病床転換時の受け入れ患者層の入れ替え、どう進めるべき?【ケース編】:病院経営ケーススタディーvol.4

    歴史がある分、意思決定も硬直化したX病院

    X病院の概要
    1. 病床数:80床(医療療養150床、介護療養30床)
    2. 場所:地方都市(県庁所在地)
    3. 職員数:約150名

    古くからその地にある療養型のX病院。地元では「老人病院」と呼ばれているが評判は良く、外来には地元の高齢者が数多く通っている。しかも同機能の競合病院が少ないため、近隣の急性期病院からの転院ニーズも高い、地域密着型の病院だ。

    X病院の職員たち


    介護療養病棟から医療療養入院料1への転換が決定したX病院(転換の経緯は前回記事を参照)。その後、病棟では看護部長を中心に看護師の新規採用や職員教育を行ない、体制づくりが着々と進んでいった。

    転換に伴い、これまでは縛りのなかった医療区分2・3の該当患者割合を8割以上にする必要がある(図1)。X病院の介護療養病棟は30床のため、満床稼働させるためには単純計算で24名以上、医療区分1の患者から医療区分2・3の患者に入れ替えなればならない。ちなみに、X病院の介護療養病棟への入院経路は他院からの紹介が約85%、自院外来からが約15%を占めている。

    図:療養病棟入院料1~2の内容(厚生労働省保険局医療課 平成30年度診療報酬改定の概要 医科Ⅰより抜粋)

    院内の体制づくりの目処が立ったところで、S事務長は、医療区分2・3の該当患者割合を速やかに8割以上にするよう、看護部や地域連携担当部署に指示を出した。

    【S事務長とスタッフのやりとり】
    S事務長「看護部長を中心に人員体制や職員教育もかなり進んできたと思います。そろそろ医療区分1の患者を退院させ、医療区分2・3の該当患者を集客して8割以上に増やしていきましょう。1〜2ヶ月もあれば十分ですか?完了次第、施設基準の変更手続きを行います」
    看護師・A「そんな簡単に言わないでください。介護療養病棟にいた医療区分1該当の患者さんの中には、年単位で入院していた方も少なくありません。それをいきなり退院させましょうと言われても、すぐに受け皿が見つかるものではありません。それに、ご家族に丁寧に説明して理解を得ながら進めないと、クレームに発展しかねませんよ」
    S事務長「……」
    MSW・I「周辺地域への広報はどのように進めましょう?」
    S事務長「えっ?」
    MSW・I「受け入れ患者の層を変えるということは、当院の前方・後方連携先のみならず、周辺の急性期病院の退院支援や介護施設にも影響が出てくることが予測されます」
    S事務長「地域全体の患者の流れを考慮しないといけないということか……。思っていたより大変そうだ。困ったな」

    もともとは総務を担当していたS事務長。事務長となってからは診療報酬や施設基準を勉強してきたが、これまで患者さんを相手とする業務はあまり経験がなかった。病床転換という一大プロジェクトの達成にあたり、つい数字ばかりに目が行き、患者視点が抜け落ちていたようだ。また、地域への影響についても思いが及んでいなかった。

    「患者さんや地域へも配慮しなおかつスムーズに転換を実行するためには、どのように退院支援や広報を展開していくべきか?」
    S事務長はまたまた頭を抱えてしまった。

    【設問】
    1. あらかじめ入院期間を設定しておらず、入院が長期化している患者さんに対してどのように退院支援を進めていけば良いでしょうか。
    2. 連携医療機関へ広報を行う際、どのような点に留意すべきでしょうか。

    <編集:角田歩樹>

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