目次
- 「断らない診療」でも応需出来ない8~9%。空かないベッド問題をどう改善するか?
- コロナ禍でも、経営の布石を打っていた!診療の質向上のために重視した3つの指標
- 「良い病院には、良いリーダーと優れた文化あり」優れた病院長に必要な資質とは
ちば医経塾井上貴裕塾長と兵庫県立尼崎総合医療センター平家俊男院長の対談第2回目。新設した患者サポートセンターでの、働き方改革と患者さんの利便性向上の取り組みを伺いました。また2つの県立病院統合によって2015年に開院し、「第2ステージ」に突入したという兵庫県立尼崎総合医療センターのマネジメントについても話していただいています。
【対談】
「断らない診療」でも応需出来ない8~9%。空かないベッド問題をどう改善するか?
井上:尼崎総合医療センターの救急医療の方針について教えてください。
平家:私の病院は以前から「断らない診療」を掲げ、本院でしかできないような高度な診療については絶対に断らないという方針を貫いています。同時に、0.5次救急や1次救急は周囲の病院と連携し、地域一体型で対応すべきとも強く感じています。
井上:応需率についてはいかがですか。
平家:コロナ前は100%まではいきませんが、95%前後の応需率でした。しかし今は少し下がっていて、91~92%。どうしても8~9%は応需できない症例が出ている状況です。特に高齢の患者はスムーズに退院できないことがあります。そのためベッドに空きができず、応需できない状況が発生しているのです。
井上:早期の転院に向けて、後方支援病院など周囲の病院との連携が重要になるのですね。ところで、新規患者の開拓は具体的にどのようなことをするのですか。
平家:地域の開業の先生たち、医療機関に向けて、私たちが立っている位置・今どのような患者さん対して質の高い特色ある医療を提供できるかなどを、さまざまな媒体、機会を活用してアピールしています。その反応を見ながら、担当診療科医師・事務方が1軒1軒訪問して患者紹介を依頼しています。
地域での講習会や医師会との勉強会などの企画はもちろんのことです。総論として捉えるだけではなく、診療科別のピンポイントでの企画も積極的に実施しています。
コロナ禍でも、経営の布石を打っていた!診療の質向上のために重視した3つの指標
井上:県立病院の中でも業績の良いところ、悪いところがあります。人口などの外部環境が影響するのか、あるいは病院長のリーダーシップなど内部環境が影響するのか、どのようにお考えですか。
平家:2つのポイントがあると思います。
まず地の利です。阪神地域は非常に人口が多い地域で、阪神北と阪神南あわせて約170万人、大阪まで含めると220~230万人のバックグラウンドがあります。
もう1つは、私の着任時から取り組んでいたことですが、経営の指標としてDPCとクリニカルパス、PFM(patient-flow-management)の3つをうまく連動しながら診療の質を上げている点です。各診療科だけでなく、他職種を含めて、情報・方針を共有した上での話です。
井上:それぞれに詳しく教えていただけますか。
DPCについては主な診療科は年に2回、現在の状況・取り扱っている疾患・他院との比較・今後の方針など、自院の診療科を知るための取り組みを行っています。
クリニカルパスについては現在、救急も含めて随時70%程度の症例が適応となっています。1年ほど前まではクリニカルパスの適応率を高めることに取り組んで来ましたが、今はクリニカルパスの内容に一歩深く踏み込み、作成や修正を行っています。
本院の基本設計は、病院が開院した8年ほど前からさらに5、6年遡ります。しかし、この10年ほどの間の医療を取り巻く状況の変化は激しいものがあります。そのため、患者サポートという観点からは、本院ではさまざまな機能が分散していて、患者さんがあちこちを移動しなければならない状況が生まれていました。基本設計時にはPFMという概念も十分には行き渡っていない時代でしたので、致し方なかった面はあります。そこで県の協力を得て2023年に、病院に隣接する形で「患者サポートセンター」を建設しました。
これを機に、各科でバラバラに行っていた患者さんの聞き取りをひとつのフォームでまとめて行うようにするなど、働き方改革と患者さんの利便性向上の両面を考えた業務の見直しを行ったのです。
井上:新設した患者サポートセンターには、ほかにも機能があるのですか。
平家:患者サポートセンターに加えて「がんセンター」と「放射線診断科」の機能も盛り込みました。がん診療については、2021年に国指定のがん診療連携拠点病院として指定され、2023年11月には京都大学のがんゲノム医療連携病院にもなっています。
放射線科については、これまで放射線診断室も複数に分かれていたものを、一箇所にまとめて放射線科医が働きやすいように配慮しました。
心残りな点もあります。全職人2000人余りは無理だとしても、医師430人が一堂に集まれる講堂ができなかったことです。これについては従来の講堂とWEB配信などを工夫しながら取り組んで行こうと考えています。
このように私たちは座してコロナ診療をしていただけではありません。次の展開に向けてさまざまな布石を打ってきており、少しずつ結実している状況です。
「良い病院には、良いリーダーと優れた文化あり」優れた病院長に必要な資質とは
井上:その他、病院経営上の課題や取り組むべきことがあれば教えてください。
平家:センター開院後のいわゆる“第1ステージ”は、とにかく無事に統合し、診療を円滑に始めることが重要でした。私が着任したとき、職員がとにかくよく働くことに驚いたものです。そして今、“第2ステージ”に入っています。これからは組織としてさらに成熟していくことが求められます。
病院統合時には、強いリーダーシップを持ち、ある意味では独善的に進めていかなければならないシーンもあります。しかし、統合を果たした後にはそれだけでは不十分です。これ程大きな組織を運営するのですから、トップダウンだけでは絶対に無理だからです。
すべての面において私の目を行き届かせることは不可能ですから、各職員が病院の課題を捉え、どうすれば解決できるかを我が事として考えていく文化を作ることが重要です。そうすれば、病院としてさらに一段ステージを上がることができるのだと考えています。
井上:おっしゃる通り、良い病院には良いリーダーと優れた文化があると私も考えています。最後に、これからリーダーになる人たちへメッセージをお願いします。
平家:私は歴史が好きで歴史から色々と考えることがあるのですが、リーダーと一口にいっても、平時のリーダー・危機的な状況におけるリーダーなどさまざまな視点があります。総論として言えることは、優れたリーダーに共通することは、ストーリーを作って提示し、それを継続できることだと考えています。なかなか思い通りに行かない時期もあるとは思いますが。
リーダーシップを発揮してがむしゃらに努力することもときには必要ですが、場合によってはあえて少し放っておく。そんな寛容な精神も必要ではないでしょうか。
柔軟な発想を持って、病院長としてのストーリーを皆に響くように提示し、それを実現できるように皆と共に継続して活動していくことが、何よりも重要だと私は考えています。
井上:ありがとうございました。
>>県立病院統合直後に就任した院長が語る「あの頃」と現在~ちば医経塾塾長・井上貴裕の病院長対談vol.4
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