではなく、「導入した機器やシステムなどで蓄積されたデータをもとに、医療者に“気づき”を与えたり、業務改善を行ったりするなどし、医療を改革すること」だと思います。今後は、リモートによる業務や研修ができる体制整備やスタッフの行動分析を行うなど、医療者の働き方改革を進めていく予定です。

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