公衆衛生系大学院(SPH)進学した事務長/地域医療連携室長に聞く!病院事務職が「学び直し」する意義とは? 済生会熊本病院―病院マーケティング新時代(44)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

目次

本連載42回目から執筆者に加わった済生会熊本病院・地域医療連携室室長の松岡佳孝さんは、業務と並行しながら、2022年4月に九州大学のSPH(公衆衛生系大学院)に進学されました。実は同じ病院の田﨑年晃事務長も、九州大学SPHに進学された経験を持つそうです。お二人に院内における事務職の存在価値や、病院事務職のキャリア形成について伺いました。(前編)

▼松岡さん執筆の記事はこちら

済生会熊本病院 事務長 田﨑年晃さん(左)、医療連携部地域医療連携室室長 松岡佳孝さん

済生会熊本病院で、事務職の「存在価値」が高い理由

──済生会熊本病院の正職員2,117名のうち、事務スタッフは452名(2022年10月現在)で20%を超えるとか。病院の事務職員比率としては多いですね。

田﨑事務長:私は1997年入職ですが、当時は少なかったですよ。2001年当時の事務職員数をみると90名。20年かけて徐々に拡大してきた形です。

入職翌年にあたる1998年は、ちょうど日本版DRG(Diagnosis Related Group)による定額払い方式が試行された年。DPC制度(DPC/PDPS)がスタートし、事務職に求められる仕事が目まぐるしく変化していくのを感じていました。

その後、各部門での増員のほか、医療秘書室、薬剤や器材など購買調達を担当する購買部、教育・研究部、医療情報部など新部門の創設もあり、事務職の役割は多様化していきます。2015年には300名を突破。現在の452名に至ります。

──事務職員の増員について、経営層の理解を得るのは大変ではなかったですか。

田﨑事務長:経営層は「病院の持続的発展のために、顧客満足を強化することは極めて重要」と考えますから、まず、医療サービスの第一線に近い部門を中心に、増員してきたのがよかったのかもしれません。

歴代院長も、事務部門の重要性と存在価値を認めています。

松岡地域医療連携室室長:他の病院の事務職の方から、「医療職との“コミュニケーションの障壁”がある」というお話をよく伺うのですが、当院では感じることはありません。

事務職員一人ひとりが病院経営・医療現場を徹底してサポートしてきた姿勢が、「事務職」の存在価値を高めてきたのと思います。「医療職が力を発揮できる環境づくりを進めるには、事務職員の役割が重要だ」という考えが浸透しています。

私も当院に入職して以来、事務職に対する医療職の信頼が厚いと感じています。

──貴院では毎年経営マネジメント職も採用されているそうですね。

田﨑事務長:はい。経営マネジメント職は2003年から毎年数名採用しています。

病院事務職は定型的業務が多いですが、非定型の戦略的業務を担うことも求められます。
経営マネジメント職は、定型的業務能力を備えつつ、どの部門に従事しても広い視野を持ち、病院全体、医療業界、社会の動きを捉えることができる人材で、現在80名を超えました。

様々な部門をローテーションすることで現場経験を積むと同時に、資格取得や大学院進学など院内外での学習の機会を提供しています。

これらの人材が育ち、院内で様々な実績を重ねてきたことも、事務職の存在価値を高めていけた理由だと思います。

大学院進学は「不確実な世の中で医療経営を考えるため」

──人材育成の一環として大学院進学支援があるのですね。松岡さんはなぜ大学院進学を希望されたのですか?

松岡地域医療連携室室長:大学時代にお世話になった先生が、社会人経験を積みMBAを取得されていました。常に“実務と学問と繋ぐ面白さ”を語っていらっしゃったことが印象的で、私も「社会人になってから大学院に進みたい」と考えていました。

田﨑事務長が大学院に進学されていたことを知ったのは、当院入職後です。

MBA留学・九大SPH進学のどちらを選ぶべきか迷っていて、田﨑事務長にも相談させていただいていたのですが、「不確実な世の中で医療経営を考えるには先見の明が必要。そのためにはMBAではなく九大SPHが良いだろう」と決意。田﨑事務長にも、背中を押していただきました。

家族とも相談して、進学するならこのタイミングと考え、2022年度から進学しています。

──田﨑さんは、松岡さんから九大SPHへの進学について相談されたときどのように感じましたか。

田﨑事務長:MBAと迷っている数年間は、本人の選択を見守っていました。ただ、進学するなら彼の年齢・経験・ポジションを踏まえても今が最適だろうと思っていたので、決意したことを聞いたときは嬉しかったですね。

──最近、社会人の学びが注目されるようになり、「リスキリング(学び直し)」という言葉を耳にする機会も増えました。経営マネジメントを担う病院事務職が、大学院に進学する意義をどのように考えますか。

田﨑事務長:一口に大学院進学と言っても、得られるものは自分の意欲・行動次第です。
ただ、病院という組織を外から見る貴重な機会になることは間違いありません。
実務を経験しているとアカデミアとの乖離も感じますが、様々な領域の方と接し、対外試合の経験を重ねることもできます。

病院事務職員に限らず、不確実性が高く、将来の予測が困難な時代を生き抜くためにはリスキリング(学び直し)は必要でしょう。

とはいえ、業務と並行しながら社会人大学院に進学することは、金銭面はもちろん、心身にも大きな負担がかかります。覚悟を持って挑戦しようとする人材に対して、当院ではできる限りの支援を行う制度も設けています。

後編に続く)

>>半沢直樹に学ぶ、“強い”経営マネジメントスタッフの育成~医療マーケティングの一丁目一番地とは~―病院マーケティング新時代(43)

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