人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。
・誰のための医療広告ガイドラインか
・「広告」扱いとなった医療機関webサイトでやって良いこと悪いこと〜限定解除要件とネガティブリストの注意点〜
・生活者のための情報発信を
・東京初開催!病院マーケティングサミットJAPAN2019
誰のための医療広告ガイドラインか
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門
ご存知のように、2018年6月より、医療広告ガイドライン(「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」)が策定されました。 このガイドラインが策定された時代背景を考えてみます。
今までの連載でも示してきたように、現代は医療や健康についてwebで検索される時代となりました。誰でもいつでもどこでも情報にアクセスできることは非常に便利ですが、その情報の確かさ(保証)はどこにあるのか?という問題が起きます。2016年に、ディー・エヌ・エー(DeNA)が運営する医療キュレーションサービス「WELQ」の全記事を非公開にすると発表したことは記憶に新しい出来事だと思います。経緯は、記事内容に誤りや盗作の疑いがあったなど、記事で扱っている医療情報の信憑性について多数の批判が出てきたことが発端でした。
そして、ガイドラインが策定される1年前の2017年8月からは、国の「医業等に係るウェブサイトの監視体制強化事業」が開始され、うそや大げさな表現等、不適切な表示が認められないか医療機関のウェブサイトの監視体制が強化されました。
ガイドラインを策定する意義は、医療に関する広告は、利用者保護です。2017年12月にGoogleが医療や健康に関する検索のしくみをアップデートし、医療機関等から提供されるような、より信頼性のある有益な情報が上位に表示されやすくしたことも同様の観点です。
健康や医療に関する情報は、豊かな生活を送るために必要とされるものです。一方、情報の受け手はその情報が正しいのか判断することが非常に困難です。医療広告ガイドラインの策定は、医療機関に縛りをかけるものではなく、情報過多社会における全ての生活者のためのものです。
今回の医療広告ガイドラインには、広告を行う者の責務として、「患者や地域住民等が広告内容を適切に理解し、治療等の選択に資するよう、客観的で正確な情報の伝達に努めなければならない」と明記されています。「選択に資する」とあるように、医療機関の情報発信は、その医療機関が選択されるかの意思決定に反映されることは明らかです。医療機関による情報発信は、社会的な使命に資するとともに自院の広報にもなり得る一石二鳥の状況です。医療広告ガイドラインの策定は、病院関係者へは僥倖であると言えるでしょう。
「広告」扱いとなった医療機関webサイトでやって良いこと悪いこと〜限定解除要件とネガティブリストの注意点〜
株式会社Vitaly 代表取締役
昨年の医療法改正により、これまで広告として扱われていなかった医療機関webサイトが新たに広告として規制対象になりました。それに伴い改正された医療広告ガイドラインの運用が今年6月から始まり、病院webブランディングを専門とする当社にも、病院関係の方々から「自院webサイトをどのように見直せばよいのか?」「掲載情報の何に注意すればよいのか?」といった質問を多くいただきます。
我々病院マーケティングサミットJAPAN(https://hospital-marketing.jp)の定期勉強会でも今夏から弁護士の今井智一先生を講師にお招きして「医療広告ガイドライン改正」をテーマとしたレクチャーを繰り返し行なっておりますが、本連載でも改めて医療広告ガイドライン改正の注意点を振り返りたいと思います。
広告規制の限定解除~患者が適切な医療を選択するための有益な情報は円滑に提供されるべき~
今回のガイドライン改正により、医療機関webサイトが広告規制の対象となったことは皆さんご存知の通りと思います(A.医療に関する広告規制の見直し)。しかし、従来の医療広告規制に則れば、「広告可能事項」は施設情報や診療科、医師名など最低限の情報のみ(B.広告可能な事項について)に限定されてしまいます。
A.医療に関する広告規制の見直し
B.広告可能な事項について
新たに規制対象となった医療機関webサイトも、「広告可能事項」に沿って掲載情報を極端に限定しなければならないのでしょうか?
ご安心ください。限定解除の要件(C.広告可能事項の限定解除について)を満たせば、これまで同様に医療機関webサイトを使った自院の広報、ブランディングは可能です。今回の医療広告ガイドライン改正は「美容医療における消費者トラブルの増加(誇大広告により適切な選択が阻害されている問題)」を背景としていますので、医療機関として「患者にとって有益な医療情報を真っ当に発信する」ことは何ら問題がありません。
むしろ、この機会に積極的にweb情報発信を仕掛けていくことで、ガイドライン改正で慎重になっている競合施設との効率的な差別化を図れます。
C.広告可能事項の限定解除について
病院広報担当者の皆さんは、まず自院webサイト(SNSなども)の内容が「限定解除」の要件を満たすかどうかをよく確認してください。特に保険診療において注意すべき点は、以下の2点です。
- 「検索エンジン広告(いわゆるリスティング広告)」などのような誘導して見せる情報は、「患者等が自ら求めて入手する情報(webサイトやSNSなど)」に含まれない。つまり、限定解除はできない。
- 「内容について容易に照会が可能」とは、「webサイトのどのページからも病院名や電話番号が確認できる(ヘッダーやフッター領域に掲載)」こと。
限定解除された後のwebサイト掲載情報の注意点~「掲載したらNG」のネガティブリスト8項目~
自院webサイト(およびSNS)が限定解除の要件を満たしているかどうか確認が終わったら、次はネガティブリストに注意してwebサイト掲載情報を精査していきましょう(D.改正ガイドラインにおけるネガティブリスト)。限定解除要件を満たしていれば、ネガティブリストに抵触しない範囲で医療機関webサイトの掲載情報は自由です。逆に言えば「いくら限定解除されていても、この8項目は患者にとって有益な医療情報を真っ当に発信することにあたらないから、やっちゃダメだよ」というのがネガティブリストです。
D.改正ガイドラインにおけるネガティブリスト
ネガティブリストの8つの項目のうち、比較優良広告、患者の体験談、治療前後の写真の3項目が、保険診療が中心の医療機関で特に注意すべき項目です。この3項目は、ガイドライン改正前の「規制がなかった病院webサイト」では特に意識せず(悪気なく)掲載していたり、また今回の改正で過剰に掲載情報を削除してしまったりする(勿体無い)可能性がありますので注意してください。(E. 保険診療で特に注意すべき3項目の具体例)
E.保険診療で特に注意すべき3項目の具体例
3項目の中で間違った解釈がもっとも多いのが5)治療前後の写真です。美容医療の領域では単に「ビフォーアフターの写真掲載を禁じる項目」と捉えがちでガイドライン改正とともにwebサイト掲載写真を全て取り下げた施設もありますが、この対応は誤りです。皆さんの施設が現時点で治療前後の写真を掲載しているのであれば安易に取り下げず、治療の詳細情報を追記した上で患者にとって有益な情報を掲載してください。改正ガイドラインでは悪質な医療広告に歯止めをかける一方、患者には適切な情報提供が円滑に行われるべきと明記しています。一部の美容外科のような治療効果を強調しただけの術前後の写真はNGですが、一般的な保険診療において症例の背景、治療適応、術式、合併症のリスクと共に治療前後のCT画像などを掲載することは、患者が適切な医療を選択するために必要な情報提供です。ぜひ自院の専門診療を真っ当にPRした上で他院との差別化を図ってください。
病院広報担当者のためのガイドライン改正の要点
最後に、病院広報担当者が知っておくべき医療広告ガイドライン改正の要点を以下1)-5)にまとめます。今回の改正は「真っ当な病院」にとってはむしろ追い風になります。我々医療現場の人間にとって、広報とは「自院の誠意」を見せる活動です。来院前の患者さんに対しては「患者目線の医療情報」を、地域でお世話になっている紹介元の先生方に対しては「自院の専門診療」をしっかり伝えることが、自院の誠意を見せる病院広報の形です。
「ガイドライン改正で掲載情報の精査が面倒になったから、webサイト更新は控えよう」ではなく、「患者さん一人一人に適切な医療を選択してもらう」ためのweb情報提供を通じて真っ当な病院ブランディングに取り組んでいただければ幸いです。
- 改正の背景は「webを用いた自由診療の過剰PR(患者とのトラブル増加)」であり、患者が適切な医療を選択するための情報提供は一貫して推奨されている。
- 医療機関webサイトが広告扱いとなったことで、過度(悪質)な広告は罰則の対象となりうる。
- 従来、医療広告の掲載情報は「広告可能な事項」に限定されるが、要件を満たした医療機関webサイトでは掲載情報の限定が解除される。
- 保険診療メインの病院では、ネガティブリストに沿ってwebサイト掲載情報を精査しておけば慌てる必要無し。
- ネガティブリスト8項目のうち、病院広報担当者が特に注意すべきは「比較優良広告」「患者体験談」「治療前後の写真」の3項目。
引用(図表):
1) 医療広告規制の検討状況と今後の取り組みについて(2018年2月14日、厚生労働省医政局、公開資料)
2) 2018年 医療広告ガイドライン改正の背景と注意点(2018年6月9日、竹田陽介、日本医療マネジメント学会学術集会ランチョンセミナー17 講演スライド)
生活者のための情報発信を
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課
具体的な解説は竹田さんにしてもらっているので、私は医療機関の心構えについて書きたいと思います。
医療広告ガイドライン改正は誰のためか
この記事をご覧になられている保険医療機関の皆さん、どう思いますか!? 今回の改正を!?
美容整形業界のあおりを受けた形で保険医療機関も右へ倣えで同じルールのもとに運用されるわけですが、私自身はこのルール自体に反対しているわけではなく、この改正によって情報発信に消極的になる医療機関が出てくることを危惧しています。
改正後に私へ「小倉記念病院さんはどのように対応されましたか??」というご連絡もいくつかいただきましたが、マーケティング担当者の私が今回の改正で行ったことは、言いすぎている表現はないか、治療写真の説明がページ内にされてあるか確認したくらいです。
公共性のある保険医療機関のほとんどがガイドラインの範囲内でこれまで運用できていると思います。
ただ、どちらがいいwebサイトかという点においてはわかりませんよね。「ガイドラインに従った形で運用しているから当院のwebサイトは優良だ」なんて、それは生活者が決めることですからね。
そうなんです。私が言いたいのは一体誰のための情報発信なのかということ。国のルールを守るための情報発信は本末転倒。病気や怪我で困った人を助けるのが医療機関の役目であり、より質の高い医療をお持ちなのであれば、そのサービスを利用してもらいたいですよね。そのためにはそのサービスを知ってもらわないといけない。知られないことはこの世に存在していないことと同じなんです。
情報発信し、病院も適正な競争を
私は講演を頼まれたときは、いつも「適正に競争しましょう」と最後のスライドで締めくくるようにしています。それはなぜか。医療業界に一番足りていないものは「競争」だと思うからです。私たち医療人も市場競争を勝ち抜いた良いサービスを常日頃利用するにもかかわらず、自分たちの業界の話になると「医療は違うから」と言われる方もいらっしゃいます。でも友人や家族に「病院同士が競争したら困る??」と聞いてみてください。誰も困るなんて言わないと思います。そうした方が良いサービスを受けられることを、医療人も含めて誰もがこの社会で実感しているはずです。
良いサービスがあるなら社会へ伝えましょう!! 良いサービスでもないのに良いサービスに見せかけて利益を得ようとする組織は遠からず社会から必要とされなくなります。もしそういった組織を見つけた場合は、厚生労働省が設置した医療機関ネットパトロール相談室に伝えてください。チクリ合いをしましょうと言っているのではありません。タレ込まれても、正々堂々自信を持って行政に説明できるような情報発信を心がければいいと思います。
さぁ皆さん、医療機関の適正な競争で社会に貢献していきましょう!!
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