医療通訳-「患者さんに寄り添うために、医療者に寄り添う」


一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ
理事 澤田真弓

2017年7月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

全国の医療機関向けに電話による医療通訳を提供する活動を始めて約3年が経った。サービスやプロダクトに組織作り、いくつもの壁をチームで乗り越え、電話医療通訳のメディフォンは、現在800以上の医療機関に利用いただき、外国人患者と医療者の会話を医療通訳者がサポートしている。日々課題が尽きることはないが、事業の成長とともにチームと喜びを味わう時間も増えてきたように思う。

私たちが活動する外国人医療支援に係る領域は、課題を抱える外国人患者と医療者の間で、志あるボランティアの医療通訳者が活動することで支えられてきた。高度な専門性を持ち、命にかかわる場面で重大な責任を担う勇気ある医療通訳者たちが、持続的に生き生きと自分の意志で納得して活躍できるよう、私たちは本活動を事業として続けている。東京五輪の開催決定や訪日外国人数の増加といった外的環境の変化も相まって、外国人医療支援の輪は徐々に全国に広がってきた。

本活動を続ける中、いくつかの大きな失敗をした。

失敗し、事業の戦略や戦術を見直す度、患者さんに向き合うことを優先した。どの医療者と話しても、患者さんを向き、患者さんのために身を尽くしているからだ。さらに私自身のキャリア形成がIT業界であったことも影響し、いつもユーザーのため、つまりエンドユーザーに向き合うことが解であると、強く信じていた。でも、上手くいかないことが増えていった。患者さんであるエンドユーザーを向いていれば、必ず光は見えるはずなのに。チームで迷い始めた。

そのような時、メディフォンを初期から応援してくださっているクライアント医療機関の方とお話する機会があった。外国人患者受け入れを担当するコーディネーター部門を統括しているその方に、医療チームにおけるコーディネーターの役割とは何であるかと、尋ねた。医療通訳を効率的に使いこなすことも仕事の一つであるコーディネーターの方々が、医療チームにおける彼らの本質的な役割をどのように認識されているかを知ることは、私たちの今後の活動を正しく方向付けるヒントになると考えたのだ。彼の回答は意外なものだった。

「医師を見ている。どのようにすれば医師が気持ち良く働けるかを考え、動いている。」

医師、看護師、技師、その他全ての医療チームのメンバーは、患者さんのために全力で仕事をしている。そして、そのチームの医療の結果に責任を持つのは医師であり、そのプレッシャーは計り知れない。医師の負担を少しでも和らげ、快適に仕事をしてもらうことが、チーム全体の医療パフォーマンス向上につながると考えている。だから患者さんを受け入れた後は医師を支えることに注力する、というのだ。

目から鱗が落ちるようだった。医療通訳者はどうか。患者さんを救いたい、患者さんが安心して満足する医療を届けたいという想いは彼らと同じだ。だからこそ、医療者の横に並んで患者さんと向き合うのではなく、私たちは医療者に向き合うのだ。

「私たちは、患者さんに寄り添うために、医療者に寄り添うべきなのではないか。」

帰社してチームに提案をし、意図を説明した。それぞれのメンバーの表情から、胸にすとんと落ちたことが見て取れた。

まだ改善途上ではあるが、チームとしてのアクションの方向性に光が見えた。6月からは医療通訳ラインとは別に、医療機関向けコーディネーターラインを新設し、外国人患者の受け入れで困った時や、医療通訳の利用方法、患者さんの話す言語が不明な際、気軽に相談することができるサポートを開始した。個別のケースに応じた交通整理を実施した上で、適切な医療通訳者にそのまま接続する流れを作るのだ。医療機関からのフィードバックを全医療通訳者に細かに即時報告するオペレーションも開始した。本年度から開講している外国人患者受入れコーディネーター研修プログラムは、全国各地で開催できないかを模索しているところだ。

「患者さんに寄り添うために、医療者に寄り添う」― これからも壁が立ちはだかるその度に、ふと立ち戻れば正しく役割を全うさせてくれる、そのような力のある言葉にしていきたいと思う。

(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

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