“これからの病院事務職にはどのような人材が求められるのか”を考える「若手事務スタッフのやる気を伸ばす参加型セミナー」(主催:若手事務員を育成する会)がこのほど都内にて開催されました。当日は若手向けセッションと管理職向けのセッションに分かれ、現役事務長や大学准教授など講師5名による講演のほか、キャリアや人材育成についてディスカッションするグループワークを実施。イベント後には「他の病院の方の話が聞けて勉強になった」「講義内容がとても参考になった。明日から実践したい」などの声が寄せられました。
「管理職になりたいか?」若手に問いかけ
若手向けのセッションでは、様々な職種を経験したベテラン事務職が若手時代の心構えや、上司目線の“求める人材”について講演。グループワークでは「5年後・10年後になりたい事務職像」や「どのようにそのキャリアを実現するか」などのテーマをチームごとに話し合いました。講師陣が強調したのは、自ら考え主体的に取り組むことの重要性です。事務職としてのキャリアの可能性が広がっている今だからこそ、思考停止せずに様々なトライをしてほしいと参加者に語りかけました。
舘野晃一郎氏(あい友会 あい太田クリニック 事務部長)は、保険会社のスタッフや老人保健施設(老健)の支援相談員、病院の採用担当を経てマネジメントに興味を持ったという自身の来歴も振り返りながら、「管理職になりたいのか?それとも、たとえばレセプト業務など専門性を極めたいのか?」と会場に問いかけました。若手には“自分にとっての成功はなにか”を考えビジョンを描いてほしいとした上で、 「結果に対して自分の関わりがどのような影響を与えたのか、を振り返ることが大切。なんとなくその結果にたどり着いた人と、計画的にたどり着いた人とでは成功体験として大きな差がある」 と語りました。
クリニックの職員に備品管理について問題点と改善案を考えてもらった実際の事例を挙げ「パワーポイントをほとんど使ったことのない職員が、自分で資料を作成し、他の職員の前でプレゼンした。成果を認められ、自信につながったはず」と小さな成功体験を重ねて大きなステップにつなげることの大切さを力説。「自分を過小評価しがちな人もいると思うが、考え方と熱意で上回れば能力の高い人にも勝てる」と参加者を激励しました。
「経営工学の修士課程を修了してからは、看護職向けのセミナー営業やセカンドビジネス、土日も学会・研究会などで飛び回る日々だった。自分の好きなことをやっていたから睡眠時間がほとんどなくても平気だった」こう若手時代を語ったのは、佐藤譲氏(榊原記念病院 監理部部長)。「その後も医療情報SEとして渡米したり、榊原記念病院に入職し病院に泊まり込んで大規模移転を経験したり、多摩地区のメディカルマネジメント研究会の立ち上げに関わったり…思えばずっと、“今何をすべきか”だけを追求してきた。現在も兵庫県立大学の学生として経営学を学んでいる」と、幅広いチャレンジがキャリアを切り拓いてきたことを述懐。「30代後半までになるべく色んな所に行って色んな人と会うべき。多くのつながりを作っておくと視野も広がり自己研鑽につながる」と強調しました。
また、 「これまでは患者が自然と集まるので眼の前の仕事をこなすだけでよかったが、今後は“いかに病院を発展させるか”というマネジメント視点が事務職にも求められる」 と事務職の役割の変化にも言及。「毎日同じことの繰り返し、ではなく日常業務の中でいかに自分を成長させられるか。たとえば『あと2時間で終業だ』と思った時に、残りの時間に対して自分の業務をシミュレーションし、良い・普通・悪いの3パターンをそれぞれイメージしてみる。これだけでも数年後が大きく変わる」と日頃からの意識付けの重要性を語りました。
上司がマネジメントで実践すべきこととは
一方、管理職セッションでは各講師がマネジメントのポイントについて講演。医師を含めた多職種と上手に連携しながら、部下を組織し業務改善につなげることの難しさが実感をもって語られ、参加者からは共感の声もあがりました。
石井仁氏(千葉県済生会習志野病院 事務部 事務次長)は自身のマネジメント経験や、身近な医療機関で様々な人材育成の考え方・実施内容を見聞してきた経験から、若手がやる気を持てないあるいは受け身になってしまう環境をベテラン層が作り出してしまっている可能性を示唆。自身の医事課長時代を振り返り、「1人でできることは限られているので周囲に頼った。するとメンバーがしっかり業務を遂行してくれて、わたしは現場の仕事がほぼ皆無、マネジメントに専念できた」とトップダウンではなく、ひとりひとりの気づきを業務改善につなげることが組織を強くすると強調。 「気づき(視点)は人によって異なるし、盲点も必ずある。だからディスカッションを通して個人の気づきを組織の共通認識に昇華させていく作業が必要」 と話しました。
その上で、コミュニケーションの注意点として上司が部下に「この資料早めに作って」と指示を出した例を挙げ、「上司は『今日中に』というつもりで指示を出したが、部下は『明日までにやろう』と受け止めた。『早めに』という言葉の受け取り方が違ったから」と認識の差異がミスにつながるリスクを指摘。さらに、「一番怖いのは野球で言うお見合いエラー、ポテンヒット。『誰かがやるだろう』ではなく、当事者として一歩踏み出せるようにすることが大切」と、部下の主体性を尊重することの大切さを語りました。
『病院のしくみ』などの著書で知られる木村憲洋氏(高崎健康福祉大学 健康福祉学部 医療情報学科 准教授)は、病院経営で成果を出せる人材育成のために、上司に求められる要素を抽出。「部下への指示は『この仕事はこんな出来栄えでやってね』とアウトカムで示すことが大切。教育も同様で、“教えたか教えていないか”というプロセスでチェックシートをつくっても意味がない。“できるようになったかなっていないか”で判断すべき」と、結果志向の重要性を力説しました。
さらに、「たとえば、電子カルテ導入時は多忙さに押しつぶされてスタッフが辞めやすいが、実際にはその忙しさは1ヶ月くらいでおさまる。上司が一言出口を示してあげるだけで離職は防ぐことができる」と方向性を明示することの効果に言及したほか、 「つい見落としがちなのは“ひとりひとりをきちんと見る”こと。スタッフは上司から適切に見られて、適切に評価されることを求めている。あの職員は危ないな、と思ったらしっかり話を聞いて、目線合わせをすべき。むやみに褒めればいいわけではなく、『あなたをちゃんと見ているよ』といかに示せるかが大切」 とエモーショナルに働きかけることの大切さを訴えました。
グループワークでは、“理想の上司・部下”などのテーマについてディスカッションした他、人材育成に関するケーススタディーを実施。「新人Aくんの教育をBくんに任せたものの、3ヶ月経っても成長しない」という事例の問題点と改善策を考えました。「Aくん・Bくん・自分、三者共通のゴール設定をすべきでは」など参加者同士が積極的に意見を出し合う中で、他院の実例から学んだり、ノウハウや情報を交換したりといった様子も。締めくくりに、石井氏から「この場でつながりを得て終わり、ではなく次に皆さん自身がどう動くか、というところがスタート」とのエールが送られました。
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