【第28回】“ちょっとダメな事務長”の存在が、組織にとってプラスになる!?―事務長の悩みは99%解決できる

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野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり社会医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理士会評議員などを務める。

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間近に迫る診療報酬改定…。今のうちにちょっと一息

いつまで暑い日が続くのか?と思っていた10月。しかし朝晩はめっきり寒くなり、秋を通り越して冬が来たような冷たい風が吹く日もあります。

気がつくと今年もあと約2カ月……。年を越したらすぐに診療報酬改定を迎える事務長は、これからも忙しい日々が続くことでしょう。季節の変わり目、体調も崩しやすい時期ですから、今回は張り詰めた気持ちを少し休めるようなお話を。

私は今までこのコラムで、タイトル通り「事務長の悩みを解決しよう」と、事務長の皆さんへエールを送ってきたつもりです。「事務長・リーダーとはこうあるべきです」「事務長やリーダーなら、こう考えてはどうでしょう」というように。

しかし最近私がサポートをしている施設で、「たまにはちょっとダメなリーダーになってもいいのではないか」と思うようなことを経験したので、ご紹介したいと思います。

現場の課題や意見に、全く対応しない事務長

事務長になって、数カ月しか経っていないAさん。

A事務長の下には、患者さんや職員からのクレーム、現場で起きた課題、各分野からの提案事項など、多くの情報が集まってきます。しかし、A事務長は、それらの情報を自分のところで止めてしまい、対応できずにいました。そのようなことが度重なり、職員間でも「あれどうなった?事務長に言ったのに」「伝えたのに、全然改善されていない」という声が飛び交うように。職員たちが就任当初にAさんに抱いていた期待感は不信感に代わり、不穏な空気が流れ始めていました。

私がこの事態に気づいたのは、事務長の部下の職員から「〇〇といった課題があるんですが、どのように対応したらいいのでしょうか」と相談されたことがきっかけです。「事務長は何とおっしゃっていますか」と尋ねると、「事務長にも伝えているのですが、指示が全然ないんです」と返ってきました。

職員は「この課題を何とかしないといけない」と思って、上司である事務長に提言してくれているのです。もらった意見や出てきた課題に取り組んでこその管理者。それを放置してしまうと、その職員自身の評価や病院全体の評判にも関わりますし、もちろん事務長の評価も下がります。ましてや、部下との信頼関係など築けるはずがありません。

私の仕事は、この事務組織の運営の確立を支援することだったため、状況を改善しなければと考え、事務長とお話をすることにしました。

事務長から出てきたのは「自分は、ダメです」という言葉。私が「え?そんなことないですよ」と伝えると「職員から意見や課題を聞くのに精いっぱいで、対応まで頭が回らなくて……」と返ってきました。

この事務長は職員から「事務長は何をしているのか分からない」と言われたことを気にしていたようです。「自分も業務をしている姿を見せなくては」と考え、事務長であるにも関わらず、現場のスタッフと同じ業務を行い、シフトの一部も担っていて、心身ともにお疲れの様子でした。

誰しも、常に元気いっぱいで、ポジティブなエネルギーを保持することは困難です。事務長も人ですから、疲れたり、落ち込んだり、腐ったり、ネガティブになったりすることもあると思います。

まずは、Aさんには心身ともに回復してもらうことが重要だと考え、「事務長になったばかりじゃないですか。出来なくて当然。当たり前です」と声をかけました。「自分がいいコンディションでないと、いいパフォーマンスは発揮できません。私がサポートしていきますので、まずはしっかり休息を取りましょう」と話し、面談を終えました。

ダメ事務長の存在が、職員たちを変えた⁉

もちろん、この事務長と職員たちは信頼関係を築けているとは言い難い状況でしたが、職員たちをよく見てみると、事務長への不満を共有することで以前より団結しているようでした。事務長への不信感がきっかけとなり、職員間で「何とかしなければ」「自分たちで解決できるようにしよう」と、自然に自律的な姿勢や協力体制が作り上げられていったのです。

もちろんこの事務長には反省・改善すべき点が多いですが、事務長は、常にかっこいいリーダー・ヒーローである必要はなく、時には「悪者」のような役回りをすることも、組織にとっていい結果を生む可能性もあるのだな、と感じた事例でした。

自分の思いを共有できる、仕事を譲れる部下を育てよう

その組織はどうなったかというと、事務長への不満を言っていた職員を、現場のリーダーや事務長のサポート役の「主任」にすることになりました。辞令を伝える場面に私も立ち合ったのですが、職員たちが「役職」への就任を言い渡された途端、空気がピリッとして緊張感が走りました。「今度は自分が事務長のような役割をしなくてはいけないんだ」と、役職を背負う重さを感じたようです。

その職員たちは、現場の業務にのみ注力し、上司や他部署に意見・不満を伝えていた立場から一転、自ら意見の集約をはじめ、決断と実行(時には職員間のトラブルの仲裁)をしなくてはならなくなりました。もちろん手当は付きますが、その分、責任も実感したことでしょう。管理者である事務長の苦労も分かったようでした。

リーダーは、あちらこちらに愚痴も弱音も言えません。「誰も分かってくれない」と孤独を感じるのは当然です。でも、同じような経験をしている事務長は多くいらっしゃいます。分かち合える人は病院の中にいなくてもいいのです。全国の病院、クリニックの数だけ事務長がいます。あなたは決して一人ではありません。

そして、自分の思いを分かってくれる部下を、仕事を共有・委譲できる職員を育てましょう。時にはダメな自分になったとしても、周りが支え頑張ってくれる環境を整えておけば心強いと思います。

時には「ダメな自分でもいいじゃん」

私自身のことを振り返ると、病院勤務時代に職員、患者に不満を言われた時は「院長が出てきてくれると収まりそうなのに…」、院長にあれやこれやと言われた時は「自分がしてくれたらいいのに…」と院長の対応に不満を感じることもありました。事務長にはよく「院長の立場も分かってやれ」と言われていましたが、その時の私は「院長なんだから、やって当然でしょう」くらいに思っていました。

今、私も経営者という立場になり、院長の苦悩や心労が少し分かるようになってきました。当時の私を叱って、院長に謝りたいくらいです(笑)。

毎日をバタバタと、そして淡々と過ごしていると、2021年もあっという間に終わりそうです。悔いのないように、「まずは今年の課題を今年のうちに!」。緊張を解いて、「時には、ダメな自分でもいいじゃん」とリラックスした状態で、頭を整理してみませんか。

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