病院webサイト解析が絶対に必要な理由―病院マーケティング新時代(14)

病院webサイト解析が絶対に必要な理由―病院マーケティング新時代(14)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。

ホームページを持つだけではNG。webで解析がなぜ必要か

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

今回はデータ解析の視点からお伝えしたいと思います。

データ解析から見えることは何でしょうか?「データを分析すれば全てが語れる!」と思う方もいるかもしれませんが、フランス流データ分析の立場では、統計などで使われる一部の分析手法を「多次元空間に散らばっている点を低次元に射影する分析である」と解釈しています。

例えば、どこかに行こうとした時に地図を見ると、向かう方向や距離などの情報が得られ、上空から全ての状況が分かった気持ちになります。一方で、地図では2D(2次元)の情報しか得られません。そこには、3D(現実)にある地形の高低や、周りの環境(天気、交通機関の混雑具合など)といったものが含まれません。

データ解析で得られた数字を、さも「証拠」のように扱われることはあります。しかしそれは、あくまで、ある一方面から眺めたものです。全てを汲みとれるものではないことを忘れてはいけません。きちんと、データ解析する目的、手法、結果の解釈が必要です。

病院広報の手段はいくつかありますが、その中できちんと数字で捉えられるものがwebです。広報誌やチラシなどの印刷物は、発行部数をカウントできても、その後どの程度まで読まれたのかは全くわかりません。一方、webは、滞在時間や訪問回数、どの地域から閲覧されているのか、様々な数字を得ることができます。時間的な要素も入れることができますので、2Dに時間軸を足した3Dでの解析が可能となるのです。

データを見ることは、一方面からといえど、自院の広報の現在地を確認できる唯一の手段です。一番もったいないのは、webがあるのにデータを何も取得していない病院です。例えば、病院ホームページがあるのに、どのページを何人が、どの程度じっくり見ているのか、どの地域から見ているのかといった数字を全く把握していない病院です。

自院の現在地がわからないと今のwebの価値が判断できませんし、次に行うべきことは見えません。おそらく多くの病院でホームページはお持ちだと思います。まずは、ホームページでweb解析を行ってみてはいかがでしょうか。

結局、一番人気は医師でした。

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

ホームページを解析すれば社会からどう見られているかが分かる。

ホームページは病院側からの情報伝達だけではなく、「社会がその病院をどう見ているのかを映し出す鏡」の役割もしてくれます。自院がどう見られているか知るために役に立つのが、Google アナリティクスです。無料のWeb分析ツールなのですが、結論を先に言うとGoogle アナリティクスから見えたホームページ成功の鍵は「医師の露出量」です。

当院ホームページのリニューアル当初、プロジェクトチームで考えていたのが、患者さんは「まず自分の症状がどんな病気なのか!? → その病気はどんな治療法があるのか!? → その病院はどのくらいの治療実績があるのか!? → どんな医師が治療をしてくれるのか!?」という順番でホームページを見るだろうということでした。
ところが蓋を開けてみると、ユーザーの50%近くが「診療科案内」を見ています。もうダントツです。その50%のユーザーのうち60% が医師紹介ページを閲覧しており、治療法や実績ページは25%程度です。
また、約400名の初診紹介患者へのアンケート調査では、大きな病院を選ぶ際に最も重視しているものが、「専門医が充実している病院」「信頼できる医師がいる病院」であることが分かりました。
おそらくどの病院も似たような傾向が出るのではないでしょうか。

小倉記念病院ウェブサイトの流入ページ

図1(クリックすると拡大します)

つまり、患者さんは自身の病気や治療法についてはどこかで情報を得ており、急性期病院のホームページで見たいのは「そんな私を治療してくれるのは誰なんだろう?」ということではないでしょうか。そうであれば、充実させないといけないページは何か。

そこで、web上で医師とユーザーの距離を縮められるような施策はないものだろうか??と考えて思いついたのが、「Youtube」でした。先生方の写真を「動画」に変えただけです。Youtubeを利用したのも、動画は重いので当院サーバーに置きたくなかったという理由だけです。ヒカキンみたいに先生方をYoutuberにする施策ではありません。ただ先生たちの声や雰囲気を伝えたかった。写真だけでは伝わらない、先生方の人間的な雰囲気まで知ってもらうには動画が最適だと。

とりあえず循環器内科のみで行なっていますが、平均ページ滞在時間が1分51秒から2分19秒まで伸びました。約30秒増えたわけですが、30秒って、けっこう長いと思います。「同じページを30秒見続けなさい」と言われると苦痛だと思いますし。先生方が外来の患者さんから「ホームページで見てきましたよ」と声をかけていただくことも増えて、良いコミュニケーションのツールになっているようです。

医師のプライバシー主張にはどう答える?

「そうは言っても、先生たちの中には『なんで医者というだけで個人の情報を載せないといけなんだ!?』と言われてしまう」という病院も多いかもしれません。確かにそうです。でもTBSの「情熱大陸」から取材の申し込みが来たとしたら受けると思いませんか?? つまり、先生方がこの媒体なら載りたいなと思わせることも大切なことかもしれません。

あと、当院で写真や動画付きで掲載するのは副部長以上にしています。理由は2つありまして、1つ目は私自身の業務量として170名近くの医師をすべてカバーしていくことが難しい点と、2つ目は「俺にも個人情報がある!!」と言われた際に、「もう副部長ですから、諦めましょうよ」と言いやすいようにですかね(笑)

実際に、ホームページのリニューアル前は先生方が専門医などを取得しても、自発的に更新を依頼してくださることは少なかったのですが、リニューアル後は頻繁に更新依頼の連絡が入るようになり、先生方から積極的に協力してもらえるようになりました。

チーム医療は重要だとわかっているけれども…患者視点の発信を

ホームページでどんな情報を発信するかについて、もう少し。

「チーム医療」は現代の医療において欠かせないものです。私もよく現場に足を運びますので、色々な職種が協力しあって一人ひとりの患者さんに医療を提供している姿を多く見てきました。ただ、この「チーム医療」が生活者にとっては重要なファクターではないようです。なぜかというと「小倉記念病院 チーム医療」と検索している人は皆無であるから。

チーム医療は必要ないということを言っているわけではなく、医療提供者側が重要だと思っていることが、生活者にとって重要かはわからないということ。「病院を選ぶときのポイントはチーム医療だよね」と生活者に根付かせるためには、膨大な時間と投資が必要になります。それを追いかけることよりもGoogle アナリティクスで出ている答えを打ち返してあげたほうが効率的です。

webにこだわるやつ、PV数で勝負しちゃってマーケット範囲を無視しがち

昨年、「動悸がする」と検索すると当院のとあるページがGoogle検索の上位に表示されたことによって、ユーザーが2倍以上に増えました。Googleのアルゴリズムが変更されて公的な機関のwebページが優先的に表示されるようになったためです。

webにこだわる人って単純なPV数が増えたことだけを言う人がいるんですが、私はあんまり意味がないと思っています。だって病院は地場産業ですよ。東京の人が、動悸がしたからって小倉記念病院まで受診しにきませんよ。eコマースを展開するような企業じゃありませんから、マーケット範囲のユーザーを注視すべきです。

図2

小倉記念病院ウェブサイトにおける、福岡・大分・山口地域の45歳以上ユーザー

図3(クリックすると拡大します)(クリックすると拡大します)

図3でわかるように、当院では福岡・大分・山口地域の45歳以上でセグメントするようにしています。当院の入院患者の98%以上がこの地域からです。SEO対策(検索エンジンで上位表示させる施策)をしてマーケット範囲のユーザーを増やすのもいいのですが、投資(人・モノ・カネ・時間)も限られているので、Googleについていこうと思うと他の施策に手が回りません。当院では他のタッチポイントを充足させて、検索エンジンで「小倉記念病院」と打たせ、最後にホームページで口説ければいいかというスタンスです。Webで手広く集患するイメージは持っていません。

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