“恐怖すら感じる”2015年度介護報酬改定マイナス改定―カギは処遇改善

著者:木村憲洋(高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授)

2015年4月から介護報酬が改定されました。2016年度の診療報酬改定を占う上でも重要な今回の改定。ポイントを紹介します。

2015年度は9年ぶりの介護報酬マイナス改定に

介護サービスの単価を決める介護報酬が導入されたのは、2000年。今回が5回目の改定ですが、経済誘導の仕方が診療報酬改定と似てきた気がします。

a0002_0038852015年の介護報酬改定では、全体でマイナス2.27%の改定率となりました。マイナス改定となるのは実に9年ぶり。内訳は、サービス単価の引き下げがマイナス4.48%、介護職員の処遇改善がプラス1.65%、中・重度の要介護者や、認知症高齢者へのサービス対応に関する加算にプラス0.56%となっています。

ここまで全面的な引き下げは珍しい

今回の介護報酬改定で特筆すべきは何と言っても、ほぼ全てのサービスで基本報酬が下がっていることでしょう。

診療報酬改定も含めいつもの報酬改定であれば、下がっている項目とそうでない項目があり、まだら模様となります。今回の介護報酬改定のように、全面的に引き下げられてしまうのはまれで、恐怖すら感じます。引き下げ幅はサービスごとに違いますが、特に下げ幅が大きいのは、特別養護老人ホームや通所介護などです。

マイナス改定を乗り切るカギは介護職員の処遇改善

全体的なマイナス改定の今回、事業所の介護報酬をプラスに持っていくためのポイントは、介護職員の処遇改善だと言われています。

介護職員処遇改善加算サービス別加算率賃金改善計画を作成・実施したり、研修機会を確保したりすることで算定できる「介護職員処遇改善加算」がこれに当たります=算定要件は本記事文末を参照=。

たとえば訪問介護事業所で今回新設された「介護職員処遇改善加算(Ⅰ)」が算定できれば、請求単位の8.6%の加算率が適用されます。ほかのサービスでも処遇改善を図るほど、より上位の加算区分となることができ、加算率はプラスになります=表参照=。

シンプルに考えれば、積極的に処遇改善を図り、処遇改善加算を算定している法人には、介護職員が多く集まり、さらなる経営改善につながる可能性があります。一方、処遇改善を怠った法人では、介護職員も集まらず、経営もうまく行かなくなるという負のスパイラルに陥ることが考えられます。

ただ、処遇改善加算はあくまで介護事業所の介護職員が対象で、ケアマネジャーや看護師などは対象外です。介護職員の割合が比較的少ない施設などでは、処遇改善加算による経営改善に限界があり、また異なるアプローチで経営改善を図ることが求められています。ほぼすべてのサービスでマイナス改定となった今回の介護報酬改定。介護事業所にとっては厳しいものとなっています。

【備考】介護職員処遇改善加算の算定要件の要点
(厚生労働省資料『介護人材の処遇改善の充実に向けて(案)』などより抜粋)

加算のイメージ

1.賃金改善等に関する計画を作成し、全ての介護職員に周知するとともに、都道府県知事等に届け出た上で、加算の算定額に相当する賃金改善を実施すること。
2.事業年度ごとに、介護職員の処遇改善に関する実績を都道府県知事等に報告すること。
3.労働に関する法令に違反し、罰金以上の刑に処せられていないこと。また、労働保険料の納付が適切に行われていること。
4.キャリアパス要件として、次の(1)又は(2)に適合すること。

【キャリアパス要件1】
次に掲げる要件の全てに適合すること。

ア 介護職員の任用の際における職位、職責又は職務内容等に応じた任用等の要件(賃金に関するものを含む)を定めていること。
イ アに掲げる職位、職責又は職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く)について定めていること。
ウ ア及びイの内容について就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。

【キャリアパス要件2】
介護職員の資質向上のための計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保するとともに、全ての介護職員に周知していること。

5.定量的要件として、平成20年10月から届出を要する日の属する月の前月までに実施した処遇改善の内容(賃金改善を除く。)及び要した費用を全ての介護職員に周知していること。

木村憲洋(きむら・のりひろ)
武蔵工業大学工学部機械工学科卒。国立医療・病院管理研究所病院管理専攻科・研究科修了。神尾記念病院などを経て、高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授。
著書に『病院のしくみ』(日本実業出版社)、『医療費のしくみ』(同)など。

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