南相馬市立総合病院
尾崎章彦
2017年1月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
1.これまでの経緯 「唯一の常勤医の死亡」
高野病院を支援する会の事務局長を務めている南相馬市立総合病院の尾崎章彦と申します。高野病院は、福島県双葉郡広野町に位置する民間病院です。震災後、高野病院は広野町周辺地域で唯一入院診療が可能な医療機関として、地域の復興を支えてきました。その中で、81歳というご高齢にも関わらず、唯一の常勤医として診療を行ってきたのが高野英男氏でした。そんな高野英男氏が2016年12月30日自宅での火事で亡くなったことで、高野病院は存続の危機に立っています。
幸い、一月初旬の時点で、全国からボランティアとしての勤務を希望する医師からの申し込みが相次ぎました。その結果、もともと非常勤で勤務されていた杏林大学やDMATの医師の他、ボランティア医師30名前後で1月の診療を行う体制は整いました。また、2~3月に関しては、都立駒込病院の中山祐次郎医師が院長・常勤医としての任にあたってくださることになりました。しかし、4月以降の診療体制は全くの未定です。また、人口減少や人材確保の困難、人件費の高騰を背景に、震災後の高野病院の運営はかなり厳しい状態であり、安定的な運営には、行政からの経済的な支援が不可欠な状況でした。
振り返ること2016年12月31日、高野病院において、高野院長の次女でいらっしゃる高野己保理事長、三浦爾福島県障がい福祉課課長、平信二福島県地域医療課長、遠藤智広野町町長、南相馬市立総合病院金澤幸夫院長などが出席して今後の体制に関する会議が行われました。その中で、高野理事長より、「患者、スタッフ、地域医療を守るために、病院を無償提供する」という旨が広野町・福島県に伝えられ、その言葉に対する対応も待たれていました。1月3日には遠藤町長が高野病院に対する支援を表明されました。さらに、1月4日には内堀雅雄福島県知事がそれぞれ高野病院を支援する旨を表明されたことで、県がイニシアチブをとって今回の事態に当たることが期待されていました。
高野病院の危機的状況を受けて、1月6日以降、福島県、広野町、高野病院の間で、緊急会議が行われる運びとなりました。残念ながら、1月6日の会議では福島県からなんら具体的な方針は示されませんでした。それを受けて、1月18日第二回の会議が行われました。今回の文章では、その内容を報告したいと思います。また、会議終了後、会議の内容を踏まえて、高野己保理事長と平信二地域医療課長と電話にてやりとりがありましたので、その内容もご報告いたします。
2.会議のまとめ 「ゼロ回答」「経営責任を負う院長は派遣しない」
12月31日以降、高野病院としては再三にわたり無償提供の申し出を行ってきたにもかかわらず、今回の緊急会議の内容は、「ゼロ回答」と言っても良い内容でした。
ヒトに関して、県としては常勤医の派遣は検討する。一方で、経営責任を負う院長(管理者)の派遣は不可能なので、高野病院として独自に見つけるようにとの回答でした。また、県から複数の経済支援策は提案されましたが、「焼け石に水」といった内容でした。残念ですが、4月までに新たな院長(管理者)を高野病院として見つけることができない場合、医療法上、病院の存続が不可能になります。加えて、仮に院長を見つけることができたとしても、抜本的な経済支援策が提示されない場合、経済的に安定して地域医療を提供することが不可能です。残念ながら、今回の会議の内容は、高野病院、また支援する会が求めてきたものとは溝があると言わざるを得ません
3. 緊急会議の詳細
福島県立医科大学の担当者は欠席でした。
会議冒頭、広野町の遠藤智町長より、1月のボランティア医師の状況、2-3月の中山祐次郎医師の赴任、また、クラウドファンディングReady forの達成状況について説明がありました。その上で、4月以降の医師の赴任に関しては全くの未定である旨のご説明がありました。
また、高野病院を支援する会事務局長の尾崎章彦より、支援する会は急場をしのぐために作られた組織であり、数か月にわたる長期的な支援は困難であるとの旨を補足しました。
平信二地域医療課長より、高野病院に対する県の支援に関して説明がありました。その中で、4月以降の常勤医の派遣は検討するが、県として院長の派遣は行わないと明言されました。また、人件費補助(新たに赴任する中山医師も対象)、施設設備整備費補助、運営費補助などの経済的支援の提案がありました。
福島復興局庁の木幡浩様より、現在に至るまでの行政の対応は、危機管理という意味では残念な状況であり、外に向けて、明確に県の方針を表明していったほうがよいとのお話がありました。国・厚労省としては、まず県として対応して欲しいとのことでした。
高野己保理事長、堀川章仁双葉郡医師会会長から、双葉郡において安定的に地域医療を継続するということを最優先に考えて欲しいとのお言葉がありました。
4.県によるブリーフィング 「高野病院から無償提供の申し出はない」
その後、平信二地域医療課長から記者さんへのブリーフィングがありました。その中で「高野病院からは県や町に経営を移譲したいという意向があるようですが、その点について議論はありましたか?」との質問に対して平地域医療課長は、「特にご意見はありませんでした」と答えられました。その後、記者さんと「コメントもない?」「はい」というやりとりが交わされました。
5.高野病院の見解 「患者さん、スタッフ、地域医療を守るために、病院を無償提供したい」
ブリーフィングにおける平信二地域医療課長と記者さんのやりとりに関して、高野理事長としては、「12月31日以降、私たちが再三県に要請してきた高野病院の無償提供とは異なる内容であり、大変遺憾である。」とのコメントがありました。
その上で、高野理事長自ら平信二地域医療課長に電話にてご連絡し、「(12月) 31日にお話ししている通り、医療が継続されて、支援が受けられるのであれば、(高野)病院を無償提供します。そして、私が出ていきますということをずっとお話しさせていただいています。」「私では患者さんやスタッフ、ましてやこの大きな地域医療を守ることは不可能である。」「民間であるがゆえに支援が難しいという風におっしゃられるのであれば、無償提供します。」「養高会(高野病院)の希望としましては、ここに医療が継続されることが院長の意思であると思っております。 」「法人としての判断が、私が申し上げた無償提供というところなので。」と改めてお伝えしました。平信二地域医療課長からは、「養高会(高野病院)を解散することになるがそれでもよいでしょうか」とお言葉がありましたが、「そのつもりです。」と高野理事長はお答えになりました。その上で、平信二地域医療課長は、「(議長でおられた)井出孝利保険福祉部長にお伝えする。」とお約束してくださいました。
6. 最後に 「全ては地域医療のために」
繰り返しになりますが、高野己保理事長、また、高野病院を支援する会は、患者さんのケア、また、地域医療が存続することを第一義に考えて行動しています。次回の緊急会議で、高野理事長から平信二地域医療課長、井出孝利保険福祉部長に投げられた言葉に関して、県から具体的な方針が示されることを願っております。引き続き皆様のご支援をお願いいたします。
(2017年1月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)
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