80床に対して、常勤医は24人── 。わずか1年半で常勤医11人を新たに採用し、この体制を実現させたのが、上尾中央医科グループ(AMG)のメディカルトピア草加病院(埼玉県草加市)です。同院の久保田巧事務長は、前任地の東大宮総合病院において常勤医を30人から60人へと大幅に増加させた実績の持ち主でもあります。(役職は取材当時)
今回はそんな久保田事務長に、募集から条件交渉、定着に至るまでの一連のポイントについて伺いました。
・ターゲットを見極め、医師に響く求人をつくる-メディカルトピア草加病院【前編】
・事務長は「交渉人」 医師をひきつける勤務条件をつくる方法-メディカルトピア草加病院【中編】
・「医師の悩みはビジネスチャンス」 医師事務作業補助がもたらすもの-メディカルトピア草加病院【後編】
「忙しさから解放されたい医師」をメインターゲットに
-なぜメディカルトピア草加病院の募集には、医師が集まるのだと思いますか。
ターゲットを明確にし、セールスポイントを求人に盛り込んでいることが、問合せ件数を増やすカギになっていると思います。
当院では、「忙しさから解放されたい」「働く環境を変えたい」など、ライフチェンジを意識して転職を決意した医師を主なターゲットに設定しています。医師の転職理由はある程度グルーピングできます。しかし、その全てを網羅するような募集内容では、魅力が曖昧になりがちです。医師のそれぞれの募集を商品としてとらえ、それを購入する消費者を医師として考えるとわかりやすい。世の中には、同等の競争商品があり、競争に勝つためには、消費者のターゲットを絞って、そこに確実に魅力を感じるキーワードを入れた商品に魅力を感じてもらい、最終的に、購入してもらうという感覚が大切であると考えます。
医療業界には、「当直なし」「オンコールなし」といった、ゆとりのある勤務を希望しているこうした医師をネガティブにとらえる向きもあるかもしれません。ただ、高いスキルを持っているにもかかわらず、やむを得ない事情を抱えた医師は、一定数います。
「大学病院で疲弊してしまった」「将来の結婚を考えて転勤のない環境で働きたい」「担当患者を減らして生活にゆとりを持たせたい」-。こんな医師に、「ライフスタイルを提案する」気持ちで、求人を出しています。また、そんなところばかりにターゲットを絞ったら、病院が成り立たなくなると感じる方もいらっしゃると思いますが、医師が転職を決める時に、かなりの確率で、ライフチェンジを考えていることが多いと感じます。例えば、糖尿病の先生で症例数はたくさんこなしたいけど、一般内科が忙しくて、専門性が発揮できないなど。これも、ライフチェンジです。ここにターゲット絞ると、医師募集の対象N数が確実に広がることになり応募の確率も上がります。そして、結果的に、とてもアクティブな医師が採用できることにもなります。それは、このライフをターゲットにした差別化の募集キーワードが露出することで、その病院全体が働きやすい環境がイメージされるからだと思います。まずは、数ある募集病院の中から、いかに当院の募集を見てもらうことは、このような差別化のキーワードがとても大切だと考えます。
求人から、「応相談」はなるべくなくす
-「ライフスタイルを提案する」とは具体的にはどういうことでしょうか。
当院で働くことで、どういうライフスタイルが実現できるのか、求人からイメージしてもらえることがベストだと考えています。
そのために、求人一つ一つについて院内調整を行い、勤務条件をできる限り詰めて、「応相談」という項目をなくすように努めています。当直して欲しいなら「当直あり」、当直がなくてもいいなら「当直なし」と明言します。ただその際も、例えば「整形外科で、こういう業務をしてくれたら当直なし」というように、できるだけ具体的に打ち出すことを意識しています。
もちろん、院内調整しても確定できない項目には「応相談」を使うことがありますが、「応相談」ばかりの求人は、第三者から見て、どんなライフスタイルが実現できるのか、想像できません。人材紹介会社を利用する際も、内容がより明確である方が、コンサルタントから医師に案内しやすいだろうと考えています。
コンサルタントに合わせた説明
-人材紹介会社への情報提供において、何か工夫されているところはありますか。
当院は現在、20社ほどの紹介会社とやりとりしていますが、最近は人材紹介会社も増えてきており、コンサルタントの医療業界への精通度合いも様々です。そのため、募集の背景や当院のセールスポイントを伝えても、うまく理解していただけないケースがあると感じています。
そうした時は、コンサルタントのプライドを傷つけないように配慮しつつ、「一般的にはこうだが、当院ではこうなっている」というように、“当院の差別化要因がなぜ差別化要因たり得るか”まで踏まえて説明します。理解を深めてもらうことで、自信を持って当院を医師に紹介してもらえると考えているからです。
そのほか、当院では、紹介会社の方に向けて、求人情報の補足資料を作成し、募集の背景や、求人の緊急性が分かるようにしています。つながりの強い紹介会社にはこちらから出向き、プレゼンテーションすることもあります。
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