病院ホームページの「指標」の見方、合っていますか?―病院マーケティング新時代(36)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director

小倉記念病院 医療連携課

目次

病院ホームページの重要指標の見方、教えます

今回は「病院ホームページの指標」がテーマです。

高齢者を含め、多くの人がインターネットを利用している現代。病院にとって、ホームページを設け、コミュニケーションに活用することは当たり前の時代です。

自院のホームページが効果的に運用されているかを把握するために、Googleアナリティクスでさまざまな指標を確認している病院も多いのではないでしょうか。ただ、指標も見る角度を間違えると、全体のマーケティング戦略に悪影響を及ぼすことがあります。

今回は指標の中でも重要指標とされている

  • ユーザー数
  • 直帰率/平均セッション時間

について、私が実践している「見方」をお伝えします。

「全ユーザー数」だけで見たらアカン!

まずは「ユーザー数」について。お伝えしたいのは「全ユーザー数だけで見たらアカン!」ということです。
自院のホームページの指標として、全ユーザー数を見たくなる気持ちはわかります。「数字が多い方が見栄えがいいから、全ユーザー数を上司に報告したいなぁ」という衝動に駆られますが、グッと我慢しましょう。把握するべきは「来院する可能性がある人」の動きです。

どんなユーザーに絞るべきかは、医療機関ごとのマーケット範囲が影響します。つまり、所在地と機能によって異なるのです。

私は実際に

  • 福岡県北九州市の小倉記念病院(656床)
  • 福岡県内にある小規模病院
  • 他県にある日帰り手術をメインに行うクリニック

の3つの医療機関でマーケティングを行っていますので、それぞれの特徴を踏まえてどのようにユーザー数を見ているかお伝えします。

施設の特徴別・ユーザー数の見方

小倉記念病院の場合

マーケットの範囲は、病院がある福岡県北九州市と、北九州市に隣接している地域(大分県北部、山口県下関市含む)がメインです。そのため、ホームページ全体としてはこのエリアのユーザー数を確認しています。

また、ページごとに確認するユーザーの範囲を変えます。心筋梗塞・脳梗塞のページは北九州市内のユーザー数を、大動脈弁狭窄症や未破裂脳動脈瘤のページは、福岡県・大分県・山口県まで含んだユーザー数を確認します。なぜなら、医療内容によってマーケット範囲が異なるからです。

心筋梗塞・脳梗塞など超急性期の病状は、救急隊が間に入るため、福岡市から患者が来ることは考えづらいです。県をまたぐ大分県北部、山口県下関市から患者が来ることもまずあり得ません。
一方で、大動脈弁狭窄症や未破裂脳動脈瘤は、時間的制限がないので患者さんが訪れるエリアは広くなるのです。

福岡県内にある小規模病院の場合

患者さんのほぼ100%が、病院が所在する同一市内から訪れます。そのため、市内ユーザー数のみを確認しています。

他県にある日帰り手術クリニックの場合

特殊な治療を行なっているため国内に競合施設が少なく、500キロメートル以上離れた地域からも患者さんが来院します。患者さんの1/3はクリニックがある同一市内から、1/3は市外から、1/3は県外から訪れています。そのため、市内・県内の区分でも見ますが、基本的には全ユーザー数で把握しています。

市場としてはブルーオーシャンなので、治療の認知度を上げて市場規模を膨らませることを優先し、SEO対策やリスティングに取り組んでいるところです。その効果もあり、無病床クリニックにも関わらず、小倉記念病院の2倍近くのユーザーがホームページを訪問しています。

以上のように、自院の機能や医療内容を踏まえて「ホームページを見てほしいユーザー」は誰なのか、きちんと考えることが大切です。

例えば、重粒子線によるがん治療ができる施設でしたら、患者さんが病院を訪れるまでの時間的余裕は比較的ありますし、競合となる医療機関は限られていますから、広い範囲から患者さんが呼べるでしょう。
そのような場合は、ユーザー数を細かいエリアで区切らず、「全ユーザー数」で把握した上で、九州などのブロックや都道府県など比較的広い範囲で見ていく方がいいと思います。

直帰率は低く、平均セッション時間は長くあるべき?

ユーザーのエンゲージメント(※)を測るために、直帰率や平均セッション時間を見る方は多いと思います。ただし、この指標ばかりを気にしていてはマーケティング 戦略全体を忘れがちになるので注意が必要です。
※ユーザーのサイト・アプリ内での操作。ユーザーの関心の高さを測るための指標として用いられる

先程もご紹介した、福岡県内にある小規模病院の事例から説明します。

この病院は、競合施設に患者が流れてしまい、患者数がじわじわと減っている状況で、私がマーケティング支援を依頼される理由もただ一つ、「患者を増やす」ことです。

マーケティングは「ブランドタッチポイント(自院と顧客との接点)におけるユニークで好ましいコミュニケーションの積み重ね」が基本ですが、この病院はそもそもコミュニケーションを取っている相手が少なすぎることが課題でした。そのため、とにかくコミュニケーションを取る人数を増やす戦術を実施しているところです。

この成果が、ホームページの直帰率や平均セッション時間に現れます。

これまでは、この病院に興味がある人(コアなファン層)だけがホームページに流入してきていたので、直帰率は低く、平均セッション時間は長い状態にありました。

しかし、コミュニケーションを取る人数を増やすべく、リスティングや広告、TVや新聞などのメディアで露出するようにしたところ、「これまで興味はなかったけど、ちょっと気になる」という人たちがホームページを訪れるようになります。
すると、どうなると思いますか?ファンでもない人が混ざることで、直帰率は高くなり、平均セッション時間は短くなっていきます。

一見、良くない状況に思えますが、マーケティング戦略的には狙い通りです。コミュニケーションを取る相手を増やし、一人でも多くの人の脳内に病院のユニークな記憶を刻むことを何より優先しているからです。

この結果を「直帰率が高くなり、平均セッション時間が短くなるのは悪いことだ」と考えてしまうと、新しいユーザーはただただ邪魔者ということになってしまいます。長いスパンで患者数を増やすことを目指して実施している施策の結果なのに、そう捉えてしまっては本末転倒です。

病院にとって、ホームページが大切なものであることは間違いありません。しかし、自院のマーケティング戦略全体をみて、ホームページの役割や見るべき指標を考えていく必要があるのです。

「あなたの病院のホームページは、何のためにあるんですか?」

この質問にズバッと答えられるようになりましょう‼

>>vol.35 テレビCMは病院の集患施策として有効か?―病院マーケティング新時代

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