「本当に公立病院?」“役人離れ”の対応目指す千歳市民病院 ― 市立千歳市民病院 事務局長 佐々木善範氏

日本各地の医療体制を支えている公立病院。民間法人では手が出しづらいような地域や診療領域をカバーしていることも多く、日本の医療体制を支える上でなくてはならない存在と言えますが、「行政による定期的な人事異動があるため、事務部門にノウハウが蓄積されづらい」「民間と比べるとスピード感に劣る」といった声が聞かれることも少なくありません。

今回取材したのは、北海道の市立千歳市民病院の佐々木善範事務局長。千歳市役所の職員として入職後、財政局と観光振興という全く畑違いのキャリアを進んだ佐々木氏は、2000年から、総工費100億円という市の一大事業である千歳市民病院の運営に17年間関わることになります。観光復興に携わった経験から地域の枠にとらわれず新しい取り組みを行おうと意気込んでいたという佐々木氏。「この病院の役人は何か違う」と思われるような事務部門を目指し、運営に携わってきた思いを聞きました。

「この病院の役人は何か違う」と言われる病院に

―病院改革に携わりはじめた、当時の様子を教えてください。
DSC_0147わたしが就任した2000年当時は、病院建替えのまっただ中でした。総工費100億円を超える市の一大事業の運営に携わることになったわけですが、小児科の救急夜間診療の開始や、脳神経外科・消化器科など新規診療科の開設も相次いでいた当時は、単に建物を新しくするだけでなく、職員の意識改革も並行していかなければ、地域に期待されている役割は果たしきれないと感じていました。そのためにはまず、現場で指揮を執る医師から信頼を得なければなりませんでした。

ただ、正直なところ医師の多くは役人が嫌いです。その理由は医師と役人の現場認識に差がありすぎるため。たしかに就任当時の医師の業務量を見れば、「意識改革が必要だ」と一方的に訴えかけても反発を受けることは当然ともいえる状況でした。「公立病院なのに、この病院の役人は何か違う」と医師に言われるくらいに信頼を勝ち得ないと、スタッフのソフト面は変わらないと感じました。

医療スタッフが困った時に大切なのは、スピード感

―医師をはじめとする医療スタッフから信頼されるために、コミュニケーションにおいて気をつけていることを教えてください。

医療スタッフが困った時に、頼られる事務部門であることが大切だと考えています。医療スタッフが我々に相談することは、お金に関することや人間関係が中心です。それらの課題は事務が勝負できる土俵の問題なので、全力で取り組みます。その時に大切なのは医療スタッフが納得できるだけのスピード感。常に緊急事態に接している医療スタッフは判断スピードも非常に早いのですが、事務部門もそのスピードに合わせていかなければ、現場と足並みをそろえることはできないと思うのです。たとえスピーディに解決できない部分があったとしても、事務としてベストを尽くしていることがきちんと伝えていくよう心がけています。

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病院業務の全体を知っているスタッフを養成する

―千歳市民病院ではどのように事務職の育成を行っているのでしょうか。
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プロパー職員はもちろん、行政からの出向者の職員も積極的に院内での部署異動を経験し、病院業務の全体を知ってもらえるように仕組みを整えています。

医事課には勤務年数が長い職員も多いので、医療スタッフとのコミュニケーションも密度が濃い。日常的に医療スタッフと接する医事課職員が、病院の全体のことをある程度理解していると、医療スタッフは何かに悩んだら取りあえず医事課員に相談するようになっていきます。そうすることで、現場の困ったことが常に事務に持ち込まれるようにしています。

病院を知っている人材の輩出する拠点になる

―行政からの出向者が病院での業務に慣れてきたころに、行政に異動してしまうというような苦労はないのでしょうか。

確かに、行政内での定期的な人事異動によって、行政に戻っていく職員も多いですが、当院での経験は決して無駄にはなりません。一通りの実務に携わり、医療現場の現実を知った経験を経た彼らだからこそ、医療現場の実情に即した政策を進めたり、公的な支援を進められたりすると考えています。もちろん、常に新しいメンバーを教えていかなければならない苦労はありますが、行政と二人三脚でやっていくというのはそういうことだと思います。

―これからの事務職に向けたメッセージをお願いします。

今までの事務職は縁の下で支える役割だったかもしれませんが、医療業界が大きく変わり、各地の病院が自身のあり方を再定義しなければならない今、これからは事務職が主役の一人として、医療チームに貢献できるかどうかにかかっています。常にその意識を持って、事務職として医療に貢献できる業務の幅を広げていく姿勢を身につけていって欲しいと思います。

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