医師の働き方改革が進む中、医師のサポート役として注目される「医師事務作業補助者」。2008年度の診療報酬改定からはその配置が評価されるようになり(医師事務作業補助体制加算)、新たな職種として確立したものの、彼らのマネジメント方法は各病院に委ねられています。そんな中、2008年から医師事務作業補助者の育成を始め、今や総勢40名にまで成長しているのが荻窪病院(252床、東京都杉並区)です。前編では、医師から見た医師事務作業補助者のメリットを、副院長の石井康宏先生に伺いました。(前編・後編の全2回)
はじまりは、医師のためではなく患者さんのため
―貴院は2008年度に加算ができる少し前から、医師事務作業補助者の育成を始めたそうですね。狙いは何だったのでしょうか。
石井先生(副院長)
実は医師のためというよりは、患者さんのためになると思ったからです。医師は診療の最終責任者という面もあって、患者さんの入院診断書をはじめ、たくさんの書類を受け持っています。しかし、医師が何よりも優先すべきなのは目の前の患者さんを助けること。事務作業はどんどん後回しになり、依頼された書類ができるのはずいぶん先、ときには1ヶ月後といった時間差が生じていたのです。
そんなとき、国際医療福祉大学の武藤正樹先生から医師の事務作業をサポートする職種ができるという構想を教えていただいたのです。院長と、医師と患者さんの双方が助かる職種だと判断し、さっそく既存スタッフから育成を開始。まずは長期間かかっていた書類を1週間で準備することを目指してスタートしました。
―長年にわたって書類業務も行っていた医師なら、最初は「事務職にできるのか?」といった疑問や不安を感じる人もいたと思います。そういったとき、貴院では医師の意識改革をどのように進めていったのでしょうか。
言葉で説明しても伝わらないと思ったので、現場で実践しながら理解を広めていきました。
たしかに、はじめは「自分でやったほうが早い」「教えるほうが手間取る」と感じましたし、周りの医師もそう思っていた節があるでしょう。それでも将来像を思い描きながら、教え続けました。ゼロからのスタートだったので医師事務作業補助者としてひとり立ちするまで2~3年、チームの体制ができるまで5年ほどかかったのではないでしょうか。
そして組織を変えるには、ときに大胆な発想も必要でした。ある研究会で「わたしが担当する循環器外来は処置が少ないから看護師はいらない、すべて医師事務作業補助者でできる」と呼びかけたことがあります。これは誰かを敵に回そうとして言ったわけでなく、みんなの興味を引くために言ったこと。既存の業務割り振りをスタッフたちに見直してもらうには、このくらいのインパクトが必要だったのです。
―医師の目から見て医師事務作業補助者という職種の魅力は、どんなところにあると思いますか。
受付や医事などと比べて、より患者さんに近いことだと感じます。もしかしたらコメディカルよりも近いと感じられる瞬間があるかもしれません。というのも、他の職種は診察室をはさんだうえで患者さんと間接的に関わりますが、外来支援の医師事務作業補助者は診察室内で医師と患者さんの会話をすべて聞いています。その分、責任も生じるし、一人ひとり丁寧に対応しなければならない点はありますが、より医療現場に踏み込んでいる実感を得やすいのではないでしょうか。
40人全員が常勤だからできること
―現状、全国的には非常勤雇用の医師事務作業補助者も多い印象ですが、貴院は全員を常勤雇用している理由を教えてください。
教育面を考えると、病院にとって非常勤では割に合いません。当院でも立ち上げ1年目は派遣社員に頼っていた時期もありますが、派遣から正社員に切り替えた人もいますし、その後は基本的に常勤で採用しています。業務が限られているなら非常勤でもいいかもしれませんが、教育を受けた後に責任を持って業務にあたってもらうとなれば、当人たちにとっても割に合わないでしょうし、数年で辞めてしまってはお互いにもったいない。
当院は2008年から職員が育ち教育体制が整ってきたので、2013年には専門学校からの新卒を受け入れています。彼女らはしっかりした研修制度のもとであれば、約1年で一人前になりますから、新卒だからといってデメリットも感じていません。医師事務作業補助者の待遇改善は、業界全体で取り組んでいくべきことかもしれませんね。
―荻窪病院で医師事務作業補助者を導入して10年、具体的に業務改善がどれだけできたのかという実績はありますか。
正直なところ、医師事務作業補助者を導入したから業務が効率化した、患者数や手術数が増えた、というデータを出すのは難しいのが現状です。患者数や手術数を指標にしたとしても、それは病院の評判がよくなって患者さんがたくさん来たからかもしれないし、医師の技術が向上したという側面があるかもしれないからです。それでもわたしたちが10年にわたって活用しているのは、実感値で効果があるから。
ただ、その数値情報がなければ導入に踏み切れない医療機関もあるはずなので、数値化のよりよい方法を業界全体で見つけていきたいです。そのためには、わたしたちももっと発信をして、医師事務作業補助者の存在意義を伝えていきたいと思っています。
―最後に、今後の展望を教えてください。
わたしは、高校生が憧れの職業として医師事務作業補助者を挙げるくらい、職種のブランド力を上げたいと思っています。実際、「医師のそばに立ってかっこいい」と言われる仕事だと思いますし、今も着実に近づいていると信じています。こう思っているのも医師事務作業補助者がいなければ、わたしの仕事は回らないと痛感しているからです。医師事務作業補助者は日本の医療を支える、存在価値が高い職種なのだと病院としても示していきたいと思います。
<取材・写真・文:小野茉奈佳>
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