【看護・リハビリ・地域連携室編】地域包括ケア病床の専門職が持つべき“入口から出口”の意識―福井県坂井市立三国病院

地域包括ケア病床において、病床稼働率を維持・向上するためには入退院支援の視点が欠かせません。そのため、看護師、地域連携室、リハビリテーション、それぞれで“入口と出口”の意識を持つことが必要です。2017年7月に地域包括ケア病床を導入した福井県坂井市立三国病院(105床)では、各セクションが手探りで、あるべき姿を模索していきました。とはいえ、口で言うほど簡単ではないのが病院運営の難しいところ。改めて、導入前から運用に至るまで、どのような思いを抱いていたのかを伺いました。

福井県坂井市立三国病院
福井県坂井市に位置する、一般病床105床の公立病院。産婦人科や小児科といった地域医療を守り続ける一方で、経営赤字のため9年前から改革を実施。2017年7月には、一般病床43床を地域包括ケア病床に転換した。

【総集編】医師、看護師、地域連携室、リハビリ、それぞれの声を紹介した記事はこちら

[この記事に登場する人たち]

  1. 清水壽子氏:元看護部長・現地域連携室長。地域包括ケア病床の導入時に看護部をとりまとめた中心人物。
  2. 吉田千晶氏:元看護部長・現地域連携室所属。地域連携では退院支援に従事。
  3. 野尻麻菜氏:地域連携室立ち上げ時から勤務する社会福祉士。地域連携では入院支援に従事。
  4. 今川洋一氏:勤続25年以上の理学療法士。リハビリテーション室長。
  5. 境智子氏:2018年4月より看護部長。導入から実運用を引き継ぐ。
  6. 水井かおる氏、小林保枝氏:各病棟の看護師長。急性期病床(一般病床)、地域包括ケア病床ともに経験。

導入前:マイナスからのスタート、地域連携の意識を醸成するところから

元看護部長の清水氏

――地域包括ケア病床導入前の、院内の様子について教えてください。

清水氏:病床稼働率低迷で病院改革プランの最低の目標達成も困難な状況でした。公的病院として責任を果たせない事へのあきらめ感も強かったです。地域住民へ経済的・医療的貢献をするための戦略として、地域包括ケア病床の開設を検討し、教育研修や体制の整理整頓を行い 導入の発声が上がりました。看護体制はどうすれば良いのか。どのようなルールや条件があり、また、それを私たちが実践できるのかなど、あらゆる事に一人ひとりが不安でいっぱいの状況でした。しかし、市や地域住民への貢献には今はこれしかないという確信もありました。

吉田氏

吉田氏:当院の地域医療連携室(以下、地域連携室)は2011年に発足していましたが、ソーシャルワーカー2名以外は兼務者ばかりで、正直なところ、ハコがあるだけでした。公的病院の基本理念に基づいて始めたものの、なかなか院内に浸透せず、地域連携室の職員は何でも屋のような状態。当時から、地域連携はわたしたちが窓口となるだけで、本来は病院スタッフ全員が地域連携への共通認識を持つべきと考えていたので、それを積極的に呼びかけていきました。

その後は、職員を2人から6人に増やして、入院は社会福祉士、退院は看護師の業務という役割分担を行いました。この地域は生活が困窮している世帯や90歳以上の超高齢者も多いという特徴があります。このような背景もあって、退院後の生活に不安を感じられるご家族や介護施設の職員も多いので、看護師が医療的な不安や疑問を解消するための相談に乗りたいと考えています。

導入過程:実務を通して学び、思い切って体制を変える

――地域包括ケア病床の導入に際し、看護部ではどのような動きがあったのですか。

清水氏:導入前は3階と4階の病棟すべてが一般病床(急性期病床)だったので、まずは各病棟が果たすべき役割を明確にして、3階は急性期や産婦人科、4階は地域包括ケア病床として機能させることを目指しました。そうすると、人員配置も変わってきます。たとえば3階は救急や処置、検査などが続くので、機敏に動ける若くて体力のある方が適材になります。他方、4階は比較的状態が安定している多様な疾患の患者さんが多く、退院後の生活サポートといった視点も必要になりますから、臨床経験が豊富で、プライベートでも育児や介護経験のあるベテラン職員の方が向いているでしょう。

とはいえ、口で言うほど簡単ではありませんでしたよ。自分の思いや考えを一方的に押し付け合ってはお互いが納得できませんから、どんなに忙しくても職員一人ひとりと話す時間を持って、自分たちにとっても患者さんにとっても一番良い運営の形を探っていきました。

境氏

境氏:病棟の役割分担が決まった後は、夜勤体制を見直しました。これまでは3階と4階にはそれぞれ5名ずつの夜勤者を配置していましたが、急性期の方がどうしても突発的な対応が増えるので、一般病床メインの3階を6人、地域包括ケア病床メインの4階を4人に変えました。一般病床から地域包括ケア病床に転床することも多いので、横断的な診療も増えたと思います。

それと同時に、患者さんには病床を移動してもらう必要も出てきましたから、パンフレットを作るなどして、患者さんへの説明体制も力を入れて整えました。

――一連の取り組みの中で感じたプラスの変化はありますか。

小林氏・水井氏:一般病床と地域包括ケア病床、両方の現場を経験することで、急性期の入院時から退院を意識した看護計画作成が可能になりました。同時に、看護師としてゴールを見極める力が付くなど、各スタッフの成長にもつながっていると思います。

看護部の皆さん(右端が看護部長の境氏)

運用:連携のキーマンはケアマネジャー。リハビリは退院後の生活も考慮

野尻氏

――前方・後方連携における工夫を教えてください。

野尻氏:入院元となる連携先を増やすためには、フットワークを軽くすることを心がけています。中でも常に意識しているのは、地域のケアマネジャーさんとの連携です。たとえば、地域で開催される勉強会や交流会には積極的に参加し、その時に当院はレスパイト入院ができることや検査だけでも受け入れられることを呼びかけています。

ほかにも、地域連携室メンバーの中には、地元の開業医を中心に訪問して紹介実績を生み出している人もいます。そうやって関係を築いたケアマネジャーさんや医療機関には定期訪問だけでなく、空床情報を週2回ほどFAXする仕組みも作りました。こちらから情報発信することで「共有してもらえて助かる」という声もいただいています。

吉田氏:病院の出口となる退院支援については、現状、市営の介護施設がないので、関係性をつくって外部に委ねるしかありません。自宅・介護施設への退院でも、ケアマネジャーさんとの関係性は重視しています。わたしは、看護師として、できる限り患者さんの容態に合わせた実践的なアドバイスをしながら、信頼関係を築いています。

地域連携室の皆さん(左から2番目が野尻氏、4番目が吉田氏)

――リハビリで取り組んでいる工夫はありますか。

今川氏:25年以上当院でリハビリを担当していて高齢化は進んでいると感じていますが、病床が変わったからと言って患者層に大きな変化はありませんでした。病床が変わったからといって慌てずに、目の前の患者さんと向き合っていきました。

しかし、施設基準である“3か月で1日平均2単位以上”がとれるかは、いつもギリギリで四苦八苦していました。ただ、入院60日という制限がついたので、週2日の休みや祝日なども逆算してリハビリに取り組むようになりましたね。

地域包括ケア病床の退院は、自宅に戻ることを目指している病院がほとんどだと思います。そうなるとリハビリのひとつのゴールは、ご家族の手がかからないようにすること。最低限、一人でトイレに行ける、可能であればヘルパーを利用してでもお風呂に入れる状態を目指しています。

今川氏

病床転換後:地域で果たすべき役割のために、ぬるま湯に甘んじない

――今まさに感じる病院の変化、そして今後の展望について教えてください。

清水氏:病床転換前を振り返ってみれば、ぬるいお風呂に浸かっていたんだろうなと思います。例えば30℃のお湯に浸かっていると想像してみてください。最初はぬるいと感じていてもそれが毎日続けば慣れてしまい、普通の温度ではないことに気付かなくなってしまいますよね。わたしたちもその状況と同じで、稼働率が低い状況に慣れてしまっていたのだと思います。本当はもっとできることがあるはずなのに、どこかで言い訳をしてしまっていたんでしょうね。

実際、地域包括ケア病床導入という新しい試みに、「忙しい」と不満の声を上げた人もいないわけではありません。しかし同時に、この取り組みの中で新しいやりがいを見つけた人もいるのではないでしょうか。各スタッフの積極的なカンファレンスへの向き合い方を見ても、確かに成果はあったと思います。

境氏:国の方針では、退院後は在宅での療養が推進されていますが、現実問題として、地方の一人暮らし世帯ではなかなか難しいでしょう。集落が点々としているような地域では、訪問診療の方が時間とコストがかかってしまう可能性だってあります。そう考えると、当院が地域で果たすべき役割はまだまだ大きいので、地域の皆さんにもっと利用していただける病院を目指していきたいですね。

<取材・写真・編集:小野茉奈佳 / 制作:(株)デファクトコミュニケーションズ>

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