病院の成長を占う「経営幹部人事」の行方―ちば医経塾長・井上貴裕が指南する「病院長の心得」(19)

病院経営のスペシャリストを養成する「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム-」塾長である井上貴裕氏が、病院経営者の心得を指南します。

著者:井上貴裕 千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授・ちば医経塾塾長

目次

コロナの5類移行が決定。withコロナ時代をどう乗り越えるか

新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて、現状の2類から5類への移行が決まり、医療提供体制も“withコロナ”に向けて徐々に姿を変えていくことになります。

この3年間、私たちはコロナと闘いながら社会に大きく貢献し、その対価として空床確保等の補助金をいただいてきました。ただ、5類になればその補助金もおそらく今まで同様というわけにはいきません。医療機関はwithコロナ時代をどう乗り越えていけばいいのでしょうか。

5月8日から5類になっても、コロナ患者がゼロになるわけではありません。スタッフから感染者、濃厚接触者は出るでしょうし、院内クラスターが発生するリスクも続きます。
ただ、社会が変わろうとする今、コロナを言い訳に医療提供の制限を行うことは望ましくないでしょう。感染管理を徹底しながら、通常診療とコロナ医療の高度な両立が求められます。それは決して容易なことではありません。

厳しい環境の中、この春多くの病院長が退任されます。経営陣が刷新される病院も多く、ちょうど今、どのような経営体制を構築すべきか構想している時期かもしれません。一方で。ほぼ毎年固定化したメンバーが経営に臨むという病院もあるでしょう。

組織はヒトが支えるもので、ヒトの力ほど組織の活力・成長に影響を与えるものはありません。特に病院は、収益の約半分を人件費に投じる財務構造で、かつヒトが人を治療する究極のサービス業ですから、重要性は誰しも感じていると思います。
経営陣の人事は極めて重要で、組織成長は人事に大きく依存します。

「ビジョナリー・カンパニー」から学ぶ人事の重要性

世界的ベストセラーであり、経営学の世界で知らぬ人はいない「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」及び「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」(共に日経BP発行)に書かれていることをご紹介しながら、組織運営におけるビジョンと人事の重要性について考えたいと思います。

スタンフォード大学の元教授であるジェームズ・コリンズとジェリー・ポラスは、「ビジョナリー・カンパニー」で、時代を超えて際立った存在であり続ける企業の特性を明らかにしています。
企業永続は、カリスマリーダーの存在や外部からの専門経営者の引き抜きなどで実現されるものではない。長期間にわたって高成長、高収益を実現できる企業には“優れたビジョン”があると説くのです。

ビジョンは、組織を1つの方向に導き、そこで働く人々を鼓舞するために重要な鍵を握ります。あるべき姿を描写する一方で、現状・組織特性に沿った心に響くものでなければ、長期的な成長につながることはないでしょう。

「ビジョナリー・カンパニー2」では、企業が長期にわたって飛躍するための法則を提示します。

飛躍する企業には、地味で謙虚な経営者が多いといいます。カリスマ的なリーダーが大改革やリストラにより企業を成長させるといった「プロフェッショナル経営者」のイメージとは一線を画しています。

大切なことは、適切な人材を経営陣に迎え入れること。そして不適切な人を経営陣から外すことです。「誰を選ぶか」を決めた後、ビジョン・戦略・組織構造を考えるべきだといいます。

ビジョン達成の鍵は「誰をバスに乗せるか」

病院経営でも、ビジョンと戦略、それを実行する組織をどう構築するかという点に議論が集中することが多いでしょう。

ただ、コリンズらは、「ビジョンを達成するためには誰をバスに乗せるか、誰をバスから降ろすかが重要である」と説いています。

経営陣が互いの顔色を伺い、いがみあっていると、職員に伝わりますし、一枚岩でなければビジョンの実現は不可能です。
適切な経営陣を選べば、職員は内部政治を考慮する必要はなく、自主的に動くことができるため、組織の風通しはよくなるでしょう。組織の文化を十分に理解し承継できる人材を経営陣に招くことが理想です。

ただ、現実には、多くの病院は単独では経営幹部人事を決められず、適切な人材が選任されるとも限りません。派遣元の医局や大学執行部などの意向が大きく影響するからです。
どの病院にとっても重要課題である優秀な医師確保のためには、不本意な人事であってものまざるを得ないケースもあるでしょう。名ばかりのポストがつくられたり、組織の和を乱す幹部を登用したりするような人事が行われることもあります。

もちろん、落下傘人事が、停滞した組織文化を活性化させる可能性はあり、ときには外の風を入れることも考慮すべきでしょう。しかし、現場を理解しない経営幹部にスタッフがついていくのは、極めて難しいです。

自院の組織成熟度を十分に考慮し、自らの足で立てると判断した場合は、派遣元の意向に迎合せず、病院独自の路線を歩むという決断も必要になります。

【筆者プロフィール】

井上貴裕(いのうえ・たかひろ)
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授。病院経営の司令塔を育てることを目指して千葉大学医学部附属病院が開講した「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム- 」の塾長を務める。
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学修士、上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を修得。
岡山大学病院 病院長補佐・東邦大学医学部医学科 客員教授、日本大学医学部社会医学系医療管理学分野 客員教授・自治医科大学 客員教授。

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