野々下みどり(ののした・みどり)
株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり社会医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者。
目次
そろそろ秋の気配も
毎日のように猛暑日と新型コロナウィルス感染拡大のニュースが続いていますが、久しぶりに行動制限されない夏ですね。うちの事務所前に広がる海辺も、連日多くの人で賑わっています。
実は梅雨前に「せっかくだから雨の日も楽しくなるように」と、新しいレインシューズを購入していました。珍しくそんなレイングッズを買ったせいか、瞬く間に梅雨は明け、この猛暑に突入。おかげでそのレインシューズは一度も履いていません。
まだまだ日中の暑さにはまいりますが、朝晩は少し涼しい風も吹き始めました。虫の声も、秋を感じさせる鳴き声に変化してきています。
憧れの存在は、自分を見失ったときの目印になる
さて、先日素敵な女性にお会いする機会がありました。
医療・福祉業界の方ではないのですが、その話し方や所作、気遣いなどが素敵で、一瞬でファンになってしまいました。魅力を上手く表現できないのですが、オーラというか雰囲気というか……。「こんなかっこいい女性、仕事人になりたいな」と思ったのです。
目指す存在、憧れの存在がいるのは、いいものですよね。日常に追われて自分を見失ったり、冷静でいられなくなったりした時に、「自分はどうなりたいんだったっけ」と立ち返る目印になります。
しかし、”理想像”が強くなりすぎると、問題が生じることもあります。
先日、複数の病院のスタッフの方々とお話したのですが、違う病院なのに、同じような不満を抱えていました。「事務長はこうあるべきなのに、うちの事務長は違う!」。他人に理想像を押し付けてしまっている例です。
「事務長はこうあるべきじゃないですか?」
ある方から出た言葉は「上司ってこんな風に指導すべきじゃないですか」。勝手に作り上げた理想像と、自分の上司を比較して嘆いていました。
「どの病院にも、ちゃんとした上司がいるはずでしょう」。ドラマや映画の世界だとそうかもしれませんが、現実の世界となると本当にそれが当たり前なのでしょうか。
様々な病院が組織やリーダーの問題を抱えており、コンサルティング業をしている私にも多くのご相談をいただきます。病院勤務時代を振り返っても、「目標とする・憧れの存在、上司が身近にいる環境」は理想的ではありますが、当然ではないと思います。
ある病院でも、その部署のリーダーから事務長の愚痴を聞きました。「事務長はこうあるべき」「事務長がしっかりしていないから、私たちスタッフは疲弊している」との主張。
実は私も病院勤務時代、このリーダーのように思っていた時期が少なからずあります。「私たちは頑張っているんだから、上(院長や事務長)はもっと頑張ってよ」「上司だから、やるのは当たり前でしょう」と思っていました。なんと横柄で生意気なことでしょう。
今なら事務長やトップの気持ちも多少分かりますので、このリーダーにもつい「上司の苦労や抱えている責任も知らないくせに」と言いたい気持ちに……。しかし、私も当時はそんなことを知ろうとも思わなかったので、どちらの立場もわかる分、複雑な気持ちになりました。
強すぎる「べき」は、自分も周りも疲弊させる
自身や他者に抱く理想像が自分や周りを追い詰めてしまうこともあるでしょう。
現実と理想の差が大きければ大きいほど、「やらなければ」「させなければ」と気負いがちです。あまりに「~であるべき」が強いと、自分も周りも疲弊していくように感じます。
病院勤務時代、特に中間管理職時代は余裕がなく、相手が約束の時間から5分遅刻したら「社会人としてありえない!もう会わない!」と不機嫌になっていました(元々、自分の時間を誰かに左右されたくないわがままな性格だということもあるのですが)。尖ってガチガチの状態です。
今は少し歳を取ったせいか、「理想に囚われて、ガチガチになっていてはいけないな」と思うようになりました。相手が遅刻しても、「自分も遅れることはあるしね」と少しは思えるようになってきました(笑)。
四角四面に理想を完璧に実現しようとするよりも、波のようにふわふわした状態で構えていた方が柔軟に対応できますし、身体や心の疲弊も少なくてすみます。
しなやかなに、強(したた)かに、は最近の私のモットーです。
“反面上司”だった私が…
先程、「憧れの存在、上司が身近にいる環境は理想的だが、当たり前ではない」という話をしましたが、私が病院勤務時代も「憧れの上司」はいなかったように思います。若い頃は上司に反発していましたし…自分の理想像が不明瞭だったせいかもしれません。
誰を目指すわけでもなく(それは良いとも悪いとも言えませんが)自分勝手に走るしかありませんでした。余裕がなく、我が身を振り返れないまま走り続けていた私自身も、部下にとっては“憧れの上司”ではなく、“反面上司”だったと自覚しています。
ところが先日、以前の職場の部下から「話を聞いてほしい」と連絡がありました。やりたいことは見えているようだったので、「大丈夫だよ。思ったまま進みなさい」と伝えましたが、実は嬉しい気持ちでいっぱいでした。「私に背中を押して欲しいと思ってくれる部下が、1人でもいたんだ」と。
私のもう一つのモットーは「関わった人を元気にしたい」。部下の描く“理想の上司像”に近づけるものなら近づきたいけれど、まずは自分自身の理想に向かって進むことが、案外部下から信頼される近道になるのかもしれません。
神社の大木を見上げて思ったこと
私の自宅近くには神社があり、樹齢100年以上とみられる大木が立っています。先日、蝉の声につられてその木を改めて見上げてみました。
この木は、私が生まれるずっと前からここにいる。どんな風景を見守ってきたのでしょう。「存在し続けるということは偉大なこと。当たり前のようで当たり前ではない」としみじみ思いました。
医療や介護、福祉は地域の大切な資源です。皆さんの病院やクリニック、施設が今後も地域に存続することができるかどうか。大切な資源を、これからの未来にどうつなげていくのか。そんなことを真剣に考えながら、たった一度の人生を使って働くことも素敵ですね。
もし、地域のために使命感を持って働き続けることができたなら――。そんな事務長はきっと、誰かにとっての理想の事務長になっていると思います。
≪≪「今の自分」「できない自分」を受け入れましょう【第32回】ー事務長の悩みは99%解決できる
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