前回は、初診料の考え方と同日複数科受診の算定について解説しました。特に複数科受診の際の診療科のくくりは医療法上の標榜科で判断すると解説しましたが、このことに対する医療事務の認識の甘さを嘆く医療機関は少なくありません。先日も、ある循環器疾患に特化した医療機関の関係者と話をしたとき、同日2科目受診の初診料が算定できていないことが発覚。担当者は保険請求を請け負う会社のスタッフだったのですが、何ともお粗末なことです。最近の業務委託会社は人材不足が深刻な様子で、初心者が請求事務全般を担っていることがあり、このようなことが起きているのかもしれません。
疾病よりも症状・徴候に着目する
さて、初診料算定のポイントには続きがあります。細かい保険診療の取り扱いでは、次のような解釈も算定要件とされていますので、確認しておきましょう。
- 患者が異和を訴え診療を求めた場合において、診断の結果、疾病と認むべき徴候のない場合にあっても初診料を算定できる。
- 自他覚症状がなく健康診断を目的とする受診により疾病が発見された患者について、当該保険医が、特に治療の必要性を認め治療を開始した場合には、初診料は算定できない。(筆者注:他の診断・治療部分の保険請求は可能)。
つまり初診料とは、疾病の有無ではなく、初回受診時の症状・徴候が重要なのです。したがって個別指導対策など、適切な保険診療のためには、診療録への主訴の記載が大切になります。
「時間外・夜間」は、患者への説明を
さて、最後に「時間外・夜間」についてです。初診料の加算では、非常に複雑な設定となっています。時間外加算(深夜加算の時間区分等)、診療所の夜間・早期等加算、救急医療機関で時間外加算の特例に指定される場合など、それぞれの医療機関が、自院の届出に対応した「時間外・夜間」の診療時間を認識する必要があります。
さらに、最近は、緊急を要しない症状で救急外来を受診する患者には、時間外の選定療養費(自費)を徴収することが増えています。金額は医療機関ごとに異なりますが、私の勤務する医療機関(東京都新宿区)では、2014年12月から8,640円(税込)を徴収しています。導入時には患者数が減るのでは、患者とのトラブルが多発するのではと心配しましたが、大きな問題にはなりませんでした。
ちなみに、当院は次のような掲示で時間外選定療養費のお知らせをしています。
ただしトラブル回避のためには、救急外来への問い合わせ(電話)で、「別途費用がかかる」という事前説明を看護師が必ず行うこと。そして救急受付ではしっかりと同意を得て、診察後に緊急性があると医師が判断した場合は対象外にするなど、1つ1つのプロセスを確実に行うことが重要です。
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国立研究開発法人 国立国際医療研究センター医事管理課長/診療情報管理室長、国際医療福祉大学院 診療情報管理学修士。1987年、財団法人癌研究会附属病院に入職後、大学病院や民間病院グループを経て現職。その間、診療情報管理士、診療情報管理士指導者などを取得。現在、日本診療情報管理士会副会長、日本診療情報管理学会理事、医師事務作業補助者コース小委員会 委員長などを務める。
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