外来・救急の制限から一転!長野山間部で常勤医10名採用を実現―飯山赤十字病院 経営改善推進室 新免悟氏

常勤医が約15年間で12名減り、外来縮小や救急受け入れ制限を余儀なくされてきた飯山赤十字病院(長野県飯山市、284床)は、その後10名の採用に成功します。しかも、2018年からのわずか1年半の間に入職が続きました。採用ゼロが長らく続いてきた同院に、一体どんな変化があったのでしょうか。キーパーソンの経営改善推進室長 新免悟氏(しんめん・さとる)に伺いました。

採用支援サービスを導入も、1年半は採用ゼロ

―飯山赤十字病院は、住民や自治体などから医療機能の回復を期待される一方で、 2017年3月までの14年間で常勤医が33人から21 人に大幅減少しました。

当院は周辺地域で唯一の病院です。しかも豪雪地帯で、冬期間は他院への通院や搬送も困難になります。当院の果たすべき役割は大きく、医師確保は地域から待ち望まれてきました。しかし医師採用は思うようにいかず、大学病院に依頼して非常勤医を招いたりもしたのですが、外来の縮小や救急車受け入れの制限などを余儀なくされ、地域の方々にはご迷惑をお掛けして心苦しい限りでした。

飯山赤十字病院があるのは長野県北部の山間部

―新免さんが採用に関わり始めたのはいつ頃なのでしょうか。

私が採用を一任されたのは2016年だったのですが、途中から電子カルテの導入プロジェクト責任者も兼任になり、2017年は電子カルテ導入だけで精一杯でした。採用と電子カルテ導入という全く違う大粒の業務を1人でこなすのはさすがに難しく、採用をなんとかしたいと思いながらも、あまり活動できなかったのが正直なところです。2018年4月に電子カルテが稼働すると同時に経営改善推進室長に就任し、また採用に注力し始めました。

―長野県は医学部が1つしかなく、他の都市部からのアクセスも決して良くはありません。常勤医を招聘するには厳しい環境です。

その通りです。2016年時点で大学や県に協力を仰いだり、人材紹介会社を利用したりしていましたが、医師確保にはなかなか繋がりませんでした。

―同年にエムスリーキャリアの採用支援サービス「採用OS(アウトソーシング)」も利用し始めましたね。

そうですね。しかし、それもすぐに結果には結び付きませんでした。採用OSは「導入施設の6割が、1年以内に常勤医を採用」ということでサービス内容のプレゼンを受け、これは効果的なサービスだと直感しましたので、やってみる価値があると思ったんです。利用すれば医師がどんどん来ると思っていたのですが、現実は厳しかったですね。ツールは使い手次第ですから、任せっきりではダメだということを今振り返ると感じます。

当時は、まずは面接の機会を増やそうと年齢などの条件を緩めたのですが、人材紹介会社からはなかなか紹介されませんし、面接にこぎつけても医師から辞退されてしまう始末。どうにか入職していただきたいと思って頑張りましたが、結果にはなかなか結びつかなかったんです。

新免悟氏

―かなり厳しい状況が続きましたね。

私自身も苦しかったですが、医師の獲得がものすごく大変なことは承知の上でした。それよりも、病院から医師がどんどん減っていって、残った医師が疲弊していることの方が問題でした。このままでは病院経営が成り立たず、この地域に病院が残らないという危機感が強かったですよ。

―使命感を糧に活動されていたと。そうした想いに共感してくださる医師もいると思いますが… 医師にお断りされる理由は何だったのでしょうか。

面接に来てくださる医師はそこそこいたのに、医師に関心を持っていただくための肝心なポイントが分かっていなかったんですよね。採用ノウハウと言ってもいいかもしれません。例えば、面接では当院の特色でもある在宅医療を説明するのですが、そればかりになってしまい、ケアミックス病院としての様々な魅力を伝えきれず、当院のアピールに繋がっていなかったんだと思います。そして最も重要な当院での働き方の魅力を伝えることができていませんでした。

それで、採用OSの担当者にアドバイスをもらって、当院のことを説明しやすいように周辺医療圏の資料や様々な資料を作るようにしました。他にも、面接を終えたら病院長より医師にオファーレターを送って入職意欲を高めてもらうといった方法も教えてもらって、医師に伝わるアピール方法を学べたのが良かったですね。
そもそも、どんな医師にアプローチしていくべきかといった細かい設定や絞り込みは自分だけでは当然できなかったと思います。採用ゼロではありましたが、そういうところにサービスの価値を感じたため、利用は継続し続けました。

それと、面接に来てくださった先生の中に、良い印象の方がいて、「人材紹介会社でもこんなに良い先生がいるのか」と思いましたね。そのあたりから人材紹介会社にも希望を感じました。

医師の「こう働きたい」を形にする

―2018年には、常勤医の入職が実現しました。

1人目、2人目の医師が入ってきて、手応えを感じるようになりました。医師は1名入るだけでインパクトがありますし、院内の雰囲気が変わりますね。入職された先生には「この病院が困っているところをやりますよ」と言われ、職員の士気も上がりました。まさに地域医療を行う当院にマッチした先生でした。

―ひと安心したのではないですか。

そうですね。採用に至るまでは、もちろん応募者数や面接通過率といったKPIも管理して上げる努力をするのですが、なにせ1人目が決まるまでは正解かどうかが分からない。入職までは内心は穏やかじゃなかったですよね。

多くの医師を採用できたからこそ思うのですが、応募者数を増やそうと年齢などの条件を緩めるのは、もっと慎重にすべきでしたね。入職がゴールでなく、入職していただいて地域医療が機能することがゴールですから、緩めても良い条件とそうでない条件があると思います。そこの見定めが重要ではないかと感じます。

―採用で工夫したことはありますか。

大切にしたのは、医師の希望する働き方を実現するために、なるべく柔軟に対応することです。都市部の病院と正面から張り合っても、医師に選んでもらえるわけではありません。だから、医師の要望をお聞きして、勤務条件を事務部門で調整していました。例えば勤務の開始時間や曜日、研究との両立、ちょっとした時短勤務など、挙げるとキリがありません。

給与をはじめとしたお金にまつわる条件の伝え方もかなり変えました。例えば新幹線通勤を補助すれば、実質的な給与アップです。しかも新幹線ですので座って通勤できるというメリットをイメージしやすい。当院の外部環境として最大の強みはJR北陸新幹線飯山駅から徒歩2分ですので、これだけで働き方改革に繋がるぐらいのインパクトがあります。これ以上に快適で安全な通勤手段はないと思いますので、新幹線利用のメリットをいかに伝えるかは重要でした。他にも家賃補助なども設け、福利厚生を充実させました。

それから、人材紹介会社には病院側で聞けない情報をもらうようにしています。特に、紹介された医師からお断りされたときは、理由を必ず聞いています。そうすることで、次に活かせますから。

採用とともに定着を

―今後の展望はいかがでしょうか。

採用も続けるのですが、入職いただいた先生方にどうしたら長く勤務いただけるかが関心事です。こういうのは日頃からの積み重ねだと思いますので、私自身が医師と病院の橋渡し役になれるよう、なるべく医師とコミュニケーションを取っています。とは言いましても、廊下で会った時の挨拶であったり、何気ない雑談であったりと、特別な事はしていませんが。
大事なのは、一人ひとりの先生に合わせたコミュニケーションを取ることだと思います。私との相性もありますが、頻繁なコミュニケーションの必要な先生や、公私の隔てなく付き合える先生もいれば、それらの逆を好む先生もいます。幸い、私自身は医師と友人付き合いのような関係を持つことが億劫には感じませんし、色々な先生とコミュニケーションが取れているのではないかと思います。

医師が増えてきた今、救急車の応需率も90%を超え、病院の基本方針として掲げています「断らない医療」を実践することができてきています。
また、外来を縮小していた影響で減っていた患者数も徐々に回復してきています。地域住民の皆さまには「お待たせしました」という気持ちです。
ここからが正念場だと思いますので、身の丈以上の事はできないかも知れませんが、ちょっとだけ背伸びして頑張っていきます。

<取材・撮影:河本曹宇、編集・制作:塚田大輔>

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