海外の医学部に進学するという道

ハンガリー国立 Semmelweis大学医学部
吉田いづみ

2016年3月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

私はハンガリーの国立大学にて、英語で医療を学び、世界で活躍のできる医師を目指しています。将来は、英語で医学を学んだこと、ヨーロッパで医学を学んだこと、を活かせる活動や仕事を志しています。日本で医学を学ぶ学生とは異なる視点で、ハンガリーやヨーロッパの医療事情や体制、そして日本の医療について発信しようと思います。

ハンガリーの大学医学部を選んだ理由

私は生後すぐに心室中隔欠損症という先天性心奇形の手術を受け、長い間入院生活を送りました。そのためか、物心ついたときには「自分は医者になるんだ」と思うようになっていました。しかし、高校生活では勉強に身が入らず、そのままでは医学部への進学は難しい状況でした。そんな時、外国人に東京を案内する機会を得ました。その経験は、英語嫌いだった私に、違う文化の人とコミュニケートすることの楽しさを教えてくれました。

大学は英語系の道に進もうと心変わりしましたが、受験前に体調を崩し、試験を受けることができませんでした。留年することが決まった時、やはり初心どおり医学の道を志すことに決め、同時に高校で目覚めた英語の道も、どちらも両立して同時に学べる道はないのかと探し始めました。そしてハンガリーの医学部を見つけ、進学することを決めました。アメリカの医学部より入学は厳しくなく、かつ学費が日本の私大医学部より安いことも魅力でした。入学は容易だけれど、進級や卒業がとても厳しいということを知ったのは後になってからです。全く英語も話せないまま、半分旅行気分で私はひとりハンガリーへと旅立ちました。

ハンガリーという国

ヨーロッパのほぼ中央に位置し、7つの国に囲まれた内陸国で、国土面積は北海道とほぼ同じ9万3千平方キロ、人口は約1千万人と小さな国です。豊かな自然に恵まれており、首都ブダペストの夜景は“ドナウの真珠”と呼ばれ、たくさんの観光客が訪れます。ルービックキューブやボールペンの発祥地であり、ワインやマンガリッツァ(ハンガリーの国宝豚肉)の産地としても有名です。
そして何よりハンガリーでは、教育と研究と共にレベルが高く、ノーベル賞受賞者の人口における割合は、世界一です。また、共和制の国でもあったことから、長い歴史と文化の香りが高く、留学生が勉強するにはとても良い環境です。2004年にはEUにも加盟し、これからのさらなる発展が期待されています。ハンガリーで取得した医師の免許はEUの28カ国の全ての国で自動的に認定されます。その医学の学位はもちろんWHO(世界保健機構)のWorld Directory of Medical Schoolsに報告されていますし、EU諸国では自動的に受け入れられます。その他にもアメリカ合衆国の外国医学部卒業生向けの医師国家試験や、日本の医師国家試験の受験資格も得ることが出来ます。

Semmelweis university, faculty of medicine での医学教育

ハンガリーには4つの国立医学部があり、私は首都ブダペストにある Semmelweis 大学に通っています。Semmelweis 大学は 380 年の歴史を持ち、医学、歯学、薬学、体育学・スポーツ科学、ヘルスケア学といった、医療系専門の大学であり、卒業生にはノーベル賞受賞者など、国際的活躍が知られる研究者を多く生み出しています。また、臓器移植科はヨーロッパのトップと言われており、腎臓移植は年間236件(2014年)とヨーロッパ最多です。

医学部はハンガリー語、ドイツ語、そして英語の3コースに分かれており、過去 30 年の間に 1 万人以上の留学生が英語コースに入学しています。留学生の主な出身国は、ノルウェー、イスラエル、スウェーデン、イラン、アメリカ、スペイン、カナダ、ギリシャ、日本、キプロスなどがあげられます。そして、学生数増加に対応すべく、2008 年には新たにBasic Medical Centerが建設され、ヨーロッパでも有数の充実した施設でより高度な研究活動、医療が可能になっています。

日本と同じく、高校を卒業して直接医学部に進学し、6 年教育のうち 2 年で基礎医学、残り 4 年で臨床医学を学びます。特徴的なのは、臨床医学に力を入れ、座学は全て 5 年次までに終わらせ、6 年次は丸 1 年現場での研修、ローテーションとなっています。その他にも、それぞれ 1 か月ずつ、1 年終了時に看護研修、3 年で内科研修、4 年で外科研修が必須となっています。また、病院に来る患者さんはもちろん、ほとんどがハンガリー人なので問診や診察ができる程度のハンガリー語も学びます。
そして何より、ハンガリーの医学部は典型的な“入るのは簡単だが、卒業が難しい”学校であり、入学者の 1/3 がストレートで卒業、1/3 が留年して卒業、そして残りの 1/3 が強制退学または自主退学します。入学した学生の 70% 程度が留年せず卒業する日本の大学医学部とは大きく状況が異なります。

日本人学生

Semmelweisで共に学んでいる日本人学生とて例外ではなく、毎年 10~20 名ほど入学し、3 年生を終える頃には半分以下に減ります。
大学卒業後に日本の医師国家試験を受験するためには、帰国語に厚生労働省への書類申請、日本語診療能力調査があり、その両方を通過することが医師国家試験の受験条件となっています。その 2 つの審査と並行して、私たちは日本語で医学を勉強しなおさなければなりません。そのために現在、国家試験対策として、卒業後( 8 月)から 2 月の国家試験までの半年間、つくば記念病院、筑波大学、順天堂大学、弘前大学、岡山大学が受け入れ、受験のノウハウから実習まで指導して下さいます。他にも慶応大学、獨協医科大学、国立国際医療センターが研修やローテーションの受け入れなどサポート下さるシステムがあります。
ただ、やはり日本の医師国家試験は甘くはなく、ハンガリーの医学部卒業生の合格率は2014年度が 86 %、2015 年は 65 %です。。

このように決して平坦な道のりではありませんが、英語で医学を学ぶこと、ヨーロッパで医学を学ぶことは、将来自分の視野を広げ、日本だけでなく世界の医療にも貢献できることを信じて学んでいます。まだまだ学生身分の私ですが、今できることを精一杯やり、今後につなげていきたいと思っています。

(2016年3月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

 

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