医師をはじめ、超過勤務に悩む医療現場は少なくありません。また、福利厚生や人事評価制度の周知不足は、職員の不満を生み出す要因にもなります。こうした勤務環境の改善に、支援機関のサポートを受けながら挑戦した公立学校共済組合東海中央(332床)。医師・看護師・コメディカル・事務など、職種の垣根を越えた「勤務環境改善委員会」を立ち上げて、医療現場が抱えがちな課題にメスを入れました。チームの主軸である、日比健志副院長にお話を伺いました。
目次
- 医療勤務環境改善支援センターのサポートが後押しに
- 職種ごとの悩みを見える化する「勤務環境改善委員会」を結成
- 医師の超過勤務改善は、診療科ごとで考える
- 「紙ベースの情報共有は高コスト」。IT化の推進も
- コロナ禍でも工夫し、働き方改革に取り組み続ける
医療勤務環境改善支援センターのサポートが後押しに
―貴院は2016年度、岐阜県医療勤務環境改善支援センター(※)の「モデル病院」に選ばれたのですね。
※ 医療従事者の離職防止や定着促進のため、勤務環境改善などの取り組みをサポートする支援機関。47都道府県に設置されている。
当時、当院は医師の人材不足や経営面の悩みを抱えていました。特に、超過勤務の改善が課題でした。そんな時、センターから勤務環境改善の「モデル病院」として、専門家のサポートを受けながら活動することを提案されたのです。院内でも、非常に意欲的な職員が多く、経営層も職場改善の必要性を感じていたので、スピーディーに話が進みました。
職種ごとの悩みを見える化する「勤務環境改善委員会」を結成
―具体的にはどのようなことに焦点を当てて取り組まれたのでしょうか。
福利厚生などの制度周知(2)超過勤務の改善と年次休暇取得の促進(3)人事評価の充実、の3本柱です。
この3つを進めるため、2017年に「医療勤務改善委員会」というチームを立ち上げました。特徴は、すべての職種からメンバーを構成したことです。事務・看護師・コメディカルからも、責任者に参加してもらいました。さらに「やる気のある方を歓迎します」と院内で参加メンバーを公募すると、手を挙げてくれる人が集まり、2019年にはメンバーが約15名に増えました。
―垣根を越えたチームの誕生ですね。
やはり、それぞれの職種が抱える問題や現状って、お互いよく知らないんです。事務が業務の傍ら、医師の働く現場に行って様子を見る機会なんてあまりないし、逆もまた同じですよね。よって、医療現場の働き方改革には、院内で一体となってお互いを理解し、改善に取り組む必要があります。
委員会を立ち上げてからは、まず現状把握のために全職員へのアンケート調査を実施しました。先に述べた3本柱に関する意識調査では、年休取得促進のために実施している施策について「わからない」という回答が80%に上り、人事評価制度についても半数以上が「わからない」という回答に。超過勤務や年休取得については、職種によってボトルネックが異なるということも見えてきました。
医師の超過勤務改善は、診療科ごとで考える
―発足した委員会を中心に、どのように取り組みを進められたのでしょうか。
まず、チームを柱ごとにグループ分けしました。「福利厚生などの制度の周知」グループは事務部長が、「超過勤務の改善と年次休暇取得の促進」グループは私が、「人事評価の充実」グループは看護部長がリーダーを務めました。グループごとの取り組み例としては、たとえば以下のようなものがあります。
- 追加のアンケート調査
- ランチタイムに職員向けセミナー開始
- 福利厚生に関する制度について、イントラネットへの掲載
- 人事評価について分かりやすく説明したリーフレットの作成・配布
これらの取り組み状況を、定期的な委員会のミーティングで全体共有し、さらに精度を高めていきました。
―特に課題になりがちな超過勤務改善のために、工夫していることはありますか。
36協定を基準に、医師は毎月100時間、それ以外の職種は毎月45時間を超えて残業している職員をリストアップし、私や事務部長から直接声をかけるといった取り組みも行いました。特に医師は、医師から声をかけないとなかなか動かないため、根気強く声かけをしていくほかないでしょう。
また、医師の超過勤務改善は、診療科ごとに考える必要があると思います。当院で、超過勤務が多いのはなぜか人数が多い科なんですよね。同じ診療科内でも、医師によって業務に偏りが生じている可能性が高いので、業務の割り振りを再考する必要があります。とはいえ、主治医制をベースに考えてしまうと、均等な配分は難しいでしょう。
医師の働き方改革を進めていると、このように根本的な考え方を変えないといけない局面も出てくると思います。様々な考えの医師がいるため、診療科内で十分に話し合うことが大切です。
「紙ベースの情報共有は高コスト」。IT化の推進も
―それぞれの取り組みで一定の成果が得られたとのことですが、最近はどのような点に注力しているのですか。
実は現在、1つ目の柱「福利厚生などの制度の周知」グループは事務部門に移管し、新しい課題に切り替えた取り組みを始めました。それは、「IT化の推進」です。当院のSEをはじめ、ITに詳しい医師・看護師・コメディカル・事務職など「自分が得意なこと」を活かしてくれるメンバーに入ってもらい、各職種が抱える問題を出し合いました。
具体的には、院内に多数の電子タブレットを配布してペーパーレス化を進めたり、患者さんの情報を共有しやすくしたりしました。
これは、新型コロナウイルス流行時にも役立ちましたね。感染した患者様には、紙の問診票の代わりに電子タブレットで問診票を入力していただきました。院内の感染防止の手段の一つとして有効です。
―IT化推進の取り組みは、苦労される点もあったのではないですか。
案外、順調に取り組めています。当院は数年前からペーパーレス促進のため、電子カルテを導入しておりますが、業務の無駄やコストを削減するため、電子タブレットの導入も実現したかったのです。以前から、医師・職員からペーパーレス化を望む声が多かったですし、会議や業務上の情報共有も電子タブレットを使えば効率よくできますからね。
電子タブレットでの問診票記入については、今は新型コロナウイルス感染者の方に限定していますが、皆さん特に問題なく入力されています。ご高齢の患者様の中には、電子タブレットに馴染みのない方もいらっしゃいますが、職員がしっかりサポートしているので問題ありません。いずれ、すべての問診票記入を紙から電子タブレットに切り替えることができたらいいなあと思います。
コロナ禍でも工夫し、働き方改革に取り組み続ける
―「医師の働き方改革法」施行まで、あと3年となりました。貴院での今後の課題や目標を教えてください。
やはり新型コロナウイルスの流行が、取り組みに影響しています。超過勤務の削減に成果が出てきたところでしたが、感染者の受け入れや感染拡大防止に注力せざるを得ず……。「働き方改革」の実現に向けて取り組んでいる、ほとんどの医療機関が同じ状態だと思います。
勤務環境改善委員会も、以前のように頻繁に全員で顔を合わせるミーティングができなくなりましたが、工夫して活動や情報共有を継続しています。困難な状況下でも、「IT化の推進」のように新しい課題を見つけ、改善活動につなげるということを、今後も院内一体で続けていくつもりです。
勤務環境の改善は、経営を考えることに直結します。新しい取り組みには、お金、特に人件費がかかりますよね。電子タブレットの導入だってコストがかかりましたし、今後はさらに台数が必要になってくるでしょう。限られた予算・人手の中、いかに無駄を省き、必要なところにリソースを投下していけるかが重要です。医師や経営層の中にもさまざまな意見があるので、全員でしっかり話し合って前進していきたいですね。
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