病院の賃金制度は見直すべき?診療報酬改定前に知っておきたい3つの分析ポイント

この頃、賃金制度の見直しを検討する病院が増えてきました。その一因には、2018年度の診療報酬改定が厳しい内容になると予想されている点が挙げられます。そもそも賃金には「職員を方向づけてモチベートする」「戦略的な採用と定着を促す」といった側面がある一方で、病院経営にも大きな影響を与えるため、「人件費のコントロール」として機能することもあります。今回は、厳しさが増す診療報酬改定前だからこそ確認したい、賃金制度の見直しポイントをお伝えします。

制度の見直しは、とにもかくにも「現状分析」から

はじめに行うべきことは、院内での賃金支給状況をグラフプロットして現状分析を行うことです。

看護部の実存賃金支給状況

分析の観点1:院内の支給状況をチェック

縦軸が賃金で、横軸が経験年数、丸は色ごとに各人の等級(グレード)を表しています。全体としては年功序列で給与が上がる実態が読み取れますが、よく見ると、正看護師Aさんよりも等級の低い准看護師Bさんの方が高年収という状況が起こっています。このような状況は病院として望ましい状態か、と問い直す必要が出てきます。もちろん、意図があれば問題無いのですが、評価したい人にきちんと報いているかを意識して再点検が必要です。

また、医療専門職の人材確保のため、採用難時代に設定した賃金がそのままになっていないかという見直しも必要です。医療制度の変遷とともに医療専門職の人材市場動向も変わるので、定期的な見直し、採用時とその後のルール設定は必須とも言えるでしょう。

分析の観点2:他院と比較し、自院の相場を知る

院内の現状分析後は、院外にも視野を広げてみます。病院の賃金相場は、次のようなデータから比較できますので、各データの長所・短所を意識したうえで確認してみてください。

賃金相場の情報ソース:病院賃金実態資料(医療経営情報研究所)、病院給与・勤務条件実態調査(全国病院経営管理学会)、(介護の場合)介護労働実態調査

そのほか、採用競争力を自院のエリアに絞って確かめるなら、ハローワークでの情報収集も参考になります。最低賃金は改定額が更新されますので、毎年、最新情報を参照するよう気を付けねばなりません。また、人材紹介会社の情報を活用するのもひとつの手です。

分析の観点3:自院の方向性、持続可能性を確かめる

最後に、自院の立ち位置がわかったところで、病院の方向性と賃金が正しく連動しているかを確かめます。たとえば、病院全体で「在宅」に力を入れていきたいという時、外来看護師と訪問看護師の処遇が同じで良いのか、といったような見方です。

併せて、年功序列・定期昇給を取り入れている病院は、このまま職員が高齢化した時に賃金を払い続けられるかという観点も忘れてはなりません。年齢に基づいた全員一律の賃金支給では、頑張っている職員が待遇に不満を抱いて辞めてしまう可能性が高まります。そういった退職を防ぐためには、過度な格差が生まれないよう、法人として何を評価したいかを見極めたうえで支給額を個別設定するといった工夫が必要です。

賃金制度も、時代とともに移りゆくもの

「働き方改革」が叫ばれる昨今、賃金制度も時代とともに変わりつつあります。

人事制度の変遷:生活保障主義、年功・勤続主義、能力主義、成果主義、行動主義(コンピテンシー)、ミッション(役割)主義

今、どの制度を利用しているのか、今後どの制度に移行すべきなのかは病院によって異なります。年功・勤続/職能主義の病院もまだ多いと思いますが、そこから成果主義に移るのか、それとも行動主義、あるいはミッション主義なのかは、現状の制度や支給状況をしっかり分析したうえで見つけていきましょう。

四元美緑(よつもと・みのり)
九州大学文学部出身。エムスリーキャリアにて医師を中心とした医療従事者の採用戦略立案・実行支援に従事した後、現在は、医療機関の人事制度設計や運用支援に携わる。

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