病院改革を成功させられる院長の、意外な特徴~ちば医経塾塾長・井上貴裕の病院長対談vol.2

対談相手:神戸市立医療センター西市民病院院長 有井滋樹氏(神戸市民病院機構 特別顧問(西市民病院整備担当))

千葉大学医学部附属病院副病院長で、医療経営塾「ちば医経塾」の塾長である井上貴裕先生と神戸市立医療センター西市民病院・前病院長の有井滋樹先生(神戸市民病院機構 特別顧問(西市民病院整備担当))の対談の第2回目。市中病院と大学病院のマネジメントの違いや、病院長としてリーダーシップを発揮するための心構えなどを語ります。さらに、西市民病院で地域包括ケア病棟を廃止して、総合入院体制加算の取得へ移行した病床再編の舞台裏も伺いました。

ちば医経塾塾長・千葉大学医学部附属病院 副病院長 井上貴裕氏
前神戸市立医療センター西市民病院院長 有井滋樹氏(神戸市民病院機構 特別顧問(西市民病院整備担当))

300~400床未満の市中病院こそ、リーダーシップが発揮できる

井上:有井先生はこれまで、浜松ろうさい病院・西市民病院の2病院で病院長を、東京医科歯科大学附属病院では副病院長を経験されました。経営者の立場から見て、大学病院と市中病院の違いはなんでしょうか。

有井:大学病院はそれぞれの診療科が独立していて、独自色も強いです。私は大学病院の院長経験はありませんが、おそらく大学病院では病院長が各診療科に口を出せる範囲は広くないように感じます。それに対して市中病院の方が、病院長が各診療科により踏み込んだ助言や改革が人事などでできるといえるでしょう。

その意味では、病院長の役割をより発揮しやすいのは、大学病院よりも市中病院の方かもしれません。特に、300床~400床未満の病院が最もリーダーシップを発揮しやすいと感じています。

井上:病院長としてリーダーシップを発揮するにあたって、心がけていることは何かありますか。

有井:よく聞くフレーズに「一丸となって頑張ろう」というものがありますが、私はこうした言葉を使ったことがありません。「一丸となって頑張る」というのは、あまり職員の心に響かないと思うからです。

そうしたありきたりな言葉よりも大切なことは、いかにして職員をその気にさせるかということです。職員にやりがいを感じてもらえるような組織作りをすることが、何よりも重要だと考えています。

では、どうやってやりがいを感じてもらうか。それは職員からの訴えなどに対して、些細なことでもスピード感を持って対処し、可能な限り誠実に対応・改善していくことにつきると思います。

病院長のやる気や本気度合いは、日々のそうした対応の繰り返しによって、初めて職員に伝わります。私としては「職員ファースト」を心がけ、職員には「患者ファースト」と言っていました。ただ、職員におもねるのはダメですので結構難しいのですが、少なくとも職員を大切にしているというメッセージを出すことは重要です。職員に自分の病院に対して、誇りと愛情を持ってもらえるようになるのではないでしょうか。そうなれば自ずと患者さんに心のこもった良質の診療、看護が行われるようになると思います。

落下傘方式で着任した病院長は、改革を進めやすい

井上:組織を変革する際には、看護部長や事務長などの協力も欠かせません。

有井:その通りです。特に、病院内で最も大きな組織である看護部の協力は重要です。看護部と敵対するようであれば、何をしようとしても絶対に上手くはいきません。

もちろん、看護部の要望をすべてそのまま受け入れられるかといえば、必ずしもそうではありません。しかし、仮に要望を受け入れられない場合であっても、とにかく迅速に対応することで信頼感を得られるように心がけなければなりません。

もう一つ、付け加えるとすれば、私の場合はいってみれば落下傘方式で、それまでの人間関係がゼロの病院へ院長として就任してきたという特徴があります。実は、この落下傘方式というのは、逆に病院経営をやりやすいという面もあるのです。

なぜならそれまでの人間関係におけるしがらみもありませんし、職員は皆、私をゼロベースで見てくれるからです。職員が私のことをゼロベースで見てくれるのに対して、こちらが一つ一つの問題に適切に対応していくと、病院長に対する信頼感が醸成されて物事が上手く回り始めます。その意味では、私のような着任の仕方は改革しやすいといえます。

中小病院の病床再編、職員の理解を得るには?

井上:西市民病院では、地域包括ケア病棟を取り下げて、総合的かつ専門的な急性期医療を提供する一般病院を評価する点数である、総合入院体制加算を取得しました。このような病床の再編は、非常に骨の折れる仕事だと思います。

有井:私が着任する2年ほど前にひとつの病棟を地域包括ケア病棟に変えていたのですが、その際のメッセージの出し方がうまくなかったようです。「なぜ、地域包括ケア病棟にするのか」という意義をしっかりと職員に伝えることができなかったため、退職する医師も出たようです。

浜松ろうさい病院でも私の在任中に地域包括ケア病棟を導入したのですが、ここではそのようなトラブルはありませんでした。導入時にはすべての医師を集め、私自身が「なぜ、地域包括ケア病棟が必要なのか」を丁寧に説明したので、医師をはじめとする職員は納得してついてきてくれたのだと思います。

井上:西市民病院で地域包括ケア病棟を廃止し、総合入院体制加算を取得したのはなぜですか。

有井:それは、西市民病院がそれだけの力がある病院だったからです。手術件数などをはじめとして、総合入院体制加算を取得するための多くの項目をすでに満たしていて、あとは脳外科など一部の診療科を開設さえすれば加算が取れる状態でした。

病院の実力としては十分に総合入院体制加算を取れる状態であったにもかかわらず、地域包括ケア病棟を導入していたので、地域包括ケア病棟を廃止して総合入院体制加算の取得に舵を切ったのです。

総合入院体制加算の取得に向けた取り組みを進める中で、専門医が1人来てくれることになり脳外科を新設できて、加算を取得できるようになりました。もともと地域包括ケア病棟の導入に前向きでなかった職員もいたため、地域包括ケア病棟をやめて総合入院体制加算を取得するという方向転換はスムーズに進みました。

加算の取得でDPC係数が改善

井上:総合入院体制加算を取得することによって、病院経営にはどのような影響がありましたか。

有井:総合入院体制加算により億単位の真水の増収になりますが、急性期看護補助体制加算や夜間看護体制加算なども取得することができました。また、効率性係数なども上げることができて、これらによってDPC係数を1.399から1.56まで上げることができました。

今の急性期医療は、DPCをいかに活用するかが具体策の一つになります。ですから、加算が取れそうなものについては、積極的に取得していきました。この点については事務方をはじめとする職員のおかげだと思います。

井上:地域包括ケア病棟を急性期に戻したことについて、地域医療構想との兼ね合いで指摘されることはなかったのですか。

有井:地域医療構想の中で、特に何かを指摘されることはありませんでした。なぜかというと、この病棟は地域医療構想の中では、急性期病棟になっていたからです。地域医療構想において、地域包括ケア病棟は位置づけが明確になっていません。そのため西市民病院は、HCUの7床は高度急性期で、残りはすべて急性期病床として届け出を行っていたのです。ですから地域包括ケア病棟を急性期病棟に変えたからといって、表向きの数字は変わらないわけです。

井上:なるほど、実際に全国でも、急性期病棟でありながら地域包括ケア病棟の届け出が出ている病床が2割程度ありますが、先生の病院でもそうだったのですね。

ありがとうございました。次回は西市民病院の新病院移転の話題、そしてこれから病院長になる人に対するメッセージなどを伺います。

>>10年連続赤字…地方病院を復活させた院長の手腕ちば医経塾塾長・井上貴裕の病院長対談vol.1

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