医療クラークが「医療機関を支える存在」になるためのチーム体制―医療法人財団 荻窪病院【後編】

医師の働き方改革が進む中、医師をサポートする職種の筆頭でもある「医師事務作業補助者」(医療クラーク)。その活用法はいまだ模索中の病院も多い中、医師事務作業補助者の育成を始め、今や総勢40名体制にまで成長しているのが荻窪病院(252床、東京都杉並区)です。後編では、チームの体制や仕事のおもしろさをメディカルアシスタント室室長の志村光代氏に伺いました。(前編・後編の全2回)

10年で5人から40人。2013年からは新卒採用も

―2018年8月現在、荻窪病院の医師事務作業補助者(荻窪病院では通称メディカルアシスタント、略称MA)のチーム体制を教えてください。

志村氏(メディカルアシスタント室室長)
10年前は5人からのスタートでしたが、今は約40人が4つのチームに分かれて医師のサポートをしています。外来コマ数や患者数、紹介件数を鑑みながら、誰かが休んでもカバーし合える体制を目指してこの数になりました。当院の場合、もっとも点数の高い医師事務作業補助体制加算1(15対1)を取得するには17人で十分ですから、かなり手厚い配置だとわかると思います。

部署としても当初は医事課や看護部の付属のような存在でしたが、2013年には単独部署として独立。2016年からは単科制から、親和性のある診療科目をグループにして担当する診療科担当制を実践しています。

メンバー構成は、専門学校を卒業した新卒が4割、異業種からの中途入職が4割、経験者が2割で、4年以上在籍している方が半数以上を超えるまでになりました。

―あらためて、貴院の医師事務作業補助者の業務について教えてください。

当院は外来診療支援が7割ほどを占めており、診療準備、診療録の入力や検査指示の代行などをメインに行っています。外来のほかは診断書や診療情報提供書などの医療文書作成、カンファレンスの同席・回診同行し、診療録へ入力するのもわたしたちの仕事です。

メディカルアシスタント室の変遷(点線部分は外来診療支援ではなく医療文書の作成をメインに関わっている部門)

―石井副院長から、貴院は全職員が正社員採用だとお伺いしました。育成という面で、研修や教育などの特徴について教えてください。

当院は32時間研修を自院で組み、講師は医師や各部署専門職のスタッフ、また先輩の医師事務作業補助者が担当します。外部の知見を取り入れるためにも数名は毎年外部研修を受けてもらっていますが、基本的には当院の実務に直結する内容なのが特徴。オペ室や検査室などの見学も組むなど、楽しみながら学べるように先生たちも工夫してくださるようになりました。先輩の医師事務作業補助者も教えることで新たな気付きを得ています。

そのほかにもメディカルアシスタント室内でアンケートをとり、テーマを決めて学び直したり、外部で行われているセミナーや学会への参加を通して、自分たちの専門性を高めたりしています。

―所属スタッフは、どのようなキャリアステップを歩んでいるのでしょうか。

キャリアラダーに沿って、それぞれが目標を立てて3ヶ月ごとに評価、振り返りをしています。評価の基準には業務実施チェックリストがあり、「診療録の入力」「各検査オーダー入力」といった項目を5段階で評価。5は臨機応変に対応できる、3が独立してできる、1は伝達済み(見守りを要する)というレベル感です。

標準的なキャリアパスは、はじめに1科目をマスターし、徐々に連携している科目を学んで、対応できる科目を増やしていくこと。その次に、チームのとりまとめや院外研修への参加・発信など、役割を広げていきます。誰もが役職者を目指しているわけではありませんが、最終的には“医師事務作業補助者”としてだけでなく“医療機関を支える一勤務者”として自信を持てるまで成長してほしいと思っています。一応、ラダーやマニュアルは整備してきましたが、その基準に縛られすぎず、個々の可能性を伸ばしていきたいとも思っています。

怖いものなしのコミュニケーション力を磨く

―ちなみに、医師事務作業補助者はどのような人に向いているでしょうか。

外来サポートは診察室内で、医師や看護師から直接声をかけてもらえるので、人と接することが好きならとてもおもしろいと思います。医療に関わりたいけれども、数値を扱ったり、ずっとデスクワークをしたりすることを望んでいない人にはぴったりだと思います。

わたしが医師事務作業補助者になりたての頃は、先輩がいなかったので看護部長が上司でした。彼女から「あの先生の対応ができるようになれば、今後怖いものはない」と励ましていただいたことをよく覚えています。それくらい、コミュニケーション力が身につく点もやりがいのひとつかもしれません。

―仕事とはいえ人間同士、たとえば医師との相性が合わないときもあるかと思います。そんなとき、どのような心がけをしていますか。

なによりも大切なのは先生を観察し相互理解を深めること。自分も実践しているし、後輩にも伝えていることです。先生の表情などもよく観察して、客観的な判断をするように心がけています。

そのほか、当院では科目や先生ごとにつまずきがちな点を記入した診断書作成の見本帳をつくって、担当外でもスムーズに作成できるようなしくみをつくっています。

―診察室内では、これまで看護師が処置以外でやっていたこととの役割分担も出てくるように思います。貴院はどのように対応しているのでしょうか。

やはり新しい仕事が発生すると、誰がやるかは課題にあがります。ささいなことですが、外来で糖尿病患者さんのための備品管理という仕事がありました。この仕事の役割分担は最終的な在庫管理は看護師、整理整頓や「少なくなっています」といった声かけは医師事務作業補助者が行うこととしました。職種として立ち上がったときから患者さんの迷惑にならない範囲で、わたしたちにできることを常に探し続けています。

副院長の石井医師と

―最後に、今後の展望について教えてください。

具体的に決まっていないのですが、何かしらのイノベーションを起こしたいと思っています。立ち上げから10年、院長・副院長先生の後ろ盾のもと、新しい職種でありながらのびのびと成長させてもらいました。さらに中長期的ビジョンを見据え、日々の業務を丁寧に遂行しながら、医師事務作業補助者という職業の意義や魅力も伝えていきたいと考えています。

<取材・写真・文:小野茉奈佳>

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