「院長の右腕」を探す前にお読みください―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.1

「院長の右腕」を探す前にお読みください―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.1”
オーナー院長から「右腕になるような人材が欲しいんだけど、誰かいい人いないか?」といった問いかけをよくいただきます。
この手の質問への回答はいつも同じで、「右腕は育てるもので、よそから引っ張るものじゃないです」がお決まりの返しとなっています。

昨今、地域医療計画や地域包括ケア、さらには診療報酬の適正化などなど、病院経営をするにあたって、よい医療を提供するだけでは不十分で、医療政策や病院経営に精通した人材が必要な時分になってきました。
病院経営は、市場経済ではなく、統制経済です。需給バランスでは価格が変わらず、2年に1度の診療報酬改定で価格が変わる世界です。他業界からの転職組の方々も、慣れればそれなりに働けるのですが、経営人材ともなると話は別です。
院内だけでなく、院外での調整業務も発生しますし、加えて「業務改善」ではなく「業務改革」並みの抜本的な変化が現場レベルでも求められている中、院長一人が孤軍奮闘しても、なかなか上手くはいきません。
そこで、冒頭の願望のような問いかけにつながります。

端的にいえば、オーナー院長が欲している「俺の右腕になる人材」とは、「業務改革」ができる人材であって、「業務改善」ができる人材ではありません。外部人材も、いきなり内情をすべて把握している訳ではありませんので、よほど、業界に精通していない限りは、どうしても入職してからの研修の中で「業務改善」タイプの人材になっていってしまう事が多いです。

業務改善と業務改革の違い

別の視点からもう少し考えてみましょう。

「俺の右腕」のように経営を担う人材ともなると、「今」ではなく、将来を考えてアクションをしていく必要があります。特に病院の場合は、2025年モデルというゴール設定があり、周辺環境との折り合いをつけながらゴールに向かっていくという、市場経済とは違って、ある種のおおよその予測が成り立つ世界でのマネジメント力が必要となってきます。

つまるところ、今、多くの中小病院の院長・理事長が欲しているのは、そういったマネジメント力のある人材な訳です。

しかし、医療業界全体を見渡しても、そういった人材は少ないです。そして、病院組織でマネジメント力を発揮できる人材となると、極めて稀といえるでしょう。こうした状況が生まれる理由には、病院の特性があります。病院は、外的要因によるドラスティックな改革の少ない組織です。診療報酬改定のように定期的な変化はあるものの、本質的には「決められたルールの中で最適な行動」ができる人材であれば問題がありません。こうした環境で、マネジメント力のある人材が自然と育つなどということは起こりづらいのです。

理想的な院長の右腕

また、採用において、医師や看護師といった専門職を多く採用する事に気を掛けている病院がほとんどだと思います。確かに、病院経営をする上で重要なポイントではあります。しかし、その大前提として、多くの専門職を雇えるだけの体制づくりが必要であり、その為の経営スタッフ陣営を整える事が重要です。
こうした数々の視点を踏まえると、経営陣になれる「俺の右腕」がいかに得難い存在か分かるかと思います。では、どのように、この夢のような人材を育て上げるかを説明したいと思います。

人材育成の為の「稟議」「決裁」

病院組織の大半は「院長」「事務長」「看護部長」に実務面の意思決定権限を集約しているケースが多く、意思決定をする人材が極めて限られています。

稟議による病院事務の人材育成

例えば、決裁をする場合、多くの病院では実務担当レベルのスタッフ(担当者~課長クラス)は起案のみで、意見の付与をしないケースが多いです。決裁は確認をするのではなく、その提案の妥当性や質を見極める必要があるのですが、病院の場合、そういった文化習慣がないので、そのまま通してしまうケースが多々あります。

稟議による病院事務の人材育成

多少、手間暇が掛かりますが、こうした一つ一つの決裁の中身を吟味し、どう判断するのか身をもって学ぶ機会を創る事で、病院の方針に対する理解を深めたり、自分の一つ上の立場から「自分の仕事」を見つめ直したりしてもらう事ができます。
起案事項がどのような流れで決裁されるか理解する事は、起案者にとっては自分の提案が通ったという成功経験の蓄積にもなり、それが自信につながります。また担当部署の中でも、上長と部下の間で課題を共有できるほか、上長は長く勤務するからこそ知っている課題を明確にする事も可能となります。

そもそも、稟議書の内容の多くは下記の2つのケースに分類できます。

  1. 現状改良型の提案「現状のパフォーマンスをより良くする為に」
  2. 未来予測型の提案「このままだと、将来、発生する問題を回避する為に」

Aが業務改善型、Bが業務改革型になります。「俺の右腕」が業務改革型の人材であることは前述の通りです。つまり、Bタイプの稟議を出せるように職員を育てていけば、院内に「俺の右腕」が育っていくことになるわけです。

A、Bいずれのタイプにせよ、会議では咄嗟に意見が出ずとも、稟議書上ではよく考えてから提出できる事もあり、建設的な意見が出やすく、また、まとまりやすいといえます。しかしながら、こうした人材育成の機会を単なる事務作業として扱い、機会損失している病院があまりにも多いのが実情です。こうした病院では、意図的に人が育つ要素を付与し、病院方針を理解させ、実践させる事で、短期的には難しくとも、中長期的には十二分に病院トップの意向を理解し、行動できるスタッフが増えてきます。そうして初めて「俺の右腕」が出てきます。

今回の標語
「俺の右腕は一日にして成らず」

次回以降も、病院経営側の視点で話題提供をしたいと思います。

【著者プロフィール】溝口博重(みぞぐち・ひろしげ)
株式会社AMI&I 代表取締役、NPO法人医桜 代表理事。
全国の医療機関の人材採用・組織マネジメントを中心とした経営支援を行うとともに、医学生に人気の研修「闘魂外来」やNPO法人日本救急クリニック協会の立ち上げに携わるなど、現場医療の課題解決にも精力的に参加している。
仕事への基本姿勢は「10年後の医療をもっと良く、さらに良く」

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