病院の組織文化変革には、看護部を味方にせよ―ちば医経塾長・井上貴裕が指南する「病院長の心得」(10)

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病院経営のスペシャリストを養成する「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム-」塾長である井上貴裕氏が、病院経営者の心得を指南します。

著者:井上貴裕 千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授・ちば医経塾塾長

目次

「コロナ禍の病院経営」から「自助努力での経営」に転換を

病院にとって4~5月は、新人研修やゴールデンウィークなどがあり、稼働状況が不安定になりがちです。「いよいよ6月からが本格的なスタート」という病院も少なくないでしょう。

現段階で新型コロナウイルス感染症は落ち着いており、感染者はいまだ存在するものの、入院患者数は以前と比べると激減しています。とは言え、コロナ前と比べると、患者数が戻っていない病院は多いと思います。

ただ、スタッフは「コロナ病床をまだ確保しているから」と考え、経営陣さえも「コロナ補助金がまだ続いているから大丈夫」という気持ちを払拭できてないかもしれません。
そのような甘えを抱き続けていては、競合医療機関に後塵を拝すだけです。空床確保に関するコロナ補助金も財源等の観点からそろそろ厳しくなる局面ですから、病院は自助努力でコロナ前の状況まで経営を回復させる必要があります。今まさに病院は「コロナ禍の経営」から「自助努力での経営」に転換が求められているのです。

さて、病院組織の文化を変革する際、キーとなるのは誰でしょうか。
もちろん、経営陣のリーダーシップはいついかなるときも大切です。また、医療チームを率いるという意味では、その中心となる医師がどう考え、行動するかも診療実績に直接的な影響を及ぼします。

しかし、組織文化の変革に最もキーとなる存在は、看護師だと思います。人員配置の面からみても、病院において看護師が大切であることは明らかです。

上の図表は、急性期入院医療の支払い方式であるDPCに参加する病院(大学病院本院群、特定病院群、標準病院群)について、100床当たりの職種別職員数を見たものです。
どの病院群も、医師・コメディカル・看護補助者と比べて看護師が最も多く、特に特定病院群・標準病院群では圧倒的多数を占めています。

私は看護師を味方につけなければ、病院経営はできないと考えています。とは言え、おもねる必要はありません。むしろ、経営者がおもねっていては、看護部や病院が持つ本来のパフォーマンスを発揮することもできなくなるでしょう。
本稿では、病院経営における看護師の重要性・看護部の特性をお伝えした上で、看護師を巻き込んで組織を一つの方向に導くための方法を考えていきたいと思います。

病院経営における看護師の重要性

まず病院経営における看護師の重要性について考えていきましょう。私が看護師を重視するのには5つの理由があります。

1.看護師配置が病院収入に影響する

まず1つ目は、病院収入のかなりの比率を占める入院料等(病院機能にもよりますが)について、看護師配置が直接的な影響を及ぼすことです。

もちろん、入院料の全てが看護師による収入ではありませんが、ICU等のユニット系では2対1などの手厚い看護師配置が、一般・療養病棟では7対1から20対1までの看護師配置がそれぞれ求められており、この基準を満たすことは最低条件になります。

急性期一般入院料等の評価で用いられる重症度、医療・看護必要度が、もともと看護必要度から始まったように(現状では看護だけではないという色が濃くなっていますが)、影響力は甚大なのです。

2.現場やスタッフを一番理解・熟知している

2つ目は、看護師は現場を一番理解し、熟知しているということです。入院料等でも24時間体制の看護師配置が求められていますから、常に病棟にいる存在です。

他の職種よりも患者のそばにいる時間が長く、患者のことを深く知っています。患者が急変したとき、近くにいた看護師がすぐに医師を呼んだことが救命につながるケースも多いです。

そして、スタッフの情報を深く知っているのも看護師です。病院長の前では無骨で感じが悪い医師も、看護師からは「患者想い」と信頼されていることは珍しくありませんし、その反対もあります。「一人の看護師の意見が全て」というつもりはありませんが、看護部から全く信頼されない医師が、病院でいい仕事をすることはないでしょう。

3.あらゆる施策は看護部の「Yes」が必要

そして、病院長が考えるあらゆる施策は、看護部がNoを出せば実行できません。これが3つ目の理由です。

看護部は軍隊組織のような特性を有するので、上からの指示をやり遂げる力は持っています。ただ、看護部を動かすためには、看護管理者を納得させるだけの論理が重要です。
看護管理者は多数の部下の人生を抱えており、その部下たちへの説明責任があるゆえに、経済性だけでは動きません。「患者のためである」「皆の成長につながる」などの説明ができなければ、看護組織を納得させられないのです。

有力医師の発言は、実は看護部の言葉を代弁しているケースが少なくありません。他職種と比較して圧倒的に多い職員数と、経済性を必ずしも重視しない特性を持つこの部門を大切にしなければ、病院長は組織を牽引できないのです。

4.病院の業務効率性の向上には、協力が不可欠

4つ目は、病院の業務効率を向上させようとすれば、看護部の理解と協力が不可欠ということです。

急性期病院にとって極めて重要な手術室の稼働率について、もちろん麻酔科医のマンパワーも必要ですが、次いで鍵を握るのは手術室看護師です。救急では看護師を中心としたトリアージが、ICU等の集中治療室では看護師による24時間の病態観察が、救命につながります。円滑な入退院支援のための、入院時支援などの中心となるのも看護部です。

また、様々な診療報酬の加算を適切に算定するためには、看護部の協力が不可欠です。

事務部門がどれだけ声高に「加算を取ろう」と主張しても、机上の空論に終わる可能性がありますが、看護部の協力によって、その実効性が高まるケースは多いでしょう。

そして、現場を理解する優秀な事務職員を育てるのも、看護師であると私は考えています。

5.看護管理者の発想が、病院のパフォーマンスに影響する

最後に、看護管理者がどのような発想を持つかによって、病院組織のパフォーマンスが大きく変わることを、経営者は肝に銘じましょう。

看護師長が交代することで、その部門の稼働率が変動することは頻繁にあります。前師長時代は「人員が足りないから、これ以上患者を受け入れられない」と繰り返し主張していたのに、師長が代わると、嘘のように稼働率が向上することもあります。

より上位の役職者である看護部長・看護副部長などの考え方は、さらに大きな影響力を持ちます。
病院の経営にとって重要である、次年度の看護師採用人数についても看護部の上層部の意向は大きいです。どのような発想の管理者が、離職率を見積もるかも重要になります。離職率が1ポイント違えば、採用人数が大きく変わる可能性があるからです。

看護部を巻き込み、組織を一つの方向に導くには

これらのことから、病院長には「看護部を味方につける方策を考えるべき」とお伝えしたいと思います。それには、看護師の特性をふまえたマネジメントが必要です。

1つ目の特性は、感情の論理が影響することが多いことです。
医療人はエビデンスに基づき客観的であろうとしますが、看護師は医師に比べると感情的な側面が強いように感じます(もちろん、個人差はあります)。

目の前の患者に寄り添うのが看護師ですから、広い視野から客観的な立ち位置を把握しづらいのかもしれません。「患者のために」という強い思いが、そうさせる面もあるでしょう。そのため、自院しか経験がない看護師の場合、世間の常識からは乖離している可能性もあります。

もちろん看護師は医療職ですから、常に検査データなど客観的な数値で意思決定しています。決して、客観的な数値を理解する能力に欠けているわけではありません。しかし、経営者としては感情の論理が大切であるという特性をふまえておくべきでしょう。

2つ目は、医療制度や診療報酬について正確に理解していない看護師も多いことです(これは看護師という職種に限ったことではありませんが)。
自部署に関係することならある程度は知っているでしょうが、理解は曖昧だと思います。ましてや2年に一度変わる診療報酬の最新の知見を持っているかというと、必ずしもそうではないはずです。

では、このような特性を持つ看護部を巻き込み、病院組織を一つの方向に導くためにはどうしたらいいのでしょうか。

私は経営に参画する看護部を創り、看護部に権限移譲を行うことを提案します。看護部のモチベーションと経営への意識が高まり、病院運営・経営の協力を得やすくなると考えるためです。ただ、権限には責任が伴いますから、定期的なモニタリングは不可欠でしょう。また、権限に伴うだけの実力を持ってもらうことが前提です。

そのために、看護部への教育や、人財への投資を惜しまず行いましょう。
看護協会の研修会など、看護師という枠内での学びだけではなく、より広い視野で病院経営を学ぶ機会を増やしていただきたいです。看護部から経営のパートナーと呼べるほどの人財を育成できるかどうかが、病院長の腕の見せ所でしょう。

【筆者プロフィール】

井上貴裕(いのうえ・たかひろ)
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授。病院経営の司令塔を育てることを目指して千葉大学医学部附属病院が開講した「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム- 」の塾長を務める。
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学修士、上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を修得。
岡山大学病院 病院長補佐・東邦大学医学部医学科 客員教授、日本大学医学部社会医学系医療管理学分野 客員教授・自治医科大学 客員教授。

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