2025年を予測した病院経営分析~学生論文~(中)

高崎健康福祉大学 健康福祉学部 医療情報学科 4年 木村研究室
花輪雪乃
松本静流

超高齢社会がもたらす経営難への打開策を探る

これまでの分析結果から、高齢化率の高い医療圏においては療養病床が多いこと、そして医師数が少なく、経営が厳しくなるということが考えられた。しかし、多くの医療圏では高齢化が避けられない。この状況下でどのような対策が打てるか、可能性を探っていくこととする。

今後、高齢化の進行とともに需要が高まると予想されるのが認知症治療病棟、地域包括ケア病棟だ。これらに着目し、それぞれ精神病棟、一般病棟から病床転換した場合、利益向上につながるのか、病床転換シミュレーションを行った。

認知症治療病棟入院料1への病床転換シミュレーション

ここでは認知症治療病棟入院料1について考える。まずは算定することで増額が見込めるのかを秋田県と群馬県の実績値から探り、その後に精神病棟入院基本料20対1からの転換シミュレーションを行う。

認知症治療病棟入院料1の導入病院数は、秋田県が7病院、群馬県が6病院であり同等数だった。

算定の有無で当期純利益額を比較すると、秋田県では算定している病院の平均額が年間2億4600万円高かった。群馬県でも算定病院の平均額が高く、年間1億8300万円の差があった。

病院数がほぼ変わらないにもかかわらず平均額に大差が出た要因としては、65歳以上人口当たり算定病床数の違いが考えられる。秋田県では106床あったのに対し、群馬県ではわずか62床だった。秋田県は高齢化率が高い分、認知症治療病棟入院料1を算定しやすく、65歳以上人口当たり算定病床とともに平均額も多くなったものと推察される。

以上のことから、算定病床数が多いほど、当期純利益額も上昇するものとみられる。

表18 秋田県の当期純利益額(単位:千円)
度数平均値標準偏差
算定有790,125150,735
算定無16-155,931247,637
p=0.027<0.05

  

表19 群馬県の当期純利益額(単位:千円)
度数平均値標準偏差
算定有6226,388150,735
算定無842,999264,315
p=0.108>0.05

  
次に、具体的にどの程度の規模で病床転換をすれば良いか、精神病棟入院基本料20対1から看護配置が同じ認知症治療病棟入院料1に転換した場合の収益を比較。

具体的には、精神科病院の平均病床数236.5床 を踏まえ、精神病棟入院基本料20対1を240床算定している病院が、その一部を認知症治療病棟入院料1に転換した場合を想定した。

使用した基本料及び加算等
(1) 精神病棟入院基本料
精神病棟入院基本料20対1(1日につき)680点
加算 14日以内の期間465点
15日以上30日以内の期間250点
31日以上90日以内の期間125点
91日以上180日以内の期間10点
  
181日以上1年以内の期間
3点
重度認知症加算(1月以内)300点
出来高料金 精神病床の入院における1日当たり出来高平均487点
認知症治療病棟入院料1(1日につき)
30日以内の期間1,809点
31日以上60日以内の期間1,501点
61日以上の期間1,203点
出来高料金 認知症リハビリテーション料36点
精神科専門療法226点

  

表20 精神病棟入院基本料20対1で321日入院した場合の入院料
患者1人1入院当たり2,953
患者1人1日当たり9
単位:千円

  

表21 認知症治療病棟入院料1で321日入院した場合の入院料
患者1人1入院当たり4,395
患者1人1日当たり14
単位:千円

  
まず、収入となる入院料を、認知症患者が321日入院した場合 を想定して比較。

精神病棟入院基本料20対1の入院料には、所定点数680点に重度認知症加算、入院日数による加算を追加し、出来高分は、精神病床への入院における出来高点数の平均を参照して1日487点を加算した。

認知症治療病棟入院料1の入院料には、日数に応じた所定点数をベースに、出来高で算定することのできる認知症リハビリテーション料として1日36点、精神科専門療法として精神病床における平均点数をもとに、1日226点を加算した。

以上の条件で、認知症患者1人が入院した場合、認知症患者が精神病棟入院基本料20対1の入院料は1入院当たり295万3400円、1日当たり9200円となった。一方で認知症治療病棟入院料1では、1入院当たり439万5100円、1日当たり1万3700円となった。

これらのことから、精神病棟入院基本料20対1に比べ認知症治療病棟入院料1の方が、患者1人につき1入院当たり144万1700円、1日当たり4500円高くなることが分かった。

また、認知症治療病棟入院料における1看護単位は40床から60床であるため、40床・50床・60床それぞれ転換した場合を想定。40床転換した場合は、年間6556万8600円、50床転換した場合は年間8196万800円、60床転換した場合は年間9835万2900の増収が見込まれた。

表22 認知症治療病棟入院料1に転換した場合の収益の差額
1日当たり差額年間当たり差額
40床転換18065,569
50床転換22581,961
60床転換27098,353

  

表23 認知症治療病棟入院料1に転換した場合の人件費の差額
看護師看護補助者作業療法士精神保健福祉士年間差額
40床転換43,1904,4194,30051,909
50床転換36,63543,1904,4194,30088,544
60床転換64,7854,4194,30073,504

  
次に、主な支出となる人件費 を比較した。

精神病棟入院基本料20対1から認知症治療病棟入院料1に転換する場合、作業療法士・精神保健福祉士をそれぞれ1名、看護補助者を25対1で配置する必要がある。これに、本シミュレーションのモデル病院が精神病棟入院基本料20対1を240床算定していることを踏まえて人件費を算出した。

その結果、40床転換した場合は年間5190万9000円、50床転換した場合は年間8854万4000円、60床転換した場合は年間7350万4000円の人件費上昇が見込まれた。

ここまでに算出した入院料から人件費を差し引くと、精神病棟入院基本料20対1から認知症治療病棟入院料1に転換した場合は、年間1364万5000円、60床転換した場合は年間2482万7000円利益が上がった。しかし、50床転換した場合のみ看護師の人数が増えるため、年間658万3000円利益が下がった。

表24 認知症治療病棟入院料1に転換した場合の年間利益の差額
年間利益の差額
40床転換+13,645
50床転換-6,583
60床転換+24,827

  
以上のことから、精神病棟入院基本料20対1を240床算定している病院で認知症患者を入院させる場合、認知症治療病棟入院料1に40床または60床転換することで利益向上が期待できる。

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