著者:野末睦(あい太田クリニック院長)
民間病院への出向は有意義で、いろいろな経験をしました。中でも名物院長との出会いは、その後のわたしの人生を大きく変えました。
名物院長が語る“医療”
その院長先生は、筑波大学で講師をしたのちに大学の近くに病院を新しくつくり、わたしが赴任した時には開設から16年がたっていました。大学医局から多くの医師が派遣されていましたが、それらの医師に対して歯に衣着せない物言いで、いつも「だから大学しか知らない君たちはダメなんだ」「もっと患者さんの立場にたって物事を考えなくちゃいけない」「そんなことじゃ、おまんまの食い上げだ」などの発言を医局会で連発して、皆からの反発を買うのです。しかし、物事の本質をついているのと、どこか愛嬌、愛情を感じるので、結局は皆が苦笑いをしながら従っていくというような状況でした。
今でもよく覚えているその院長先生の発言は、「医療は医学の社会的適応だ」というものでした。院長先生は有名な東大教授が最初に述べた言葉だと言っていましたが、調べてみると、かの有名な武見太郎元医師会長の言葉だとも紹介されています。いずれにしても、わたしにとってとても刺激的なものでした。それまで一生懸命学んできたいわゆる「医学」というものを社会的に役立つものにしていくのが「医療」であり、それこそが臨床の場で大事。そして医療を具現化していく場は公立病院よりもむしろ民間病院の方が適しているのではないかという考えに至ったからです。
またそんな院長先生でしたから、その病院にはユニークで自主性のある優秀な医師がいろいろな大学から集まってきていました。医師以外のメディカルスタッフの人数も多く、特にリハビリスタッフの多さとその果たしている役割の大きさには圧倒されました。
第1回医療マネジメント学会の院内責任者に抜擢
そして、現在日本のマンモス学会の一つまでに発展した医療マネジメント学会の第1回をなんとその筑波記念病院主催で開催することになったのです。わたしはその運営の院内責任者に抜擢され、当時始まったばかりの「クリティカルパス」に関しての臨床研究と実践を行ったのでした。学会運営に携わったことで、医療マネジメントの分野で活躍する全国の方々と知り合うことができ、その交流は今でも続いています。後にわたしが庄内余目病院の院長になった時、さらには開業して個人クリニックの院長になった現在でさえも、多くの方々に助けていただいています。
「関連病院に出向するメリットは何でしょうか?」への私的結論
大学からの出向は、自分自身が診療科の責任者になるようなところが望ましい。そして、できたら名物院長がいる民間病院に行き、医療とは何かについて、多職種協働の実際について学ぶことが大事。
野末睦(のずえ・むつみ)
筑波大学医学専門学群卒。外科、創傷ケア、総合診療などの分野で臨床医として活動。約12年間にわたって庄内余目病院院長を務め、2014年10月からあい太田クリニック(群馬県太田市)院長。
著書に『外反母趾や胼胝、水虫を軽く見てはいませんか!』(オフィス蔵)『こんなふうに臨床研修病院を選んでみよう!楽しく、豊かな、キャリアを見据えて』(Kindle版)『院長のファーストステップ』(同)など。