初診待ち最長10カ月の発達障害領域を変えろ!あるクリニックの挑戦

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自閉症やアスペルガー症候群などの総称である「発達障害」。近年、患者が急増している領域で、初診は3カ月から10カ月待ちとも言われています。その一因には、手厚い診療が必要な割に診療報酬が少なく、専門医・専門医療機関になるハードルの高さがあります。

そんな中、通常の1.5~2倍の患者数を診られるまでに診療効率を高めながらも、県内外から予約が入るほどの人気ぶりを見せるのが「パークサイドこころの発達クリニック」(福岡県福岡市)。一体、どのようなクリニック運営をしているのか。その核心に迫りました。

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患者は増加するのに、専門機関が増えないわけ

「発達障害」が世に広まるきっかけとなったのは、2005年4月に施行された発達障害者支援法です。それまでは「育て方が悪い」「本人の努力不足」とも言われていた規定の症状が支援対象となったため、同法が施行されて以来、患者は増加を続けています。現在の患者総数は19万5000人(推計値、2014年10月時点)に対し、専門医療機関数は19都道府県で27施設。半数以上の医療機関で、3カ月から最長10カ月の初診待ちが発生しています(総務省調べ、2017年1月時点)。

このように供給が追い付かない背景には、患者一人あたり30分から1時間程の手厚い診療が必要な割に、診療報酬が少ないことが挙げられています。

たとえば、精神科医の診療では、「通院・在宅精神療法」として診療報酬を算定できますが、診療時間は30分未満(330点)と30分以上(400点)の2区分のみで、たとえ患者の症状に合わせて1時間や2時間の診療をしたとしても400点しか請求できません。小児科医による診療の場合は「小児特定疾患カウンセリング料」(月1回目は500点、月2回目は400点)が算定できますが、こちらは算定年数が2年間という限度があります。

こうした実態を受けて、2017年には総務省が「発達障害者支援に関する行政評価・監視 結果に基づく勧告」でも指摘するに至りました。

効率化で1.5~2倍の患者を診療可能に

原田剛志

原田剛志先生

診療報酬が少ないなら効率化による患者増でカバーし、その上で医療の質も保つ――。一見無謀にも思える取り組みを実現しているのが「パークサイドこころの発達クリニック」の原田剛志先生です。発達障害専門クリニックとして年間延べ約13,000件の診察を行っています。まずは効率化の取り組みから見ていきます。

◇ウェブ問診票で、患者・医療者の双方に恩恵

発達障害の診療は、生活状況や困っている症状などを丁寧に問診する必要があり、1回の診療時間が長くなりがち。さらに通院回数も、治療の開始前だけでも初診や検査、診断告知で複数回あり、治療開始後は定期的に通院することになります。その度に生活状況などを確認していては時間が足りなくなるのは明らか。

そこで、原田先生が導入したのがウェブ問診票でした。

原田 ウェブ問診票は、患者さんがスマートフォンやパソコンから回答できます。初診・再診ともに患者さんの来院前に確認できるので一人あたりの診療時間が短くなり、通常なら1日約25人のところ、50人くらいまで診られるようになりました。患者さんにとっては事前に話したいことをまとめられますし、当院の事務職員も電子カルテに入力し直す手間が省けるので、双方にメリットがあります。

◇タスクシフティングによる、クリニック一丸の診療

医師だけで診るのでなく、クリニックの職員が一丸となって患者を受け入れるためのタスクシフティングも進んでいる同院。一例として、カルテのアウトライン作成は事務スタッフ、初診時のインテーク(患者の問題・状況を聞き取る受理面接)は臨床心理士が担い、医師は診療に集中できているといいます。

タスクシフティングにおいて、原田先生が重視しているのは職員教育です。

原田 タスクシフティングは単なる効率アップにとどまらず、『職員全員で患者さんを支えていこう』という、クリニックの一体感を生むのにひと役買っています。

ただ、ここで大事なのは機械的にタスクシフトするのでなく、患者さんや診療内容などを職員に理解してもらうことです。ですから当院の職員には、積極的に陪席(患者の診療場面に同席すること)してもらっています。他にも、インテークした職員に担当患者さんの見立てを診療後すぐに伝えるなど、その場その場で学べる体制をつくっています。ただ、対面では時間がとれない時もあるので、職員同士のオンライン情報共有ツールを取り入れました。おかげで会議を開かずとも、やりとりができています。

◇ホームページで、自院と相性の良い患者を集める

スピーディーな診療の実現には、院内体制の整備だけでなく、「自院と相性の良い患者が来院しているか」という視点も大切です。

発達障害の場合、家族が患者不在のまま治療を進めようとしたり、家庭内の考えの不一致から治療中断に至ったりするなど、さまざまなケースがあります。このことから、同院のホームページには治療に対する考え方などの“ハウスルール”を明記。治療に重きを置いていることをアピールしているため、患者サイドと医療者サイドの共通認識ができた状態で初診をスタートできているといいます。

医療の質を高める効率化

発達障害治療の一翼を担う医療事務スタッフ

ややもすると、スピーディーな診療は、患者と接する時間が短くなり、“3分診療”のようなネガティブなイメージを抱くかもしれません。しかし効率化と質の担保は、相反するものではないようです。原田先生が効率化を推し進めるのは、それによって生まれたちょっとした時間と心の余裕を、クリニックの場づくりに生かすためなのです。

原田 ここではクリニックではなく、おじさんの家に来たような雰囲気をつくりたいと思っています。放課後デイサービスや家族支援のためのペアレント・トレーニングといった支援も大切にしながら、クリニックで心掛けているのは『テストで100点とったんだよね』とか『高校合格おめでとう』といった、職員全員で患者さんを巻き込むような声かけです。こうしたコミュニケーションがあることで、クリニックが“人間関係の塾”みたいな一面も持つようになっています。

発達障害治療のゴールデンスタンダードをめざして

パークサイドこころの発達クリニック外観

「発達障害のクリニックはやめておけ」という反対を押し切って開業した原田先生ですが、はじめからこの領域を志していたわけではありません。きっかけは児童精神分析を学ぶ中で、発達障害領域に精神医療の進歩とおもしろさを感じたことでした。以前は教科書で「例外」として扱われていた症状に一定の法則性が見出され、「発達障害」として研究が進んだことで、障害克服の糸口が生まれたのです。

発達障害に興味を抱いてからは、全国津々浦々、精神科の第一線にいる先生方の診療に陪席して発達障害を学んできました。そして多くの学びを糧に、今は大きな夢を抱いています。

原田 困っている症状を解決するのはあくまでも短期目標。最終的には患者さんごとの特性に応じて環境を整え、生き方そのものを支援できるようになりたいんです。だから今、福祉分野や教育分野の方々とも交流して、視野を広げているところです。

将来的には、こうした支援を患者さんが全国どこでも受けられるようにしたいですね。そのために、発達障害に関わるさまざまな人たちと協力して、発達障害のゴールデンスタンダードをつくることが目標です。これができれば、発達障害領域で一定のクオリティを保った標準治療をあらゆる地域で提供できるのではないかと思います。

実際に、患者がいつでもどこでも発達障害の診療を受けられるよう、医療者らのネットワークの輪が広がりを見せています。100以上の医療機関が参加する定期会合や情報交換もさかんに行われており、原田先生も積極的に参加されています。

2018年度の診療報酬改定では、算定対象となる患者年齢の拡大や心療内科医の診療も算定対象になるなど、追い風が吹き始めました。医療者が発達障害領域に目を向けやすくなった今、医療者の輪を広げようとする原田先生の挑戦は続きます。

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