度重なる厳しい診療報酬改定や医療業界の変化を受け、全国の医療機関では日々、さまざまな改善活動が行われています。しかし方法論を押さえず、闇雲に経営改善を進めた結果、「思ったような成果が得られなかった」「本当にやってよかったのか評価できない」という事態に陥ることが珍しくありません。
改善活動で気を付けたいのは、取り組む内容を直感で決めないこと。今回は、院内改善を成功に導くために知っておきたいKPI(重要業績評価指標;Key Performance Indicator)の考え方とその管理手法について解説します。
改善活動の第一歩はKPI設定
ある日、経営者が「経営状況が悪いから、明日から節電を強化しよう。電気の使用量を毎日チェックするように」と言ったら、あなたはどのように受け止めるでしょうか。「本当に経営改善させたいなら、電気代より先にチェックすべきものがあるのでは?」などと思うかもしれません。経営改善という目標を達成するために、何をモニタリングすると最も効果的か―換言すると、「何を中間目標とすべきか」という考え方を持つことが、こうした場面では重要です。
ビジネスの世界では、組織や個人が達成すべき最終的なゴールをKGI(重要目標達成指標;Key Goal Indicator)と呼びます。そしてKGIを分解したさまざまな指標の中から、KGIの動きを左右する指標、つまり中間目標(KPI)を選びます。これを「KPI設定」と呼びます。
たとえば経営活動のKGIとして「医業収益の向上」を設定したとしましょう。医業収益は大きく、入院と外来の2つの指標に分けられるため、以下のような形で分解できます。
入院収益をさらに分解すると、以下の項目で構成されていることが分かります。
ここまで分解した上で、どの指標をKPIに設定するかは、組織や個人の抱える課題や改善余地がどこにあるのかによって変わります。このようにKPIを用いた改善活動の第一歩は、KGIを要素分解して自院にふさわしいKPIを見つけ出すところから始まります。
指標の要素分解とベンチマーク分析で課題を明確に
さて、KPI設定のためにKGIをさまざまな指標に要素分解する必要があることは分かりました。そして実際に医業収益を分解してみて、KPI候補を洗い出しました。
ここからは、どの指標をKPIにすべきか、そして、KPIの目標値をどのように決めれば良いか考えていきます。KPIとその目標を設定するために、本稿ではベンチマーク分析を用いて、ライバル病院と指標を比較していきます。なお、目標値を設定する際には厚生労働省が公表している「病院経営管理指標」も参考になるでしょう。
では、さっそくA病院とB病院を例に、ベンチマーク分析をしてみます。A病院は、隣町のB病院に比べて入院収益が少ないことを課題に感じていますが、何を改善すべきかが分かっていません。そこで「病院経営管理指標」も参考にしながら、どの数値に問題があるのかを検証することにしました。なお、今回のように同規模の医療機関と比較した方が経営に役立つ数値を得やすくなるため、比較対象病院の病床数には注意しましょう。
A病院:200床 × 80% ×35,000点×30日
B病院:200床 × 88% ×34,500点×30日
こうして見ると、特に病床稼働率にB病院との乖離が見られました。病床稼働率に絞ってさらに要素分解してみます。
分母の「病床数×稼働日数」はB病院と差が少なかったため、分子の患者数に注目します。すると、以下のような結果が得られました。
A病院: 少 + 少 - 多
この結果から、退院する患者の方が多いため、病床稼働率が低くなっていることが分かりました。背景を考察したところ、A病院が平均在院日数の短縮に取り組んでいたことと関係がありそうです。平均在院日数が短縮されると、回転率が上がり、退院患者数は増えます。その退院数の増加に見合うだけの新規入院数を維持できなかったため、病床稼働率も低くなっていたのです。
それでは、新規入院患者数を増やすためには、どうすればよいでしょうか。今度は新規入院患者を、経路ごとに分解して考えてみます。
A病院の場合: 並 + 並 + 少 + 多
A病院では、紹介経由での入院が少ないことが判明しました。
念のため、入院収益の分解式に戻り、1床あたり点数も比較しましたが、B病院との大きな乖離はなさそうです。そこで、KPIに「紹介患者数」を設定。定期的に数値を把握しながら、まずはB病院と同じ病床稼働率88%をめざして、紹介患者の増加策に取り組むことにしました。
A病院:200床 × 80% ×35,000点×30日
B病院:200床 × 88% ×34,500点×30日
このように、数値を分解してKPIを設定することが、改善活動で着実に効果を上げるために必要不可欠です。
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