病院広報動画が公開1週間で40万回再生!“バズる”コンテンツの作り方とは?-社会医療法人杏嶺会・一宮西病院―病院マーケティング新時代(21)

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

目次

  • 院長の「コロナ禍の面会許可」方針に、当初は反発の声も
  • オペ室や診察室で婚活イベント!?すべては地域の活性化のため
  • 被災地からの患者受入の経験により、スタッフの自立心が養われた

コロナ禍以降、医療機関で感染症クラスター対策として「入院患者さんへの面会・お見舞いお断り」という掲示をよく目にするようになりました。そんな中、医療法人八女発心会姫野病院(福岡県)は、コロナ流行当初から面会を認めています。結果、入院・転院希望者が後を絶たなかったそうです。様々なリスクが想定される状況で、決断を支えた思いとは?舞台裏を企画管理室の川上勇貴さんに伺いました。

姫野病院 企画管理室 川上勇貴さん

院長の「コロナ禍の面会許可」方針に、当初は反発の声も

──姫野病院では新型コロナウイルス感染症の第一波から、面会を止めなかったそうですね。その方針はどのように決定されたのでしょうか。

院長は流行当初から「当院は面会を止めない」という方針を院内外に打ち出していました。
背景にあったのは「大切な家族との面会は、患者の治療効果を引き出す。認知症の進行遅延や、入院期間の短縮、死亡率の低減が期待できるはずだ」という判断です。

また、もし境界防御が破られ、院内にウイルスが侵入したとしても、院内に設けている数々のバリアーによる“多層防御”により、院内の感染拡大は防止できるという見込みもありました。

8年前に完成した当院の新病棟は、全館差額ベッド代不要の個室となっています。個室ごとにトイレ・洗面所が備えられた、独立空調、独立換気の簡易陰圧室です。
さらに、病棟ごとに200平米超の多目的スペースがありますので、間隔を保ちながらリハビリ・食事・レクレーションをすることが可能です。

ただその方針に対して、すぐに周囲の理解を得られたわけではありません。
スタッフからは「院内クラスターが発生したら、現場の責任が問われる可能性もある。面会は止めた方がいいのでは」という反対意見が挙がりました。また、町議会議員の先生方から「なぜ姫野病院は面会を止めないのか」と指摘を受けるなど、世間から“異端児”扱いされました。

そこで、「面会を止めない理由をしっかり伝えなければならない」と考え、病院の入り口に以下のポスターを掲示しました。

姫野病院がコロナ禍の面会についての考えを示したポスター

病院としてメッセージを発信したことで、院外から反対のご意見をいただくことはなくなりました。またスタッフたちにも「クラスターが発生しても経営層が責任を取る」という姿勢が伝わり、精神的安全性を保ちながら運用できるようになったと思います。

実際、一度だけ小規模クラスターが発生しましたが、他患者への感染なく、1週間で鎮静化しました。

──多くの医療機関が面会を止める中、簡単な決断ではなかったと思いますが、踏み切れたのはなぜでしょうか。

ベースには「病院が潰れると地域が潰れる」「地域が潰れると病院が潰れる」という当院の信条があります。私たちは日頃から、当院の姿勢が良くも悪くも地域の活気・雰囲気に影響すると考えながら病院を運営しているのです。

経営陣は地域の皆さんに「姫野病院があるから安心」と言ってもらえる病院としてあるべき姿を考え、決断したのだと思います。

「病気から逃げるのではなく立ち向かいたい」「十分な対策をした上でもし失敗したら、その反省を次に生かそう」という思いもありました。

──面会OKの方針は、入院患者さんやそのご家族から喜ばれていると聞きました。

そうですね。他院に入院されていた患者さんが、当院に救急車で搬送され、ずっと会えていなかったご家族とようやく再会できた事例もありました。とても喜んでいらっしゃって、それまで反対していたスタッフも、面会の意義を感じたようです。

コロナ病棟に入院中の患者さんへの面会も可能です。ご家族が防護具を着用して感染対策した状態であれば面会できます。看取りも可能となりました。

現在、他院に入院中で、ご家族と面会できないでいる多くの患者さんが、当院への転院を希望されています。病棟は満床の日々が続き、コロナ禍当初と比べて外来通院数も増えています。

今回の取材は、愛知県へ。名古屋駅から岐阜方面へ電車で20分ほどの場所にある、31科の総合病院、社会医療法人杏嶺会・一宮西病院(465床、尾張西部医療圏)に伺いました。2020年8月に同院がYouTubeにアップロードした「新人助産師の1日」という動画の視聴数は、わずか1週間で40万回を超え、9月中旬時点で57万回を記録。先駆けて3月に投稿された「新人看護師の1日」も視聴数46万回を超えており、病院のコンテンツとしては恐るべき拡散力です。今回はその動画を制作した広報戦略室の永井仁さんと服部沙耶さんに、“バズる動画”をいかに創り出したのか、その秘密を聞きました。

一宮西病院広報戦略室の永井仁さん(右)と服部沙耶さん(左)

“病院の独りよがりにならない”広報を

――ご無沙汰しています!永井さんとは、2019年の第21回日本医療マネジメント学会学術総会で私が担当したシンポジウム「集患と求人に繋がる病院広報」で、市民公開講座の取り組みについて登壇いただいた時以来ですね。その後もさまざまな場で、広報活動を発信され、受賞もされているとか。

永井:お久しぶりです!ありがたいことに、2018年の第68回日本病院学会ではプレスリリースに関する講演で優秀演題賞を、2019年の全国病院広報研究大会では市民団体と協働したコラボイベントの事例発表で最優秀賞をいただきました。本年度はコロナ禍で事例紹介の機会が失われ、みなさんにお会いできないのが残念です。

 ――ユニークな病院広報の取り組みによる素晴らしい実績ですね!さまざまな受賞を重ねてこられて、院内での広報戦略室の評価も変わってきているのではないですか?

永井:うれしい言葉をかけてくださる方もいて、とても励みになります。優秀なメンバーたちと一緒に実績を築いてきたことで、他部署からは広報のプロフェッショナルとして一定の信頼は得られているかと思います。というか、そう信じたい(笑)。ただ、この状況にあぐらをかいていてはいけないとも考えています。患者さん目線、一般市民目線を忘れない広報と、病院側の独りよがりにならない広報を、いつも強く意識しています。

YouTubeで再生回数57万回超えの病院広報動画とは?

――いろいろお聞きしたいことはあるのですが、今回は視聴数57万回超えのYouTube動画の制作にスポットを当てさせていただきます。あの動画は、どのような経緯で制作したのですか?

永井:人事部採用担当から、リクルート用にスタッフの働き方を案内する動画を制作できないかと相談されたのがきっかけです。今年3月にアップロードした「新人看護師編」が約4か月で視聴数40万回を突破、続けて8月にアップロードした「新人助産師編」は、1週間も経たないうちに40万回を超えました!その後も視聴数は伸び続け、9月中旬現在、新人看護師編は46万回、新人助産師編は57万回を超えています。

視聴ターゲットは看護師を志す若い年齢層と想定していましたので、動画全体の構成や演出については若い感性に託すべきだと判断し(笑)、広報戦略室の新人である服部にディレクション全般を任せました。いかにしてバズる動画を創り出したのか、服部からお話しします。

服部:前振りがすごい(笑)。私はYouTubeをよく見ます。YouTubeには、テレビ並みに撮影のレベルが高いものや、貴重な情報を発信しているものなど、さまざまな人気動画がたくさんアップロードされています。それらを見ながら、病院広報動画で視聴回数を伸ばすにはどうしたらよいかと考えました。そして、まずは自分が「これだ!」と思った映像編集や動画の構成などを参考に、見た人を感動させるような、メッセージ性の強い動画づくりを目指そうと決めました。

制作した動画には字幕だけでなく、ナレーションや出演者の生の声(インタビュー)も入れています。当院で働くスタッフ本人の声を発信することで、どんな思いで患者さんや仕事と向き合っているのかということに加え、人柄までも伝わるように工夫しました。そして動画内では、治療を受けられた患者さんにもコメントをいただきました。医療を提供する側と受ける側、双方のリアルな声がそのまま視聴者に伝わることを意識しました。

動画「人看護師の1日」の看護師インタビュー
動画「新人助産師の1日」の患者さんインタビュー

――私も動画を拝見しましたが、ドキュメンタリー番組のようでした。インタビューのタイミングも素晴らしく、人情に訴えかける作りで、見入ってしまいますね。

服部:私は以前から「看護師さんの仕事ってかっこいいな」と思っていたので、当日の密着取材は楽しみながら臨めました。患者さんのために一生懸命働く姿を目の当たりにして「なんてひたむきでかっこいいんだろう…!」とすごく感動したことを覚えています。同時に、ほかの人がこの姿を見ても、同じ気持ちになるだろうと確信したんです。密着した1日のありのままの姿を伝えることで、見た人に感動を届けられる動画、視聴者の心に響く動画を目指しました。

――動画の反響はいかがでしたか?

服部:「看護師さんがかっこいい!」「憧れます」という一般の方や、「将来の夢のためにとても参考になりました」という学生さん、「この病院でお世話になりました」という利用者さんなど、さまざまな方から好意的なコメントをたくさんいただきました。意外にも、他院で働いている看護師さんからの共感の声も多くありました。

――ここまで視聴回数が伸びた要因はなんでしょう?

永井:要因を一つに絞ることは難しいですが、少なくともYouTubeチャンネルの登録者数が増えたことが影響していると思います。3月の第一弾のアップロードで、当院YouTubeチャンネルの登録者数は200から1000まで増えました。そして8月の第二弾のアップロードでは更に2200まで増えました。

また当院には公式ブログやフェイスブックもありますので、そこでも同コンテンツの記事を展開することで、広くリーチできていると思います。YouTubeチャンネルをはじめとするオンライン上での情報発信の積み重ねにより、フォロワーが増えてきたことが、今回の反響に少なからず寄与したのだと考えます。

そして何よりも、コンテンツのクオリティの高さですね!視聴者目線で構成・編集した服部の感性によるところが一番大きいと思っています。ニーズにマッチしたと同時に、誰もが見入ってしまうような動画であると自信を持って言えます!

――今後も職員密着取材の動画を制作されるのですか?

服部:今は医師の密着取材動画を予定しているほか、バーチャル病院見学会の動画も制作中です。単純な施設紹介ムービーにならないよう、実際に院内を歩いている目線や尺を意識して撮影・編集をしています。前提として、バーチャル見学会などはリクルート用のコンテンツなので、採用担当者にとっては説明しやすい、エントリーしてくださる方にとってはわかりやすいツールになることを目指しています。

永井: コロナ禍をきっかけに、採用シーンも大きな転換期を迎えています。当法人の人事部長が申していたのですが、オンラインには、対面せずに細かなところまで情報を伝えられる、情報を曖昧なままではなく正確に記録できる、時間や場所を選ばない、そして採用担当者の経験やスキルに影響されにくい採用活動が担保できるなどのメリットがあります。今般のコロナ禍においてこういったツールは必要不可欠になってきています。そういう意味でも、オンラインでの情報発信を今後どんどん増やしていく予定です。

コロナ禍だからこそ…病院を訪れる患者への情報発信をおろそかにしない

――YouTubeはセルフメディアに近いものだと思いますが、元々貴院はメディア戦略が得意なイメージがあります。広報活動では、外部メディアを意識されているのでしょうか?

永井:プレスリリースを経たメディア露出は、大事な広報活動です。外部のメディアを介した広報、特にニュースや報道記事となると、記者やライターの目線、すなわち第三者目線を介した露出になります。いわゆる「広告・宣伝」にはない客観性が生まれるので、情報の受け手側には少なからず信頼が付加されるでしょう。外部メディアへの露出があるからこそ、広告・宣伝を含めた広報活動全般の価値も高まり、正のスパイラルが生まれると考えています。

――最後に、今後の一宮西病院の広報戦略室が目指す姿をお願いします。

永井:コロナ禍で、患者さんや一般市民の皆さんとの接点が減る中、情報発信はどうしても“外へ外へ”という意識になりがちです。しかしその一方で、身近な人たちへの情報発信を置き去りにしてしまっていないだろうか……?と、最近思うようになりました。患者さん目線、一般市民目線と言いながら、「じゃあ今日外来に来られた患者さんに、我々はどんな有益な情報をお届けできたのだろう?」と自問自答してみると、すぐに答えが出ませんでした。

コロナの影響で、患者さんは病院に足を運ぶことさえ、高いハードルを感じていると思います。患者数減により、経営的に逆風が吹いている民間病院さんもあるでしょう。だからこそ、それでも受診して下さった患者さんを大切にしなくてはなりません。

当院では昨年まで市民公開講座を頻繁に実施してきましたが、今年度はまだ一度も実施できておりません。患者さんや市民の皆さんと対面する機会が激減した今だからこそ、病院へ来てくださった患者さんやそのご家族への情報発信にも、注力しなくてはならないと思っています。そういう観点から、ポスター・パネルなどの院内掲示物や、院内に常時設置しているパンフレット類、待合スペースに設置している情報モニターのコンテンツ充実化など、“足もと”の情報発信を見直し、パワーアップさせているところです。

病院の外に向けた広報と、病院の中での広報。この両輪がそろって初めて、真の患者さん目線、一般市民目線の広報が実現するのではないかと考えています。

<取材をしてみて>

コロナ禍により、社会はさまざまな変化が求められています。今回の医療職の密着動画が57万回もの視聴数に至った背景には、新型コロナウイルス感染症の流行があると感じました。各医療機関がオンラインによる採用活動を強化し始め、オンラインでの情報発信と情報収集が必然となっています。さらに、世の中が対面での接触を制限されている中で、人の心が、より感動や共感に動くようになってきたことが影響しているのではないでしょうか。
取材では、永井さんの「一宮西病院の広報内容は、患者と一般市民の目線を忘れない」という言葉が胸に刺さりました。採用活動のために制作された動画ですが、医療従事者だけではなく、患者と一般市民の目線を意識して制作したことが、これだけの人気動画に成長した大きな要因だと感じました。

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