新公立病院改革ガイドラインに則り、2017年7月に地域包括ケア病床を導入した福井県坂井市立三国病院(105床)。公立病院の職員は公務員という特色があり、中でも事務職員にはしばしば異動が伴うため、年次単位のプロジェクトを進めづらい面があります。三国病院も同様で、計画を実行に移すまでに時間がかかりましたが、あえて第三者が入ることで打破できたことも多いとか。公立病院ならではの課題もある中、いかにして地域包括ケア病床を導入したのか、事務局副局長・古道孝佳氏と、医事課主査・医師事務作業補助者の戸田尚里氏に伺いました。
福井県坂井市に位置する、一般病床105床の公立病院。産婦人科や小児科といった地域医療を守り続ける一方で、経営赤字のため9年前から改革を実施。2017年7月には、一般病床43床を地域包括ケア病床に転換した。
難航する計画実行…第三者だからできる院内調整
――新しい改革プランに基づいた、地域包括ケア病床の導入経緯について教えてください。
古道氏:当院は9年以上前から改革プランに沿って経営改善を試みていましたが、あまり効果が出ず赤字が20億円以上累積する状況にありましたが、2016年の総務省の通知によって、改めて「新公立病院改革ガイドライン」の作成が義務付けられました。もともと、わたしは前任の課が財政課だったこともあり、予算査定・決算等で三国病院の赤字には強い危機感を覚えていました。一時期、10対1の看護基準を満たせず、特別入院基本料(40%額)に格下げし、大きな赤字が出たこともあり、新しい改革プランで失敗してしまったら、この先はないとも思っていました。
そこで当院も予算を立てて、とあるコンサルティング会社と協力しながら、調査の実施と計画の策定をしました。しかし、時間と予算の関係上、そのコンサルティング会社には計画の実行まで担っていただくことができなかったのです。
――完成したプランを単独で実行するのは難しかったのでしょうか。
古道氏:現場の医師や看護師からの反発もあり、会議もまとまりませんでした。個々人では病床転換した方がいいと、その重要性を認識していたのですが、誰も100%成功するという確証が持てなかったので、非常に困難な状況に直面していました。
そうこうしているうちに、市議会からも「早く地域包括ケア病床を導入しなさい」と急かされ、指定管理者などの経営変更の話も出始めていたので、2016年当時が導入のラストチャンスになっていました。そこでたまたま知り合ったのがエムスリーキャリアです。わたしは仕事柄、様々な業者さんと取引してきましたので、そこで色々と話し合い、担当者が信頼できるかどうかを判断しました。
――計画実行において、具体的にどのようなことを行ったか教えてください。
古道氏:看護師向けの院内勉強会の開催、多職種が集まる運営会議での説明、全常勤医との面談など、既存職員では入り込めないようなところで丁寧な説明を行ってもらいました。ここで第三者が入ってくれたからこそ、スムーズに話を持っていくことができましたね。もちろん、その場でも看護師などからは「転換をやめてほしい」と反発がありましたが、それでも過去実績や当院のデータに基づいた説明は説得力があり、わたしたちではなし得ない調整ができたと思っています。
医師事務作業補助の仕事を全院展開、病院経営への意識が生まれる
――戸田さんは20年以上、三国病院に勤務されていると伺いました。今回は医療事務という立場からどのような取り組みを行いましたか。
戸田氏:わたしは、元々パートで受付やレセプト業務を担当していましたが、今は、受付・会計ともに外部委託したため、医師事務作業補助者として働いています。
当院の場合、すでにデータ提出加算の届出はできていたので、地域包括ケア病床を導入しやすい体制ではありました。一方、課題だったのは病床稼働率7割台の維持・向上。そこで活用を始めたのが、医師1日あたりの診療内容を点数化した日当点情報です。最初は、医師事務作業補助をする自分のための参考材料として使っていたのですが、エムスリーキャリアのコンサルタントが院内全体への共有を提案してくださり、医師や地域連携室を交えた週次のベッドコントロール会議でも使うようになりました。
――週次で日当点情報を共有することで、どのような効果がありましたか。
戸田氏:医師は診療点数を正確に把握していないことが多いので、自分たちの医療行為がどのくらいの収益につながるのかを意識してくれるようになりました。医療事務側も点数の状況を見て今後の治療方針をお伺いしたり、カルテを読み込んだり、医師と連携する場面が増えたと思います。
一連の取り組みの中で気付いたベッドコントロールの鍵は、明確な退院理由を医師に伝えること。日当点情報を共有する前は、転床、退院などの見極めは医師と看護師の主観に頼っていましたが、現在、一般(急性期)病床から地域包括ケア病床に転床する場合は日当点を基準に考えられるようになりました。診療方針は医師の思いや考えも含まれているので、データだけで答えが出るものではありません。それでも判断軸となる入院日数が示されるようになってからは、退院できそうな患者さんがいないか相談しやすくなりましたね。
病床稼働率が十数年ぶりに改善、より地域に根差した病院へ
――地域包括ケア病床を導入してからの収益状況はいかがですか。
古道氏:2017年7月に導入後、10月くらいから季節要因も相まって入院が増えていきました。患者が急増する12月頃からは、医師も積極的に患者を受け入れる努力をしてくれるようになりましたね。平均すると、稼働率は70~80%程度で、ピークでは満床近くにまでなったこともありました。ある看護師は「患者がこれだけ増えたのは十数年ぶりだ」と驚いていましたよ。
一方、患者が増えた分、スタッフの負担も増えているはずなので、これからは医師や看護師の人員をさらに手厚くしていく必要があると感じています。
――今後の展望について教えてください。
戸田氏:院内外で連携して、より地域に根ざした病院を目指していきたいと思います。というのも、2次医療圏唯一の公立病院であるにもかかわらず、はじめは地域や周辺病院と連携していけるのか不安が大きかった。事実、一部では「今まで何もしてこなかった」という批判もありましたが、潜在的な需要は確かにあるとも感じられたので、地域からの期待が高まっていると感じています。
そして何より、地域包括ケア病床を導入したことで、医師を含めてほぼ全員のスタッフに病院収益の意識が生まれました。以前は自分の好きなように各々の仕事を進めていたのが、毎月の会議で収益報告をするようになり、みんなで連携して取り組めるようになったので、この関係性はより強くしていけたらと思います。
<取材・写真・編集:小野茉奈佳 / 制作:(株)デファクトコミュニケーションズ>
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