人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課
病院における広報業務は、どのような体制が多いのでしょうか??
いくつかパターンがあるかと思います。
- 広報業務自体がない
- 広報と他業務の兼務
- 広報専従の一人体制
- 広報専従の複数人
担当部署も複数パターンがあるでしょう。
- 医療連携室
- 庶務部
- 経営企画部
- 広報委員会
マーケティングに対して経営資源「ヒト・モノ・カネ」を十分に投資している病院は少ないかと思います。
当院のパターンですが、私が所属している企画広報課ができる前は、いくつもの組み合わせがありました。例えば広報誌は、医療連携室の派遣社員で少しイラレ(デザインソフト)を使える方が制作し、取材は庶務が対応したり、取材対象が院長のときだけ経営企画部が仕切ったりと、なんだかよく分からない体制でした。
現在は広報専従(松本)の一人体制で、経営企画部(企画広報課はここに所属)が広報業務を担っています。諸々の企画は、私が現場の医療従事者と詰めて、経営企画部長に説明、事務長・院長に承認を得る形です。大きな企画であれば、役員会議で私が直接プレゼンする場合もあります。
そして広報委員会はありません。ない代わりに、企画広報課で現場との調整などを含めたディレクションを行なっているような感じです。
これまで色々な病院の広報担当者とお話をしてきて、うまくいかないと言っている内容は大体同じです。
- 兼務で広報業務を行なっているので手が回らない。
- 上層部に広報への理解がない(クリエイティブ含む広報センスのなさ)。
- 広報を行う部署はあるが、広報委員会で企画がつまらなくなっていく。
- お金がない。
だいたいこの4つが多いですね。
経営戦略におけるマーケティングの役割
一般企業で新商品を作ったら、広告で認知度を高めて購買活動につなげますよね。病院業界は新商品を作りっぱなしで告知していない感じです。もしかしたら「どのみち病気になったら患者さんは来るのだし、来院したときに商品を提示できればいい」と思われているのかもしれません。しかし、患者さんが勝手にやってくるという保証はどこにあるのでしょうか。
結局は、医療従事者も医療機器も、院内すべてのものは患者さんがやってこないことには稼働しないのです。当たり前のことを言ってしまっていますが、実際にマーケティングに対して経営資源「ヒト・モノ・カネ」を投資している病院は少ないのが事実だと思います。
さて、ここで「医療サービス」と「集患」の関係を整理しましょう。いい医療サービスがないと集患できないのはもちろんだと思います。しかし病院は、一般企業ほど自由にサービスづくりができません。一般企業であれば、マーケティングに合致したサービスを新たに生み出したり、その逆で不採算事業は撤退したり、M&Aで切り貼りするなど、提供するサービスを柔軟に変化させることは可能かもしれません。一方で病院のほとんどは、サービスを柔軟に変化させることは難しいのではないでしょうか?? 医療サービスの根幹を担う医師についても、医局人事が動くとこれまで行なってきたサービスを継続できないこともあるでしょう。
また「いい医療サービス」って、この業界で働いている医療従事者ならなんとなく、この病気ならあそこの病院がいいとか分かると思いますが、一般生活者は「いい医療サービス」をどうやって判断できるんでしょうか??
日常的に購買する商品であれば、「このビールより、こっちのビールがうまい!!」とか比較検討することができますが、「この病院の心臓手術より、こっちの心臓手術の方が上手だった」なんてありえませんよね。
つまり、病院というサービスは「ブランド」で選択される可能性が高いと言えます。
ブランドは高度医療だけで構成されるわけではなく、その他の要因も重要です。
患者さんからよく聞く言葉として「この先生は私たちにも分かりやすく、懇切丁寧に説明してくれて安心できました。病棟の看護師さんもとても優しく接していただいてとても良い病院だと感じました」というものがあります。逆のことを言われる場合もありますが(笑)
「いい医療サービス」とは必ずしも、病気を完治させる医療だけではなく、意外とこういった「優しさ」も大きな物差しになっていますよね。
ブランドを構築するためには「患者さんとのタッチポイントにおいて、ユニークで好ましいイメージを積み重ねる」ことが必要です。ですから、複数の広報ツールを運用する専属部署が重要になるわけです。もちろん広報媒体だけでなく、職員教育も重要でしょう。
ここで間違ってほしくないのですが、「いい医療サービス」なんて生活者は分からないんだから、広報活動だけやっておけば大丈夫と言っているわけではありません。なぜなら広報活動は自院の医療サービスを伝えることがメインですから、基本的に両者はイコールの関係になります。「良い医療」と「広報」が両輪でうまくかみ合うことで効果を発揮します。
ただ伝え方を工夫することで効果が違ったりもしますから、自院が取り組んでいる医療を正しく伝わるようにする努力が必要です。
理想的な広報部隊の組織運用とは
やはり広報は専属部署があるのがいいですね。そして経営戦略に近い部署におくべきです。患者が来ないと病院は潰れてしまうわけですから、「集患」は最も大切な経営指標です。
そして広報部隊の最終的な結果責任も「集患」です。当院で言えば「新入院患者数」です。
たまに広報部隊の責任が「広報誌を作ること」だったり、「webを管理すること」と耳にすることがあります。これは明らかに間違いですね。広報誌もwebも集患のためのツールであって、最終的な結果責任は患者数で行うべきです。
なので、もし私に部下ができて複数人で広報業務を行えるとしたら、役割分担として「松本は循環器内科・心臓血管外科・脳神経外科の集患を担当、部下の君は外科・消化器内科の集患を担当しなさい。ツールは限られているので共同で使う」のような形で課を運営します。
これを、「松本は広報誌と市民公開講座を担当、君はwebとSNSを担当しなさい」とか分けてしまうと、集患なんて関係なくなってしまいます。「自分の仕事はwebとSNSを更新することなので、患者が増えた減ったは僕には関係ないです」みたいな生意気なことを言い出しますよ。
たまにこういった人材を見かけるんですよね。自分はクリエイティブな仕事が好きだからポスターとか動画を作りたいみたいなことを言い出す人が。いやいや、ツールありきは間違っているだろと。目的と手段が完全に逆になっているんです。最終的な目的は何なのか、きちんと考えておくべきです。
敵か味方か!? 病院広報委員会
よく聞く“敵”のパターンは、お堅い上層部や課長レベルが多数参加して「病院の広報物って昔からこんな感じでしょ」と新しいアイディアを受け入れられずに、よくある決まり切った形に落ち着いてしまい、「新しいアイディアを言っても同じだしな」と、もうどうでもいいやと投げやりになる人が続出するパターン。
味方のパターンは、病院を盛り上げるために新しいアイディアや現場の情報などを積極的に伝えて、周囲と建設的な意見交換がなされるパターン。このパターンは若手主体で、委員会というよりもチームのような雰囲気のときに多く起こるようです。
私がよく聞くのは敵のパターンですが、委員会を設置するのであれば味方のパターンでチームを編成してあげるべきです。
病院って、多くの委員会がありますよね。その中には物事を決めるというよりも全体のコンセンサスを得るためという部分もありませんか!? 私は委員会あるあるだと思ってるのですが……。
広報委員会は、コンセンサスを固める場ではなく、何か新しいことにチャレンジしていく委員会であるべきです。こういった委員会にできるのは、委員会メンバーを選定する上層部の決断しかありません。若い人間に任せてやらせてみようという気概が必要です。
余談ですが、今年7月より他病院の広報アドバイザーに就任しました(小倉記念病院は辞めてませんよ)。その病院では理事長・病院長のご理解のもと、若い世代を活用したチームを編成し、色々なことに取り組む予定です。この病院の理事長・病院長には「若い世代に任せないとダメだ」という大きな心でメンバー選定をしてもらってます。
この記事を読んでくださっている病院経営層の皆さん、ぜひとも若い世代にチャンスを与えるつもりで、委員会編成を考えていただければ幸いです。
私自身、若手世代から年々遠ざかってしまい、広報ツールを運用するような現場第一線の仕事はあと10年が賞味期限かと思っています。でも「まだまだ若い奴には負けられん」というガンコ親父も素敵なんですけどね。10年後にこの記事を自分で読み返すようにします(汗)。
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