病院事務職の転職市場が活発化する中、若手と管理職では転職動機の傾向の違いが浮き彫りになっていると言われています。事務職専門の転職コンサルタントである雪竹舞子氏は「管理職は、新たな環境でどんなチャレンジができるかを重視する傾向が依然として強いです。若手からは、性別を問わず“ワークライフバランス”を重視する声が急激に増えました」と指摘。最近の求職者の傾向や、転職活動時の注意点などを聞きました。※前編はこちら
事務長・課長などの管理職は「チャレンジできるか」を重視
──求職者の傾向についても教えてください。
主任、課長、事務長など管理職の方は昇格や違う職種、新規開設などのプロジェクトといった、今の環境では叶わないチャレンジを希望する傾向が以前から強いです。収益改善を強みとされていた方が、「現職では取れる施設基準は全て網羅したし、人員も適正に配置している。この病院でやれることは全てやったので、もっと困っている病院でノウハウを活かし貢献したい」と転職を決意されるケースもあります。医療機関の経営が厳しくなっているからこそ、経営面の立て直しにやりがいや使命感を感じる方は増えている印象ですね。他にも急性期からケアミックスの医療機関に行ってみたい、課長にステップアップしたい、など新たな環境で何ができるか、何が求められるかを重視する声が多いです。
ただ、「こうしたい」「こうなりたい」という思いが強い一方で、具体的にどういった経験やスキルが必要なのか、どのような環境であればそれがかなうのかをイメージできていないケースも少なくありません。実際に私が担当した中では、以下のような事例がありました。
当初は「事務長に挑戦したい」と仰っていた医事課・主任職のTさん。しかし、事務長にどのようなスキルが求められ、ご自身にそのスキルがあるのかは理解なさっていないご様子。面談の中で「自分は医事課のスキルは高いが、事務長に必要な総務の経験・スキルが欠けている」と気づき、「専門性を活かせる病院に課長職で転職するか、クリニックの事務長としてマルチプレーヤーにシフトするか」の2つのキャリアで検討することに。最終的に前者のキャリアを選び、病院にご入職。
医事課・係長職のAさんは、現職での仕事はやりきったと感じ、今後も新しい業務は望めないと考え、転職を決意。同じ規模の病院から転職先を探していました。しかし、コンサルタントの懸念として、同規模で同じ職種だと現在とほぼ同じ業務内容になってしまうことが考えられ、「もう少し規模の小さい病院で、年収はいまと同じ水準をキープしつつ、1つ上のポストで幅広い業務にチャレンジしてみてはいかがですか」とご提案。その結果、100床クラスの病院へ医事課管理職候補職としてご入職。現在は医事課のレセプト業務だけでなくの施設基準の届出や採用業務にも携わっていらっしゃる。
希望のキャリアをかなえるにはどんな選択肢がありうるのか、どのようなスキル・経験が必要なのか、を具体的にイメージするのは、情報の乏しい事務職業界ではまだ難しいかもしれません。事務職仲間や私たちのような転職コンサルタントなどと話す中で希望と現実のギャップや新たな可能性に気づくきっかけにもなりますので、院外の第三者に相談してみるのがおすすめです。
若手・中堅はワークライフバランス重視派が急増
──若手・中堅層ではいかがでしょうか。
2018年以降、優先事項に“ワークライフバランス”を挙げる若手・中堅層が、性別を問わず急激に増えました。たとえば「残業時間を短縮したい」「土日祝休み希望」「シフト勤務をやめたい」「家族の都合があり、夜勤は避けたい」といった要望が多いです。共働き家庭が増えたことや、プライベートな時間を重視する傾向が強まっていることが背景にあります。「平日も自分の時間を確保したい」「土日休みが無理でも週2の連休を担保してほしい」といった声が珍しくなくなってきています。条件面も年収さえよければいい、という人は少なく、トータルで自分の生活とのバランスを鑑みて転職先を検討する傾向が強いですね。
こうした動きを受け、勤務条件や福利厚生を見直す医療機関も出てきました。たとえば、夜勤を敬遠する求職者が多いので夜帯のみ派遣やアルバイトで対応する、回数を減らすよう調整する、高額の夜勤手当を設ける、などです。そのほか、宿泊施設などが割引になる福利厚生プランへの加入や制服の貸与、職員が子どもを預けられるよう近隣の保育所との提携、フリードリンク制など、スタッフに長く気持ちよく働いてもらうため様々な工夫をしている医療機関もありますので、ぜひ求人票を見比べてみてください。
また、女性の求職者も相変わらず増加傾向にあります。転職理由としてはプライベート志向・キャリア志向の2つに大別されます。医療事務で長いご経験をお持ちの一般職員の方が、転職をきっかけに主任や課長などの管理職へキャリアアップされるケースも珍しくありません。自分が担当している業務が実は他院では管理職に相当する内容だった、というパターンは意外と多いものです。私が担当した方の中にも、医療事務歴20年で、総括や査定・返戻の対応、後進の育成などのご経験をお持ちの一般職員の方が主任職で入職されたケースがありました。ご年齢を気にされる方も多いのですが、30代は医療業界では若手ですし、管理職候補として院内バランスを考慮し40代の方を欲する医療機関も少なくありません。少しでも「チャレンジしたい」という思いをお持ちでしたらお気軽にご相談いただければと思います。
──前編では、一部の領域で他業界の人材を求める動きがでているとのことでしたが、他業界からの求職者も増えているのでしょうか。
はい。2018年を機に大きく変わったことの1つが、他業界の求職者からの問い合わせが大幅に増加したことです。製薬会社や医療機器メーカー、医療業界未経験の一般企業出身の方からも問い合わせをいただいています。たしかに医療機関の経営環境は厳しさを増しています。しかしそれでもなお、経済が低迷する中で、社会的インフラともいえる医療業界への信頼感や注目度が増していると感じます。
医療器材関係のメーカーに勤務していた30代のTさん。病院やクリニックと関わる中で、社会貢献度の高い医療業界への関心がより高まったこと、また外側からではなく病院の内側に関わりたいという思いから事務職としての転職を決意。営業や渉外の経験、医療業界への知識、高い学習意欲が評価され500床規模の総合病院の「地域連携・渉外」部門にご入職。
転職活動は、希望条件の数に注意
──転職活動をする上で、どんなことに注意したらいいでしょうか。
求人探しは物件探しと似ていて、自分の希望が全てかなうパーフェクトな案件というのは滅多にありません。このため、「〇床の病院で自宅から20分圏内、年収は〇円で管理職にチャレンジできるところ」などと最初から範囲を絞りすぎてしまうとなかなか見つかりません。理想の求人が出るまでじっくり待つという選択肢もありますが、そうでなければ希望条件の優先順位を上位3つまで絞り込んでいただくと、選択肢がぐっと広がると思います。一方、判断軸が少なすぎるのも注意が必要です。たとえば年収だけ見て「好条件だから」と決めてしまうと、いざ働き始めてから過重労働や通勤の不便さなど他の要因で長続きしないというリスクもあります。
とはいえ、病院事務職のキャリアパスは医療機関ごとの個別性が強いですから、ご本人では意外と気づきにくい視点があるものです。繰り返しになりますが、第三者に相談することでご自身では想定していなかった道が見えてくる可能性もあると思います。私自身、求職者の希望をお伺いする中で、「そういう働き方をご希望でしたら、実はこんな選択肢もありますよ」とご本人が気づいていない選択肢についてもご提案をさせていただくよう意識しています。
──最後に求職者の方へのメッセージをお願いします。
以前より浸透してきたとはいえ、コンサルタントへ相談するのは勇気がいることですし、不安も大きいと思います。ただ、エムスリーキャリアでは事務職に特化した専門コンサルタントが豊富な知識・経験をもとに、求職者の方と二人三脚で転職支援にあたらせていただいています。「自分のスキル・経験でも医療機関を紹介してもらえるのか」「まだ転職するか決めてないのに相談していいのか」と躊躇されている方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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