【前編】「採用担当者×院内医師のコミュニケーションで成功させる医師採用」を読む
応募の8割は採用担当者判断
-医師とのコミュニケーションを頻繁に取ることで、医師採用への効果は具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
上田氏
日々のコミュニケーションによって、院長や診療部長をはじめ、院内の医師の考えを把握しているからこそ、わたし1人で問い合わせのほとんどをスピーディに対応できます。これは非常に重要なことだと思っています。医師は売り手市場で、こちらの採用スピードが遅ければ当然、他の病院に行ってしまいますから。
たとえば当院では、応募問い合わせの8割に対して、話を進めるかどうかをわたしが判断して迅速に返答します=図参照=。日々のコミュニケーションで、病院の方針や現場の声を把握しているからこそ、こうした迅速な判断ができるのだと思っています。
イメージとしては、お問い合わせを頂いたとしても、3割はスキル不足や年齢の問題から、電話や履歴書のやり取りで、わたしが受け入れを即座にお断りしています。
そして5割は、面接に進んでもらうかどうか、一旦わたしの方で検討してから返答します。
残りの2割は、医師求職者の希望を実現できるかなど院内に確認を取ります。たとえば、「新しい医師が入った場合、既存の医師の診療の守備範囲を調整すべきかどうか」「経験が十分でない医師の場合は、その方を育てる余裕があるかどうか」などですね。外科系医師の中には、一定数の手術件数を確保したいという方もいるので、どのくらいの症例数を新しい医師に渡しても大丈夫か、確認も必要です。
採用担当者は、トップがビジョンを語るための下地づくりを
-面接でのポイントはありますか。
面接は、医師の採否を判断するだけでなく、自院をアピールしたり、勤務条件をすり合わせたりする場でもあります。そうした意識を持って臨めるかが大切ではないでしょうか。
そうした観点に立った時、医療機関の側が自院のよさを自覚していないのに、医師に魅力がアピールできるわけがありません。
-具体的にはどのような側面を「魅力」として伝えますか。
まずは勤務環境ですね。当院であれば、コメディカルが非常に協力的で、例えば診療放射線技師が夜中でも嫌な顔一つせずにCTやMRIを撮ってくれるなど、コメディカルが熱心な分、働きやすいという点があります。
ほかにも、一宮市は高齢化率が全国平均より低く、患者層が若めな点も医師によってはアピールポイントになったりします。
このほか、医師求職者からは、給与や、病院経営の安定性について聞かれることもありますから、経営指標は常に把握しています。具体的には、医師1人当たりの売上のほか、外来数や平均在院日数、手術件数などですね。採用担当者であればこれらの項目は絶対に知っておかないといけないと思います。いくらまでなら提示でき、それ以上を出す場合はどのようにやりくりすれば提示できるか、あらかじめ試算して腹案を持っておくわけです。
給与や経営面の話についてわたしがスムーズに受け答えできるようにしておけば、院長はビジョンや自分の考えを語ることに専念できます。
トップが「当院としてこういう病院にしたいから、先生が必要なのです」と言った方が、求職者としての医師は腹落ちするのです。こうして理念やビジョンに共鳴して入職した医師は、受身で働かず、病院のために何かしようと自分から動いてくれます。
モチベーションの源泉は「東の亀田総合病院、西の大雄会」への想い
-医師採用を行う中で、数多くの関係者と調整を取ることは大変だと思います。どのようにモチベーションを保っているのでしょうか。
わたしは以前、製薬メーカーの所長をしていたときに、千葉県鴨川市の亀田総合病院とお付き合いがありました。そこで、房総半島の突端にあって交通の便がいいとは言えない立地にもかかわらず、全国から患者さんが集まってきている姿を目の当たりにしました。医療が人間の命を救う「究極のサービス業」分野であるなら、その分野で全国の“お客さん”に選ばれている亀田総合病院のような病院をつくることができれば、これ以上嬉しいことはありません。
「東の亀田総合病院、西の大雄会」と呼ばれるような病院をつくりたいという想いが、わたしのモチベーションです。まずは亀田総合病院のように、各診療科のトップには診療スキルの高い医師がいて、その下に志の高い若手医師が集まるような病院を実現したい。そうできるように、現場の医師の声を聞きながら、採用にもますます力を入れていきたいと思っています。
● 問い合わせの8割は、採用担当者の判断で即答する
● 面接で院長がビジョン語り、採用担当者が年収提示をできるように、あらかじめ準備する
● 採用担当者自身が「理想の病院像」を持ち、自発的に動いている
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