本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。
著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門
人口減少が著しい日本では、移住を促す企画が催されたり、子育てに強いまちづくりに力を入れたりする自治体が増えています。コンパクトシティ化を目指し、持続可能な地域づくりを検討する自治体もあります。そんな中、小樽市では北海道済生会小樽病院がまちづくりの中心となり、地域を動かしています。医療福祉グループの社会的・経営的ミッションと、まちづくりへの取り組みを、北海道済生会常務理事の櫛引久丸さんに伺いました。
目次
病院を中心にコンパクトシティ化を推進
──北海道済生会小樽病院が、まちづくりに関わるようになった背景を教えてください。
小樽市は美しいまちで観光都市としても有名ですが、生活するとなると、豪雪・高齢化など厳しい課題が広がっています。小樽市を未来も持続可能なまちにしていくためには、これらの課題を突破する必要があります。
社会福祉法人である北海道済生会小樽病院は、地域の課題解決を社会的・経営的ミッションとして捉えております。
まず社会的ミッションについてご説明します。
小樽市には高齢化や急傾斜地、豪雪地帯といった独特の課題が存在し、暮らしていくにはさまざまな工夫が必要です。これらの地域課題を社会福祉法人として、医療・病院・福祉グループとして解決できないかと考え、2018年の病院新築移転を決断しました。
移転先の小樽築港地区は、平坦地で商業施設と駅があり、暮らしやすい場所です。地域全体を大きく変革し、未来を築くためのフィールドとして魅力がありました。
人口増加が見込めない中、高齢者が増える地域では、分散型のまちづくりよりもコンパクトシティが適しています。当院の移転によりコンパクトシティ化が加速し、高齢者人口の住宅密集度が増すことで、小樽の将来に寄与できると考えたのです。
医療と福祉のまちづくりを中心に据え、商業施設とも連携しながら、地域の中核をなすことを目指しました。
──経営的ミッションについてはいかがですか。
医療機関の経営は、今後ますます難しくなると予測されています。当院も病院経営のバリューチェーンを見直し、新しいビジネススタイルを検討しました。
通常の病院のバリューチェーンは健診から始まり、外来、入院、回復期リハビリを経て在宅に向かう一般的なサイクルがあります。一方、地域包括ケアシステムの概念が広まっている今、医療機関の役割はこのサイクルに限定されないと考えました。
当院は、健診の前に「未病」や「地域の課題」を位置づけています。医療と福祉を融合することで、病気だけでなく、住民の課題解決にも関わる場所になりました。
住民との関係を深め、来院のハードルを下げる。そして済生会ブランドの信頼性を高めていき、いざというときは医療でも頼ってもらえるようにという戦略です。
結果として、社会的ミッションと経営的ミッションを同時に進め、地域の医療機関としての新しいビジネススタイルを築くことができました。
飲食店誘致・商業施設とのタイアップで地域に賑わい
──二つのミッションを同時に動かしてきたんですね。病院の移転は2018年ということですが、ビジョンはどのように設定して進めたのですか。
病院を建設する前に、まず第1期の基本構想を作成しました。医療福祉のまちづくりに焦点を当て、病院の移転を通じて地域への雇用創出とまちづくりへの貢献を描いています。
基本的には私が構想を描き、当時の経営企画室のメンバー2人と協力して進めました。病院が完成した2018年からまちづくりも本格化し、病院の敷地近くに飲食店を誘致。回転寿司やチェーンの飲食店、コンビニなどがオープンし、地域に賑わいをもたらしました。
この地域は医療関連福祉サービスの業務地区と指定され、本来は商業施設の建設が難しいエリアです。しかし、地域に賑わいを生み出すために、無理を承知で行政への提案書を作成し、実現させる努力をしました。
──具体的にはどのようなアクションをされたのですか。
病院と障害児施設が共存した、利用者が社会に出るための環境づくりです。飲食店と連携して、障害者でも利用できる車椅子対応のスペースを提供。コンビニなども障害者や高齢者が利用しやすいよう工夫を凝らしました。これらの提案を行政に届け、許可を取り、企業を誘致して実現させました。
また、JR北海道に声をかけて関連企業を誘致することで遊休地を活用して、地元経済の活性を図りました。これにより、土地の収益が発生し、子会社や関連企業も利益を上げることができました。特に病院との連携により、多くの患者さんや病院関係者を引き寄せることに成功し、収益が急増しました。
次に隣接する大きなショッピングモールに、医療福祉の総合相談支援事業所を設置しました。
病院内に設置していた事業所を、市民生活の中心地に事業所ごとアウトリーチしたことで、市民の支援が必要な人の早期発見と支援につながっています。
このように、医療福祉のまちづくりについてモールとのタイアップの議論を重ねた結果、大規模な街づくりプロジェクト「小樽築港ウエルネスタウン構想」が生まれました。既存の社会資源を活用し、地域の課題解決を目指す。そんな商業施設を作るプロジェクトです。
モール内は急傾斜地での豪雪地帯でも地形や天候の影響はないですし、バリアフリーな建物として設計されているため、住民が活動するには最適な場所となります。
モール内の一等地に「済生会ビレッジ」という市民のための健康・福祉ゾーンを設け、我々の医療福祉のノウハウを導入。発達支援や就労支援、子供の居場所づくりなどの事業を展開しており、年間延べ23,000人の市民が利用する地域のシンボルとなっています。
──地域の状況を把握した上で、戦略を練り、病院移転からまちづくりを展開していった経緯が伺えました。次回は、「済生会ビレッジ」での事業内容や、櫛引さんの行動力の原点をお聞きします。
>>医師と経営マネジメントスタッフ(社労士)が進めた医師の働き方改革/「意識改革」+「時間・業務・場所シフト」が鍵に 済生会熊本病院~病院マーケティング新時代(53)
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