クリニック事務のやりがいは業務改善と組織づくり―医療法人社団ワッフル 松田邦彦事務長

東証一部上場企業でコールセンターの運営に携わった後、医療業界に飛び込んだ松田邦彦氏。ヒト・モノ・カネのマネジメント経験を生かし、クリニック事務長に転職した松田氏は、すぐさま業務改善と組織づくりにやりがいを見出します。現在、小児科クリニック・病児保育室を運営する医療法人社団ワッフル(大阪府堺市北区)で事務長を務める松田氏に、今日に至るまでの道のりとクリニック事務長の働き方について聞きました。

<インタビュイープロフィール>
医療法人社団ワッフル 事務長
松田 邦彦 氏

はじまりはコールセンターにおけるヒト・モノ・カネのマネジメント

-まずは、松田さんのファーストキャリアについて教えてください。

保育専門学校在学中にアルバイトをしていた東証一部上場企業でのコールセンター業務に魅力を感じ、契約社員を経て正社員になりました。もちろん保育士の道も考えていましたが、賃金やワークライフバランスなどを総合的に考慮し、企業への入社を決めました。

同社のコールセンターは企業から委託を受け、お客様からの問い合わせ対応や使い方・修理相談などの窓口業務を行うものでした。このスキームを子どもたちのホットライン機能として第一線をリタイヤされたご年配の方々と共に構築すれば、現代社会で薄れている世代間交流を取り持つ役割を果たしつつ、日本に貢献できるのではないか、という可能性に惹かれたのが大きな理由です。

-入社後は、どのような業務をされてきたのでしょうか。

入社後は現場のリーダーとして、一次受付をするオペレーターのサポートやクレーム対応をする二次窓口を担っていました。その後はスーパーバイザーとして事業所運営の責任者を務め、最終的にはマネージャーとして、各部門や事業所の経営責任まで負う立場となりました。最大で13事業所を1人でマネジメントしている時期もありましたね。

-そこからキャリアチェンジを考えるようになったのはなぜでしょうか。

ヒト・モノ・カネのすべてを管理するマネージャーになった頃から、自身のやりがいやありたい姿よりも、「これをやらなければいけない」という思いが先立つようになってしまいました。例えば、外資系企業からの依頼は扱う金額が数十億の世界だったので、自分がどんどん数字に締め付けられてしまい、ヒトまでも数字で評価するような仕事の仕方になってしまったのです。

そんな自分を振り返った時、事業というものさしで見れば、入社当時やりたかったことはできている一方で、事業を通して社会への貢献を感じる、本当の意味でありたい自分とは離れてしまっているのではないかと気付き、転職活動を始めました。

大手企業出身の視点を生かした組織づくり

-その後、医療業界へ転職されたのですね。

はい。登録していた人材紹介会社に紹介いただいたのが、前職の医療法人社団梅華会(以下、梅華会)でした。転職活動を始めた当時は、正直、医療業界への見識はほとんどなく、前職との親和性も特に感じていませんでした。

それでもチャレンジしてみようと思ったのは、理念に惹かれたからです。特に梅華会は、「医療を通じ日本の未来を明るくする」というミッションを掲げており、その内容に非常に共感したのを今でも覚えています。もともとコールセンター業務においても、人の役に立てる仕事をしたい気持ちが強かったので、地域に根ざして人々を豊かにしていく医療法人の事業は魅力的でした。

-梅華会では、どんな役割を期待されて入職したのですか。

理事長の右腕である事務長(梅華会ではマネージャーという位置づけ)として入職しました。当時の理事長は自身も院長を兼任しながら3クリニックの経営にあたっていたので、医経分離の推進が求められていました。

そのような中で、企業経験を通じて得た社内外とのコミュニケーション力と、医療業界にとらわれないソトの視点を評価いただき採用されました。あと評価いただいたとすれば、私の性格でもある人懐っこさですかね(笑)。

-未経験からの事務長はハードルが高いように感じますが、ギャップはありませんでしたか。

もちろん、ありました。入職当初はスタッフから医療に関する相談を受けたときに、ほとんど答えられませんでした。スタッフの悩みや困りごとを解決しながら信頼関係を築こうとしたのに、当初はそこまでに至らず、力不足を感じましたね。

ただ、医療業界未経験だからこそできたこともありました。わかりやすい例であげると、当時はタイムカードや実績報告をすべて手書きで入力しており、管理の煩雑化や無駄な作業時間が発生していました。理事長と私はここを問題視し、システム等を導入することでペーパーレス化を推進していったのです。

スタッフにとっては当たり前のことも業界経験のない私の視点から見ると、少しの工夫で患者さんに直接影響のない範囲で効率化でき、別のところにリソースを割ける方法があるのに、という気付きが多いです。そういった気付きを提案しながら業務改善を推進していったので、本来期待されていた経営の効率化にも寄与できたと思っています。

-その他、事務長を担ってから法人に起こった変化を教えてください。

私の入職前は理事長とスタッフ、院長とスタッフがダイレクトにつながった運営がされていましたが、その間に事務長が入ることで、組織の機能性が向上していきました。具体的に言うと、マーケティングなどの職種やリーダーといった役職が確立していったのです。

特にクリニックでは、スタッフが少ないからこそ指示命令系統が不明確になりがちです。そうなると、どこでどのような課題が発生しているか、誰がどの業務に責任を持っているかがあいまいになってしまいます。それでは業務改善がされにくいですし、スタッフのキャリアパスも構築できません。

そこで、事務長を起点とした報告・相談のルートをしっかりつくり、各スタッフの責任範囲をはっきりさせるところから始めました。いわゆる、組織づくりですね。最終的には職掌がはっきりした、いい意味で縦割りの体制が構築され、評価制度を導入することもできました。

-すごく価値のある取り組みですね。

これは、組織がきちんとつくられた大手企業で働いていたからできたこと。個で戦うのではなく、組織という集合体で戦うことが当たり前の環境にいたため、強みとして生かせたのだと思います。

目の前のこと+αの取り組みを

-そこからまた転職し、医療法人社団ワッフル(以下、ワッフル)に入職したきっかけを教えてください。

2017年秋頃、当時37歳、もうワンステップ自分自身を成長させたいと思ったことと、梅華会での自身の役割に一つ区切りがついたと感じたタイミングが合致したことで転職を考え、退職を申し出ました。その後、何人かの方々からお声がけいただいた中で、私自身が発起人となった診療所事務長会で、中野景司理事長に声をかけてもらったことがきっかけです。

-現在は、どのような業務を行っているのでしょうか。

梅華会と変わらないクリニックの事務長として法人全体のマネジメントをしています。ただし、ワッフルにはマネージャーとしてスタッフのまとめ役を務める職員がいるので、私はヒト以外の経営資源の管理をしています。

ワッフルは2つのクリニックを運営していますが、それぞれが病児保育も運営しているため、実質的には4事業を展開しており、それらの会計管理や業者対応、マーケティング活動が必須の業務となっています。

-最後に、キャリアに悩む事務職の方に向けて、クリニック事務長の魅力を教えてください。

事業の特性上、クリニックの事務職はスキルアップできる範囲が狭いのではないかと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、規模が小さいからこそ、ちょっとした業務の中で力を発揮するポイントがたくさんある。事務作業の改善に関わったり、経理や労務などの専門的な知識を少し身につけたりするだけで、今よりもできる業務の幅は変わっていきます。

もし、自身のキャリアに行き詰まりを感じているのであれば、環境が悪い、自身のスキルアップの機会がないと嘆くだけではなく、目の前のことに精一杯取り組みつつ、任せられていること以外のチャレンジを少しずつやってみてください。すぐには結果に結びつかなくても、変化の激しい医療業界の中で、いつか未来に役立ち、自分に返ってくることがあるのではないかと思います。

<取材・文:浅見祐樹、編集:小野茉奈佳>

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