上長こそ掃除やあいさつをサボらない 医事委託会社出身の事務長が抱くキャリア観―さくら会病院 橋本慶久事務長

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医事業務委託会社、コンサルティング会社を経ての病院事務長という異色のキャリアを持つ橋本慶久氏。コンサルタント時代から関わる社会医療法人さくら会 さくら会病院(大阪府大阪狭山市、147床)では、医事課の組織改善をはじめ、事務部門全般において時間と労力がかかるところを着実に立て直してきました。今回は医療関連企業から病院事務長に至るまでのキャリアと、事務長の心掛けについて伺いました。

自分の力だけでは結果につながらないことを痛感

―大学卒業後、医療事務の委託会社に入職したのはなぜでしょうか。

メーカーや金融が不況と言われる中、医療・介護関連業は介護保険のスタートとともに注目が集まっていました。一時的であったとは言え、医療・介護関連は平均株価が5倍以上になる企業などを見て、市場の広がりを感じたので、医療機器メーカーや医療系の人材会社なども検討した上で医事業務の委託会社に決めました。

―入職後の具体的な業務内容を教えてください。

最初の3年間は先輩とともに、受託病院の医事課で、会社と病院、委託職員を調整するノウハウを学んでいきました。この調整がうまくできなければ、板挟みどころか三つ巴になる可能性があるので「ここを押さえておかなければあちらが大変になるから、こちらに先回りして話をしておく」というような動きが必要です。

この時大切なのは、病院と委託職員が目的を共有し、パートナーとして認め合うこと。ビジネスとはいえ、委託職員も同じ「人」なので、病院側から粗末に扱われたらプライドやモチベーションを保てなくなります。だからこそ、所属は違ってもがんばろうと思える組織の雰囲気づくりには力を入れたほうがいいと思います。

あちこちに気を遣わなければいけないのは大変でしたが、私としては20代前半に、「仕事=自分の力だけでは結果が出せないもの」と叩き込まれたのがよかった。いくら私一人で頑張っても誰も褒めてくれないので、早い段階で、チームでのパフォーマンスをいかにあげるかを意識できたと思います。

―4年目以降はどのような業務に取り組まれましたか。

現場経験を踏まえた業務管理をしたり、新規営業に回ったりしていました。営業に行くようになってからは院長や事務長、看護部長などと話すことが増え、病院運営や組織の悩みなど、何でも相談もしてくれる信頼関係が築けたのが楽しかったです。

次第に医事業務に限らず、相談いただく内容に合わせた問題解決に関わりたいと思うようになりましたが、20代のうちに辞めてしまっては視野が狭くなると思い、30歳になるまで転職はしませんでした。

医事課の組織改善 始まりは掃除やあいさつから

―そして30歳でコンサルティング会社に転職しました。病院の問題解決なら、病院に就職する選択肢もあったと思いますが、コンサルティング会社を選んだのはなぜでしょうか。

組織のしがらみなく経営改善に関わりたいと思ったからです。

転職前に、委託会社から病院に転職した知人にも話を聞きましたが、理事長や院長から任せると言われても実際の裁量権は少ないなど、一組織だとその中の風土や価値観に縛られてしまうと思いました。

知人から紹介されたコンサルティング会社は創業間もない新しい会社でしたが、いくつかの支援先病院を1年間で黒字化したと知り、素直に「どうやって改善するのか?」、そのノウハウを身に着けたいとも思っていました。

―コンサルティング会社に入社されてからは、どんなことに取り組みましたか。

最初の仕事として「ある病院の医事課が大変だから何とかしてほしい」というお話を受けました。請求事務のレベルが不安定で、人材も定着せず、未収金の管理も追いついていないなどの問題を抱え、職員もその状況に慣れてしまって改善が見込めないとのことでした。実際に行ってみると業務レベル以上に職場内のコミュニケーション環境の悪化が深刻で、普通に挨拶ができないくらい、意欲が低下している職員もいたほどです。長年にわたるリーダーシップと相互理解の不足、硬直化した業務体制により、働いている職員自身も疲弊しているように感じました。

前職でも同じような業務に取り組んでいましたが、現場職員のためだけに自分の時間と労力を100%使える機会はなかったので、職員との面談、業務整理、マニュアル整備まで徹底的に行いました。ただ、力及ばず「病院から大切にされていない」「そこまでしてやりたくない」という強い負の感情を抱えた職員数名は退職してしまいました。委託会社時代に続き、改めて職員は大切にしなければいけないと痛感したので、今でも肝に銘じています。

―コンサルタントとしての関わり方は、かなり自分の手も動かしている印象を受けましたが、どのような関わり方だったのでしょうか。

外部から支援するコンサルタントではなく「職員の一人」として病院が良くなることなら何でもやろうと思っていました。現在、事務長を務めるさくら会病院にはコンサルティング会社へ転職した日からずっと関わっており、医事、総務、購買、施設管理、人事などの仕事を通じて病院の運営管理を学ぶことができました。当初は会社からの出向という形でしたが、課長や事務次長、事務長などの職責を経て、8年目を節目に病院職員として転籍することになりました。

―途中、転籍をしたのはなぜですか。

転職した動機に1つの病院に留まらずに色々な病院で仕事をしてみたいという思いもあったので少し考えましたが、今、この病院で任されている運営管理の仕事をさらに深めていきたい気持ちの方が強くなったからです。年々、対応しなければならない新しい経営課題への対応で自分のモチベーションは十分維持できています。将来、それでも他の病院で仕事をしてみたいと思うなら、その時に考えることにしています。

―実質的な事務責任者を任せてもらえたのは橋本さんの仕事ぶりを評価されてのことだと思います。仕事を進めるにあたり、何を心掛けていましたか。

当たり前のことを当たり前にすることです。

何か特別な専門性があったからではなく、目の前の問題に見て見ぬふりをせず、よりよくしようと考えてきたことが大きいのではないかと思います。みんなも問題は何か既にわかっていて、それをどうしていけばいいかわからない・できないから困っていたのだと思います。そこで「あれが問題だ、これが問題」など自ら行動せずに評論で終わっていたら、大事な仕事は任せてもらえなかったと思います。

医事課の組織改善も、カルテ庫の整理やあいさつは大事だと伝えたら一番に実行するなど、傍から見たら「そんなこと?」と思われるようなことが意外と評価につながってきたのかもしれません。事務長になれば、目の前で起っていることだけでなく、今後起こりそうなことにも気を配り、備えなければなりません。とはいえ、目の前の課題をクリアしなければいつまでも経営改善には辿り着けませんので、面倒でも愚直に取り組み続けることを忘れてはならないと思います。

当事者意識を持ち、相手を思いやる

―現在、事務長を務める中で大切にされていることは何でしょうか。

2つあります。

1つは他責思考ではなく、自責思考で考えること。何かしらの課題があがってきた時、自分には直接関係がなくても「自分だったらこうする」と意見を持つようにしています。課題を他人事にせず、内省する機会が増えるので、やっている人とやっていない人では成長スピードが変わると思っています。

2つ目は、相手の立場で物事を考えることです。この時、「相手の立場で考えたら嫌だったからやめておこう」ではなく、少しでも嫌だと思われない言い方やタイミングはないかを考えます。どうすれば協力してもらえるか、わかりやすい例で言えば、医事課の書類で医師の記載不備が見つかった時、医師への確認は外来対応中ではなく時間に余裕がある時のほうがきちんとした回答をもらいやすいですよね。当たり前のことかもしれませんが、こういうことが意外とできず、結果、良好な関係性が構築できないことにつながっている事例も少なくありません。管理職にもなれば自分の部署だけでなく他部署や他職種の状況の把握に努めたり、想像力を働かせたりするべきだと思います。

―最後に、キャリアに悩む事務職にメッセージをお願いします。

病院の事務職はまだまだ活躍の余地がある職種だと思います。ただ、この先、具体的にどうしたらいいのかがわからないのであれば、院内外で自分の問題意識を発信してみたらいいと思います。自分の考えを伝えるだけでなく、上司が自分、あるいは自部署に期待していることなども聞いてみてください。そこで何かしらの答えが返ってくれば、自分のやろうとしていることには価値があるのか、どういった点を評価してもらえるのかが肌でわかってくると思うので、それを踏まえた行動を続けることが大切なのではないかと思います。自分の力も大切ですが、周りの理解と協力も成果を出すためには必要です。

<取材・写真:浅見祐樹、文・編集:小野茉奈佳>

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