管理職でも専門性を意識 診療情報管理士“指導者”資格を持つ新しいリーダー像―嶋田病院 今村知美診療支援副部長

医療法人社団シマダ 嶋田病院(福岡県小郡市、150床)で20年以上にわたってキャリアアップを重ね、2017年には診療情報管理士の上位資格である指導者認定を受けるまでに至ったのが、診療支援副部長の今村知美氏です。一般職員から3課をマネジメントする管理職、そして診療情報のエキスパートへと成長した今村氏。もともと「資格を取る気はなかった」と語るその背景には、どのような心境の変化があったのでしょうか。

<インタビュイープロフィール>
嶋田病院 診療支援部 副部長
今村 知美 氏

一般職員から複数部署のマネジメントへ

嶋田病院 今村知美

-嶋田病院に入職する前のキャリアについて教えてください。

前職は金融機関に勤めていました。転職を考えたきっかけは、より人の役に立つお仕事をしたいと思ったからです。金融機関では業務の特性上、お金に対するネガティブなイメージが強くなってしまい、一旦そこから離れたいという気持ちがありました。そう考え転職活動を始めた時に、出会ったのが医療事務でした。医療は公益性が高く、事務職として間接的にでも地域の方のお役に立てそうだと思い、1997年に嶋田病院へ入職しました。

-すでに20年以上勤続されているのですね。嶋田病院ではどのようなキャリアを歩まれてきましたか。

入職後は医事課の配属となり、2007年に医事課主任となりました。そこから人事異動があり、2011年に医師事務作業補助者が所属する診療支援課の課長となりました。その後、医事課・診療支援課の課長を兼務することになり、2016年から診療情報管理課の課長も経験した上で、2018年4月からは3課をまとめる診療支援部の副部長を拝命して現在に至ります。

-すごいですね。非常にきれいなステップアップをされている印象がありますが、医事課だけでなく診療支援課にも関わるようになったのはなぜでしょうか。

最初の診療支援課への異動のきっかけは、2008年の診療報酬改定で「医師事務作業補助体制加算」がついたことが大きいと思います。当時、当院の医師事務作業補助者の体制は、病棟クラークの延長のような形になってしまい、業務が確立できていませんでした。その環境を立て直すという大きなミッションを任せていただけたことで、私のキャリアが方向付けられたと思います。

-経験のない診療支援課をはじめ、複数の部署をマネジメントするのは大変だったのでは。

診療支援課は、私自身がこれまでまったく経験したことがない職種のマネジメントでしたので、業務改善はもちろん、部下を適正に評価できるかが非常に心配でした。部下の立場から見ても、不安だったと思います。そこで、とにかくまずは医師事務作業補助者の業務を経験して、業務を理解するようにしました。部下もその姿勢を見て、信頼してくれたようです。

複数の部署をマネジメントするにあたっては、各課に現場のキーマンとなるスタッフがいるので、そのスタッフをいかに巻き込むかを意識しました。副部長としての自分の役割は、新人の育成ではなく、現場のメンバーを指導していく中堅層やリーダー層の育成だと認識していましたので、そこに注力したかたちです。

-素晴らしいですね。マネジメント経験を経て、ご自身の中での変化はありましたか。

物事の見方が大きく変わりました。視点が増えた、と言うのが正しいかもしれません。例えば医事課に所属していた際は、診療報酬制度に則り過小請求や過剰請求を防げているかなど、請求関連の流れだけを意識していましたが、マネジメント経験を積んだ今では情報管理の正確性や他職種との連携など、もっと多くの面から業務を考える必要があると感じています。

認定者数100人以下の難関資格に挑戦

診療情報管理士指導者

-今村さんは診療情報管理士の指導者(2018年12月現在、診療情報管理士35,000名の内、指導者は全国に85名)の資格をお持ちだとお伺いしました。院外でも積極的にスキルアップの機会をつくっていらっしゃるのでしょうか。

今でこそさまざまな学会や勉強会に参加していますが、医事課に所属していた頃はスキルアップの機会はなかなかなくて、診療報酬改定時のセミナーに参加したくらいです。学ぶ機会自体は、診療情報管理士の資格をとってから格段に増えました。

-それほどスキルアップの機会はなかったとのことですが、資格を取得するにあたり、何かきっかけがあったのでしょうか。

最初は、資格を取る気はまったくありませんでした。もともと医事課職員は利益を追求し、診療情報管理士は正しいデータをつくる役割という意識があったので、医事課としては診療情報管理の視点を得る必要がないと思っていました。ただ、院内でさまざまな経験をさせていただく中で、自分が今後も事務職を続けていくことを考えたとき、多角的視点の必要性を痛感し、2009年に資格取得を決意し、2017年に指導者の認定まで取得しました。

-なるほど。診療情報管理士を取るにしても、資格取得後の勤続、学会発表や研修会への参加など、受審要件が厳しい指導者認定まで目指すのは非常に大変だったと思いますが。

どうせなら最後まで取ろうと思ったのもありますが(笑)、指導者認定を取得していた当時の上司に影響を受けたことと、私自身、昔から教育に関わりたい気持ちがあったので指導者を目指すことにしました。

実際に、指導者を取得してから外部の方と関わることが増えていき、声をかけていただくことも増えました。資格取得後の外部交流がきっかけとなり、現在は専門学校の講師を担当させていただいています。

-講師としてはどのようなことを担当されていますか。

現在は国際疾病分類に関わる授業を担当しています。授業を受け持つにあたっては、できるだけ机上の空論で終わらせず、現場ならではの視点で、どうすればこの学びを実務に活かせるかを意識しながら話をしています。

今は事務職も人手不足の時代。ひとりひとりのスキルを育てていくことがとても重要になっていると現場で痛感しています。自分が講師として教育に関わることで、学生の皆さんに還元し、成長した姿で現場に送り出したいと思っています。

-院外での活動は院内の業務にも活かせるものなのでしょうか。

はい、何よりもソトの視点が得られるのが大きいです。私が学会に初めて行った時、他院の方々と情報交換をしたことで自分たちの業務が課題だらけだと気づきました。そこから得られたヒントを基に、10年かけて改善を図っていきましたので、今となってはできることの方が多くなってきていると自負しています。できていることも、できていないことも、ソトの視点を踏まえて自分たちを客観視できるのはいいことでした。

-今村さんの考える、今後求められる事務職とは。

事務職業務でも技術が進歩してきたので、なんでも自分でやらなければいけない時代ではなくなってきています。当院も電子カルテの更新や専門性の高いシステムエンジニアの採用により、データの抽出が正確かつスピーディーにできるようになりました。ですので、これまでは何でもできるようになることが事務職のスキルアップと言われていましたが、今後は自分の専門性をしっかり明確化し、その強みを院内外で伸ばしていくことが必要かと思います。

もちろん、マネジメントをする上ではできるだけ多くの業務に触れ、現場を知っていく必要がありますが、その上で、自分が介入するからこそ活かせる強みを磨いていくことが重要なのではないでしょうか。

-ありがとうございます。最後に、今村さんの今後の目標を教えてください。

社会情勢や医療制度がかつてないスピードで変わっていく中で、嶋田病院がどのような方向に進んでいくべきか、その時々の適切な判断を導けるような診療情報の提供をしていけるようになりたいと思っています。経営の判断材料にもなる、医療圏や患者様の情報は事務側が握っている部分が大きいので、それらに自分たちの意見も加えた上で経営者に情報提供をし、嶋田病院の発展の一端を担えたら、と思います。

<取材・文:浅見祐樹、編集:小野茉奈佳>

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