「医療機関の経営はオーケストラの演奏と同じ」と話すのは、REVIC(株式会社 地域経済活性化支援機構)で医療機関の経営再建を手掛けてきた有村秀幸氏。病院再建を担う中で最も難しいのは、「職員の意識改革」であり、REVICの支援が終了した後も院内スタッフだけで業務を改善していける組織をつくるところにあると強調します。経営再建の過程で、REVICはどのように職員に主体性を持たせ、次世代を担う人材として育成しているのでしょうか。
≪今回インタビューにご協力いただいた方≫
株式会社 地域経済活性化支援機構 地域活性化支援部 ヘルスケアチーム
シニアマネージャー 有村秀幸氏
経営改革は仕組みづくりから
―医療機関の経営再建は、まずどのようなことから着手するのでしょうか。
経営改革を進めるための仕組みづくりから始めます。ひとつの手法としては改革のテーマごとに、たとえば「地域医療連携」や「救急受入改善」などのタスクフォースをつくり、メンバーは若手を中心に部門横断で選出するのです。
部門横断でタスクフォースをつくる狙いは2つあり、1点目は、専門職が多いために他部門との交流が少なく「たこつぼ化」しがちな病院組織の活性化です。職種間のコミュニケーションの活性化を促すために部門横断の組織とします。これは、病院同様に専門職の集まりで「たこつぼ化」していたJALでも採用された手法です。
2点目は意識改革です。当社が支援するような病院は、これまでにスタッフが改革の提案をしても経営陣から反対されるなど、改革の成功体験がありません。そのため、改革に対してスタッフは消極的なんですね。その状況を覆すために、若手を中心としつつ、良い提案は積極的に採用するという姿勢を見せることで、意識変革を行います。
“経営改革のDNA”を残す人材育成
―数々の病院の経営再建に携わられてきて、最も難しいところや、時間を要したポイントはどのようなところでしょうか。
病院スタッフの人材育成です。
病院経営が軌道に乗ったら、当社のメンバーはいなくなってしまう。そのあとは、病院スタッフだけで医療業界のめまぐるしい変化に対応し、業務改善を続けなければなりません。それができる組織をつくっていくために、支援期間中から徐々に当社の関与度を減らしながら、自律的な運営を促します。
「当社のメンバーが関わらなくても大丈夫だな」と感じるようになって、ようやく支援を終了できるタイミングとなります。
―具体的に、どのような育成を行うのでしょうか。
多くの病院スタッフは真面目であり、目の前の業務に真摯に取り組んでいますが、効率化や目的意識などについては弱いところがあります。わたしたちは、個々の業務のゴール設定を行うこと、効率化を考えること、などの基礎的な意識付けから行います。
たとえば病院の会議運営では、多くのメンバーを集め時間をかけて議論をするものの、会議の目的やアジェンダが明確ではなく、結論も出ないなど非効率となっている場合が多いのです。会議のゴールを常に設定する、時間内に迅速な意思決定を促す、といった会議運営の基本的なルールを伝え、実際に運営してもらいます。
また、ロジカル・シンキングや経営戦略論では3C分析やSWOT分析などを用いて自院の強み・弱みを把握する、といった教育も行っています。
このように育成することで、病院の将来を担える人材が必ず何名か出てきます。当社の支援終了後、30代半ばで病棟師長になった看護師、同じく30代半ばで事業部長になった事務スタッフもいました。
当社がハンズオン(経営への直接参画)で支援している価値は、まさにこのような人材を育成し、改革のDNAを人材・組織に残すことにあります。
経営者は病院の指揮者
―多くの再建現場の経験から、改革を考えられている経営者へのメッセージをお願いします。
わたしは、「経営学の父」とも呼ばれるピーター・ドラッガーの「オーケストラは組織の理想モデル」という話をよく引き合いに出します。
オーケストラはさまざまな楽器を奏でる専門職の集まりですが、指揮によって同じベクトルを向き、一つの美しいハーモニーを奏でて聴衆を感動させます。病院も同じように専門職の集まりです。経営者は、“病院交響楽団”の楽団員である病院スタッフたちを同じベクトルに向かわせることが重要です。そのための育成に労を惜しんではいけません。
経営改革ではスタッフに大きな試練が課され、時に、経営者とスタッフの間に溝が生まれてしまうかもしれません。しかし経営改革を進めれば最終的には、彼ら自身にとって良い職場をつくることにつながると考えています。経営改革に携わる経営者の皆さまには、ぜひ「スタッフにとって良い職場」を目指していただければと思います。
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