手稲渓仁会病院の事例に学ぶ、事務職にとって大切なこと ― 手稲渓仁会病院 経営管理部 関谷氏、阿部氏【前編】

1987年の開設以降、数々の挑戦を経て「先駆的な民間病院」として全国的に知られるようになった手稲渓仁会病院(北海道札幌市)。事務部門においても枠にとらわれない取り組みを進める同院では、24時間365日の事務管理当直や経営数値のリアルタイム共有といった施策を進め、地域への貢献につなげようとしているという。こうした舞台裏で活躍しているのが、経営管理部次長の関谷公栄子氏と同部医事課課長代理の阿部秀二氏だ。今回はお二人のキャリアを振り返りながら、これからの事務職に求められる能力を探る。

経営数値だけでは、医療現場の実情は分からない

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「とにかく現場へ入っていくこと」。

関谷氏・阿部氏が語る「事務職にとって大切なこと」を一言に要約すれば、このようになるだろう。事務部門と医療現場との綿密なコミュニケーションの重要性は、多くの人が賛同するところだろう。ただ、両氏の「現場への思い」は並大抵のものではない。疑問点があれば現場に徹底的に話を聞く。行政が何か情報を出せば、自院への影響を現場とディスカッションする―阿部氏によると、手稲渓仁会病院において、事務職が現場に足を運ぶ目的は、単に「経営改善のヒントを探りに行くため」ではないという。

「たとえ経営数値に問題がなくても、数字の裏側にある現場の状況を理解しておかないと、患者にとってよい医療を病院が提供できているか否かは判断できません。

たとえば救急体制。救急車の搬送台数だけを見ても、現場感は分かりません。自院がどんな理由で救急車を断っているのか、救急外来でどんな患者さんをどのように診療しているのか-こうした実情を自分の目で確認することで、数字だけでは分からない自院が提供している医療の価値が見えてくると思います」(阿部氏)

関谷氏も阿部氏の姿勢に共感を示す。
「あくまで『患者さんのために』というのが行動の原点です。わかったふりをせず、多少聞きにくいことであっても、できるだけ迅速に確認する。もちろん現場の負荷を増やしすぎないよう、アクセス可能な情報には一通り目を通してから現場に向かいますし、現場との信頼関係が前提です。阿部が見せるそういった現場に食い込む姿勢は、当院の事務部門みんなに見習って欲しい」

 

「次の戦略は?」経営数値を共有し部署横断で考える

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「事務部門と現場の近さ」を示す証左とも言えるのが、同院の情報共有体制だ。

同院では、医事、企画、経理で構成した分析チームを情報システム部門が全面バックアップする形で経営数値を統合したレポートを作成し、病院幹部や看護部、診療科などと共有し、スピード感を持って経営改善に取り組んでいる。「自分たちの行動が入院期間の短縮や、患者さんの満足度向上などとどのように結び付いているのか、経過をリアルタイムに確認しながら、前向きに行動していきたい」と阿部氏。事務部門と医療提供部門が共通の経営指標を追いかけることで、部署を超えた改善提案も進めやすくなる。結果、施策のスピードが上がり、全国に先駆けた取り組みが自然発生的に進んでいくというのが同院のスタイルだ。関谷氏も次のように付け加える。

「経営指標レポートは、要因分析から先のことを考えて手を打つための材料。数字遊びが目的ではありませんし、過去を検証することだけに終始しないよう気をつけています」(関谷氏)

「医事課職員の役割は、現場の実情と経営数値の間にある溝を埋めること」と阿部氏。経営数値を可視化させる必要を訴える一方で、数字に踊らされて現場の実情や患者の姿が見えなくなることの危険性も指摘する。このように今でこそ医療現場を知る大切さを痛感している両氏だが、当初から「とにかく現場へ」という姿勢が身についていたわけではなかったという。

 

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