医師の約4割「組織に馴染めず」、採用した医師の早期退職を防ぐには?

せっかく医師を採用できたのに、なぜかすぐに退職してしまった……。こんなご経験はないでしょうか。m3.comの医師会員に実施した調査によると、転職した後に「新たな職場に馴染めなかった」と感じたことがある医師は全体の約4割にのぼります。医師が新たな環境に馴染み活躍できるよう、どのようなサポートが求められているのでしょうか。そのポイントを解説します。

「組織に馴染めない」医師の約半数が転職を検討

医療業界でお仕事をさせていただくようになって以来、さまざまな場面で「医師だから◯◯はできるでしょう」「医師なのに◯◯はできないのか」という声を聞きます。特に、医療機関の幹部とお仕事をすると頻繁にこうした言葉を耳にします。
これは、医師に対する期待の高さゆえなのでしょう。人の命を救う、学力が高い、人材としての市場価値が高い――こうしたイメージは多くの人が共有するところです。

しかし、医師と接すると、「医師も一人の人間である」と感じる場面が多々あります。新しい職場への入職を控えた医師などに話を聞くと、医師もやはり、転籍や転職の際には期待に胸を膨らませている一方で、新たな環境に対する不安を少なからず抱いているのです。

残念ながら、その不安が現実になってしまうケースも珍しくないようです。実際に、m3.comの医師会員に行ったアンケート(回答871名)では、39%の医師が「新たな職場に馴染めなかった経験がある」と回答しています。また、そのうちの約46%が「転職を検討した」と回答。つまり、およそ5人に1人が転職したものの、転職先に馴染めず、また転職しようと考えた経験を持っています。そのため、入職前後できちんと医師の不安を解消できるかどうかが、定着率にも大きく影響すると言えます。

2019年4月27日~5月8日にかけて実施し、m3.com会員871人が回答

「職場に馴染めなかった」医師の本音 ※アンケートより抜粋

  • 文化の違いにギャップを感じる。
  • 当然ながらシステムや診察の流れなど異なるので、スムーズにできないことがあるが、それを認識するための方法が全くなく、混乱した状態が続いたことがあった。
  • 縁も所縁もない施設に単独で入職し、周囲のキャラクターや人間関係に戸惑った。
  • かなりハードな業務で、全く学閥も違い、悩みを相談することが出来なかった。
  • 病院内の掟が自分の医局と違い過ぎた。

5人に2人は「人間関係の構築」を難しいと感じる

ほとんどの医療機関は、医師を招聘するために多大な時間と費用をかけています。しかし、医師の内定受諾から就任日、そして入職直後の医師へのフォローの仕方は多種多様です。

就任日までに面談や食事の機会を何度も設け、事前に関係性を構築しようとする医療機関もあれば、メール・電話での事務連絡のみという医療機関も。ご想像のとおり、就任までに細やかなフォローをしている医療機関ほど入職後のギャップが小さく、医師の定着がうまくいっているようです。

しかし、医師は具体的にどのような事柄について不安を感じているのでしょうか。前述のアンケートによると、新たな職場で難しいと感じることとして、およそ5人に2人は「院内のキーマンの見極め(人間関係の構築)」を、また5人に1人は「自分自身への期待の把握」を挙げています。このことからも、就任前からコミュニケーションを取り、院内の文化や人間関係、また互いに期待していることのすり合わせ行うことが、医師の不安払拭に有効であると言えます。

有効なオンボーディング施策とは

それでは、医師のスムーズな定着のためにはどのような点に留意すべきなのでしょうか。新たに採用した人材を職場に配置し、組織の一員として定着・活躍してもらうまでの一連の受け入れプロセスを「オンボーディング」と呼びます。人材の売手市場が続く中、多くの企業はオンボーディング施策に力を入れて取り組んでいます。しかし、人事部がイニシアチブをとることの多い一般企業に対し、医療機関ではそもそもそのような役割を担う組織機能がないこともあり、新たに採用した人材を配属部門に任せきりになってしまっているケースも少なくありません。

これまで50以上の医療機関を支援させていただいた経験から、私はオンボーディング施策のポイントは以下の3点であると考えています。

(1)具体性

入職後、「何を」「どの程度」「いつまでに」「誰と」「どのように」実現してほしいか、明確に示すことで、入職者は医療機関の期待や自分が取るべき行動を具体的にイメージしやすくなります。

【チェックポイント】

  • 期待する患者数や手術件数の概算だけでなく、それをどのように、いつまでに実現してほしいか、を具体的に伝えているか
  • 新科立ち上げの場合、どのように集患していくか、医師任せにせず具体的な戦略や方法を提示・すり合わせできているか

(2)心理的安全性

心理的安全性とは、職場で不安なく自由に発言・行動できる状態を指します。新しく入った医師が、職場のシステムや仕事の進め方に戸惑ったり、周囲の人間関係を思うように築けなかったりしたとき、1人で抱え込んでしまうようなことはないでしょうか。上手くいかない・不安に感じる事柄を、タイムリーに相談できる相手や機会を提供することで、問題が大きくなる前に対処できます。

【チェックポイント】

  • 困ったときに誰に相談したらいいか、入職者に伝えているか。
  • また、その相手と入職者が定期的にコミュニケーションをとれるような接点づくりができているか

(3)再現性

配属先の部門や人事担当者だけに任せていては、たとえオンボーディングがうまくいっても成功要因がブラックボックス化してしまいます。うまくいった/いかなかった施策いずれもその要因をつきとめ、部門間で共有・連携するなど施策の再現性を上げていくことで、継続的に人材が定着・活躍できる組織にすることが大切です。

【チェックポイント】

  • 人材定着の取り組みが属人的になっていないか
  • 定着がうまくいった/いかなかった施策の要因を都度、確認・共有しているか

医師定着のために開発された「1st 90 days program」

しかし、「長く勤めていただきたい」と思っていても、具体的なオンボーディング施策が思い浮かばない方は珍しくないと思います。実際、近頃では組織づくりや人事に関心の高い医療機関から、エムスリーキャリアにご相談をいただく機会が増えています。

そうした医療機関に向けて現在、ご紹介した医師の定着・活躍まで支援するサービス「1st 90 days program」を提供しています。「1st 90 days program」のゴールは、医療機関と医師の双方の期待をすり合わせることで、入職前後のギャップを最小化し、医師の早期定着・活躍を実現することです。

本サービスを実現できた背景には、当社ご紹介の医師とコンサルタントの信頼関係があります。コンサルタントは、数か月~数年かけて医師のキャリア相談を受けていることもあり、入職したばかりの職場には言いにくい「入職前後の不安や期待、考えの変化」など医師の本音を伺っています。そのため、医療機関と医師の橋渡しが可能となっています。こうした強みを活かし、医療機関・医師の双方にとってより満足度の高いサービスを提供することが、医療業界への貢献にもつながると捉え、新たなチャレンジとして本サービスを強化していきたいと考えています。

【関連記事】
“不採算部門”の小規模病院が、常勤医を増やすためにしたこと─エラーを恐れない土屋小児病院の信念とは
定着にも影響?内定から入職までのフォローメソッド ―1から学ぶ医師採用マニュアル【実践編 vol.3:内定~入職前後】
145床の病院で医師の若返り進み、救急車受け入れ件数170%に―武蔵ヶ丘病院 松永宏二事務長【前編】

関連記事

コメント

コメントをお待ちしております

HTMLタグはご利用いただけません。

スパム対策のため、日本語が含まれない場合は投稿されません。ご注意ください。

医師の働き方改革

病院経営事例集アンケート

病院・クリニックの事務職求人

病院経営事例集について

病院経営事例集は、実際の成功事例から医療経営・病院経営改善のノウハウを学ぶ、医療機関の経営層・医療従事者のための情報ポータルサイトです。