職員への手当や陰圧化工事費…コロナ禍で病院クラウドファンディング支援額が急増!成功のカギは? READYFOR株式会社―病院マーケティング新時代(26)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

新型コロナ感染症の流行により、多くの病院が経営に影響を受けました。「日本病院会」「全日本病院協会」「日本医療法人協会」の3病院団体が合同で行った、新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(有効回答数1,475病院、有効回答率33.4%)では、2020年4月から12月までの医業収益は、前年比-5.1%と報告されています。2020年の冬季賞与の支給を減額した病院も38.1%に及びました。新型コロナウイルス感染症に係る医療機関への補正予算もありましたが、「国の政策に頼ることなく、自院で行える施策はないのか」と考えた方も多いのではないでしょうか。
今回は、コロナ禍に注目され、病院での利活用が急激に伸びている“クラウドファンディング”に着目。医療系に関するクラウドファンディングにおいて国内でもっとも多くのプロジェクトをサポートし、目標達成に導いているREADYFOR株式会社キュレーター事業部医療チームの金久保智哉さんと米本拓さんに、病院のクラウドファンディングについてお話しを伺いました。

READYFOR株式会社 キュレーター事業部医療チームの米本拓さん(左) 金久保智哉さん(右)

2020年の医療系プロジェクトへの支援総額は前年の7.5倍に

──米本さんには、病院マーケティングサミットJAPAN2020で、「なぜ日本では寄付で臨床試験が行われないのか?」というタイトルで、神戸大学医学部の谷野裕一先生とともにご登壇いただきました。「寄付で研究資金を獲得するというプロセスが、日本でも当たり前になるのかもしれない」と、とても興奮した思い出があります。今回お話しできることを、楽しみにしておりました。まずはクラウドファンディングとはどういうものか、教えていただけますか。

米本:クラウドファンディングは、Crowd + Fundingを合わせた造語になります。実現したいアイデアを持つ人が、アイデアをインターネットに掲載し、一般の人々からお金を集める仕組みです。READYFORでは、購入型(モノやサービスなど対価性があるリターンを得られる)と寄付金控除型(寄付者が寄付金控除が受けられる)をお選びいただけます。

クラウドファンディングについての概要図
(出典 :クラウドファンディングサービス「READYFOR」HP)

──近年、医療機関がクラウドファンディングをすることが増えているとお聞きしました。

米本:弊社は社会性の高いプロジェクトを多くサポートしてきていますが、2017年からは、医療機関が実施するクラウドファンディングプロジェクトのサポートも行っています。2020年は医療系プロジェクトへの支援総額が、前年から7.5倍の増加となりました。

──すごい増加率ですね!コロナ禍の社会情勢が、クラウドファンディングの支援増加に影響しているのでしょうか。

米本:確かに、コロナ禍で医療機関や医療従事者の厳しい状況が日々報道されていることもあり、自分ができる医療への支援の1つとして「クラウドファンディングでの支援」を選択してくださる方が増えた様に思います。「支援の対価として何か物が欲しい」というよりも、「この病院や医療従事者を応援したい」という想いのもと、ご支援される方が多いです。     

金久保:新型コロナウイルス感染症の影響を受けた医療現場への支援には非常に共感が集まりやすく、1000万円以上の大型資金調達に成功しているプロジェクトがいくつもあります。弊社のプロジェクトの目標金額への達成率は全体で75%ほどとなりますが、医療系プロジェクトの達成率は、90%に至ります。医療は誰にとっても身近ですので、クラウドファンディングプロジェクトにおいても関心を寄せていただきやすいと感じています。

──医療系でこれまでに成立したプロジェクトには、どのようなものがあるのでしょうか。

金久保:ドクターカーの導入費用や無菌室新設などの施設費用、病院の運営費、研究費用など、さまざまなプロジェクトがあります。またこのコロナ禍において、感染防止のための陰圧室工事費用や、コロナ対応病院の職員への慰労金を集めるプロジェクトもサポートしています。弊社のページに、医療系プロジェクト例もありますので、ご覧ください。

職員への手当金を集めた守谷慶友病院(茨城県)
(提供:READYFOR)
医療機関(実施年)支援金額資金使途URL
長野県立こども病院(2017)¥25,366,000ドクターカー購入費https://readyfor.jp/projects/8395
国立成育医療研究センター
(2017)
¥31,162,000無菌室新設費https://readyfor.jp/projects/ncchd-clean-room
三島救命救急センター
(2019)
¥41,838,000病院運営費(人件費)
https://readyfor.jp/projects/misima
京都大学医学部附属病院
(2020)
¥66,759,000陰圧化工事費https://readyfor.jp/projects/kuhp-kyoto-u-pj1
守谷慶友病院(2020)¥47,850,930職員への手当金https://readyfor.jp/projects/moriya-keiyu
熊本託麻台リハビリテーション
病院(2020)
¥3,035,000感染予防活動費https://readyfor.jp/projects/takumadai
READYFORで実施された医療機関によるプロジェクト例

──成立プロジェクトは、これからクラウドファンディングを計画されている医療機関の参考になりますね。

発信力が弱い病院のクラウドファンディングは成功しないのか?

──医療機関はこれまでクラウドファンディングを実施したことがないというところばかりだと思いますので、具体的なプロジェクトの進め方をお聞きしたいです。まず、企画はどの程度固めてからご連絡するべきでしょうか。

金久保:フルサポートプラン」の場合は、キュレーターという専属の担当者がつきます。キュレーターは、プロジェクトの全体設計から広報活動のアドバイスなど、公開前から目標金額達成に向けて伴走サポートをしています。また無料相談窓口を設けていますので、必要な金額や資金使途のめどが定まっていれば、その段階でご相談いただけます。

──必要な金額と使途がある程度決まっていれば、相談できるのはありがたいですね。クラウドファンディングは情報発信が重要になると思いますが、病院ホームページやSNSなどに力を入れていない病院はまだまだ多いです。発信力が弱い病院は「クラウドファンディングには手が出せないのではないか」と感じてしまいそうですが、いかがでしょうか。

米本:プロジェクトを成功させるために、私たちキュレーターがプロジェクトに関するデータの共有や、SNSやチラシ・広報物についてのアドバイスなどをしていますので、ご安心ください。病院ホームページやSNSが必ずしも成功に必要というわけではありません。院内ポスターを設置したり、外来受診者へチラシを渡したり、地域の回覧板を利用したり……など、個々の病院に合わせたご提案をしています。

──プロジェクトの計画から実行まで、専門家が伴走してもらえるのは心強いですね。クラウドファンディング初心者が自分たちだけで進めていくのは不安だと思いますし、院内に強力なプロジェクトリーダーがいないような組織でも頑張れそうです。プロジェクト期間は、目標達成のためには長いほど有利な気がするのですが、どのくらいの期間設定が適切なのでしょうか。

金久保:プロジェクトによるので一概には言えないのですが、期間があまりに長いと、中だるみしてしまい、支援者の興味が薄れてしまう恐れがあります。実際には、設定期間の最初と最後の1週間が一番寄付の集まるタイミングとなります。クラウドファンディングは、支援者とのコミュニケーション設計が大事になりますので、漠然と長期間設定するよりも、プロジェクト内容を考慮した上で、適切な期間を設定するべきでしょう。

医療機関のクラウドファンディングは、何をリターンに設定している?

──医療機関のプロジェクトはリターンの設定が難しいと思いますが、どのようなものを設定しているところが多いのでしょうか。     

米本:医療機関では、購入型のプロジェクトであっても病院ホームページや活動報告書に名前を掲載することをリターンとして設定いただくことが多いです。医療系プロジェクトでは、支援することで何かしらプロジェクトに貢献したい、関わりたい、という方が多くいらっしゃいます。クラウドファンディングの良さは、支援者もプロジェクトチームの一員として捉えられることだと思います。

──社会性の高いプロジェクトならではのリターンですね。支援者もプロジェクトチームの一員という考え方は、共感できます。多くの人が関わってくれるような、魅力あるプロジェクトにどう育てていくかが大事ということですね。数々のプロジェクトを見てこられていると思いますが、クラウドファンディングに興味を持っている医療機関に、メッセージをお願いします。

金久保:医療機関のプロジェクトの高い達成率を見ると、簡単だと錯覚してしまいそうですが、クラウドファンディングは実施したら魔法のように自然にお金が集まるものではありません。支援者を募る中では、本当にさまざまなことが起こります。それはみんなで同じ思いや目標を持ってがんばった、青春時代の部活に近いかもしれません。寄付を集めることが目的になりがちですが、成功のためには「なぜこのクラウドファンディングを行うのか」というプロジェクトの目的を常に忘れずに、多くの方にその思いをしっかり届けていくことが重要です。

米本:支援者からは「日頃からお世話になった医療従事者に、お礼や感謝を示す場を提供してくれてありがとう」と感謝されることもあります。クラウドファンディングをコミュニケーションの場として用いてもらい、病院と社会を繋げる場として活用してもらえればうれしいです。今後もクラウドファンディングだからこそできる社会支援を行ってまいります。
医療機関、医療者のみなさまでクラウドファンディングの活用をご検討中の方は、READYFORのWebサイトからもご相談を受け付けております。

(出典 :クラウドファンディングサービス「READYFOR」HP)

<取材をしてみて>

取材に同席していただいたREADYFOR広報担当の澤村詩織さんは、「キュレーターは、そのプロジェクトの『最初のサポーター』」と仰っていました。キュレーターは相談できる頼もしい存在ですが、その人をプロジェクトの最初の仲間に引き込めるかどうかがまずは重要かもしれません。そして、キュレーターのみならず病院スタッフ、患者さんと、支援者の輪をどんどん広げていくのが、成功するクラウドファンディングだと考えます。
私の好きな言葉に、「人生意気に感ず」というものがあります。人は相手の心意気に感動して動くものだという意味です。まさにクラウドファンディングは、それを体現するイベントだと思います。クラウドファンディングを人と人とのコミュニケーションの舞台として、病院のファン作り、仲間作りに利用できるのではないでしょうか。今後もさまざまなクラウドファンディングストーリーが生まれ、その事例をお聞きできることが楽しみです。

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