野々下みどり(ののした・みどり)
株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり社会医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。2022年3月株式会社医療福祉ホールディングス代表取締役に就任。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者。
目次
- 2022年度がスタート。どんな日々をお過ごしですか
- 「自身の成長のために、転職するべきか」と悩む事務長
- 病院勤務時代、自分の意識を変えたのは…
- 人を育てて、次の人にバトンを渡す
- どこにいても、新しいステージは見つけられる
2022年度がスタート。どんな日々をお過ごしですか
今年の桜は、満喫できましたか。一斉に満開になり、これまで気にかけたことがなかった場所で「ここにも桜の木があったんだ」と気づきました。薄いピンクの花びらを咲かせることで、桜自身が「ここにいるよ」と思いっきり主張しているように感じます。
もっと長く楽しみたいのですが、見頃はあっという間に終わります。こちら九州ではもう葉桜になってしまい、他の木々に紛れてしまいました。花びらを落とした風は、温かく気持ち良い風に変わり、このまま初夏を迎える予定でしたが……。
季節外れの真夏日から打って変わっての寒気という天候。未だ収束が見えないコロナ禍に加え、戦火が世界を脅かしています。
事務長のみなさんは新年度を迎え、どんな日々をお過ごしでしょうか。
「自身の成長のために、転職するべきか」と悩む事務長
先日ある事務長から、「ここにいても毎日同じことの繰り返しで、成長できていない。今後の進退について迷っている」と相談を受けました。
転職や退職は、ご自身だけではなく周りにも少なからず影響を与えてしまうため、簡単には決断できません。かつて私が20年間勤めた病院を退職し、経営コンサルタントの仕事を始めたことをご存知なので、私の考えを聞いてみたくなったのでしょう。「環境を変えたい」と強く思っていらっしゃるようでした。
しかし、私は職場を変えなくても、自分を成長させることはできると考えています。今回は、私が病院勤務時代、そして今春経験した「意識の変化」「ステージの変化」についてお話したいと思います。
病院勤務時代、自分の意識を変えたのは…
私は病院勤務時代、医事課主任になった時に、自分の意識、そして立っているステージが変わったことを実感しました。「昇進」という立場の変化はもちろん影響しているのですが、それだけではありません。当時の上司から「あなたはもう、仕事を違う角度から見られるようにならないとだめなのよ」と言われたのです。
それまで病棟事務業務をしていた私は、「主任って何をするの。私は何をする人になるの」「何をどうしたらいいか分からない」と、未知の業務への不安でいっぱいに。そんな私に上司は「この業界で武器になるのは、知識や経験だけではない。人を育てられることも重要なんだよ」と告げました。
そして、私がしていた入院患者情報の入力・計算など全ての業務を回収し、代わりに上司がしていたマネジメント業務を与えました。
突然ルーティン業務を奪われた(笑)私は、「なんでこんなことをさせるの」と反発したり、納得できなかったりしたのですが、しばらくして上司の意図に気づきました。
「そうか、もう自分ができるだけではだめなんだ。部下を教育して、“できる人材”を増やしていかなければならないんだ」
人を育てて、次の人にバトンを渡す
後に私が退職を決意したのも、この経験が影響したかもしれません。昇進してしばらく経った頃から、常に「いつ、どのように去るのか」と引き際を意識していました。「私を引き上げてくれた上司のように、いつかは私が部下を引き上げなければならない」と考えたからです。「人を育て、次の人にバトンを渡す」は、私の大きなテーマになりました。
病院経営に携わっていた時も、院長や私たち世代が去った後をイメージして、「どんな職員に残っていてほしいか」「『病院理念』が後世に引き継がれるにはどうしたらいいか」と考えていました。
さらに「私がいつまでもいることで、若いスタッフのチャンスを潰していないか」という葛藤も(育成を急ぐ余り、指導が厳しくなり反省する日々でしたが……)。
ある時「バトンを渡そう。引き際は今だ」と思えたことが、退職の大きなきっかけになっています。
その後経営コンサルタントとして独立しましたが、退職から4年後にあたるこの春にも、自分の変化を感じました。
新しくスタートすることになった業務に対して「何から、どうしたらいいの」と不安を抱えている中、今回もある方からいただいた言葉にはっとさせられたのです。
「もう一つ上のステージに上がったんですよ」
言われた時は戸惑いましたが、この言葉は、徐々に自分の中に浸透していきました。視線が上がれば、見える景色も変わる。今の私には「新しいステージで、その景色を見る」という決意が必要なのだと思いました。
どこにいても、新しいステージは見つけられる
ずっと同じ組織の中にいても、役職が変わらなくても、新しいステージはきっと見つけられます。組織や自身の目標に向け、意識を変えることはできるはずですから。そして、そんな事務長の変化は、組織にもいい影響を与えるでしょう。
まずは、自分のなりたい姿、作り上げたい組織の形を明確にしてください。そうすると上がるべきステージが見えてくるのではないでしょうか。
これまでよりも高いステージには、新しく向き合わなければならない相手や課題が待っています。今までの課題を抱えたまま、新しいことに取り組もうとすれば、業務は回らなくなり、自分も潰れてしまうかもしれません。そうならないためには、これまで持っていた仕事を任せられる人が必要になります。
「そんな人は、今うちの組織にはいない」と思ったら、具体的に考えてみましょう。どんな人になら任せられるでしょうか。人材像を明確にして、日頃からアンテナを張り、意識してください。
例えば、「時計が欲しい」と思っていたら、時計の情報を積極的に得ようとしますよね。ネットで調べたり、他の人が着けているものを見たり。日常の中でも、「時計」に関することに目が行くようになるはずです。
同じように、人材についても日ごろから意識していれば、無意識に情報を得られるようになります(少しおかしい表現ですが)。今いるスタッフを育てる指針になりますし、突然そんな人材が現れたときもチャンスを逃さずにすみます。また、事務長が常に周囲に「こういう人材が欲しい」と発信していれば、スタッフが目指してくれるかもしれないし、誰かが見つけてきてくれる可能性もありますよ。
これまでお伝えしてきたようなことを、相談してきた事務長にも話しました。
その事務長は、「自分のあとを任せられるような人材が育つには、あともう少しです。『もう大丈夫。任せられる』と思えるまで、私も自分の将来を考えてみます」と言っていました。
人生と同じように、仕事や役職にも、いつかは終わりがきます。このコラムを読んでいただいている事務長が今の仕事を終える日に、描いた未来が待っていますように。
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