145床で急性期・回復期を担う武蔵ヶ丘病院(熊本県)は2018年、大きな危機を迎えました。医師15名程度のうち、院長を含む複数の医師が退職したのです。このため急遽、採用活動を本格化。すると、それまで採用ノウハウがほとんどなかったにもかかわらず、1年未満で医師を6名も採用することに成功しました。しかも、そのほとんどが30~40代だったため、医師の平均年齢が56.7歳だった同院は一気に若返りを果たします。
そして、この若返りにより病院の状況は好転。「院内の雰囲気が明るくなった」などの声がスタッフから聞こえてくるとともに、目に見える形でも結果が出ました。採用した医師たちが中心となって救急体制を強化し、救急車受け入れ件数(2019年4~8月)が対前年同期比170%に急増したのです。
松永宏二事務長に、採用活動がうまくいった理由と医師の若返りによる経営効果を聞きました。
医療法人田中会武蔵ヶ丘病院
熊本県熊本市北区楠7丁目15-1
一般病床 145床(回復期リハビリテーション病棟60床/一般病棟45床/地域包括ケア病棟40床)
紹介会社の効果に半信半疑も、採用OSで安心運用
――2018年から医師の採用活動を本格化されたと聞きました。どのようなきっかけがありましたか。
従来の医師の採用は、当院医師からの紹介や直接応募、当直については大学医局からの派遣で対応していました。しかし2018年に入り、院長を含む複数名の医師が退職することになり、早急な医師確保が必要になりました。
しかし、これまでと同じ方法で採用していては、医師体制に元に戻すまでに時間が掛かってしまう……。だから、それまで積極的には利用してこなかった人材紹介会社も活用することにしたのです。当時は、紹介会社に頼んで実際にどのような医師を紹介していただけるのか、半信半疑な面も正直ありました。
そのとき、紹介会社との窓口をまるごと委託できるエムスリーキャリアの「医師採用窓口アウトソーシングサービス」(採用OS)を知り、契約しました。
――採用OSの採用活動とはどのようなものでしたか。
まず、当院のアピールポイントを分析し、医師向けの独自パンフレットを作成していただきました。そして、エムスリーキャリアを含めた紹介会社に対する説明会も開催しました。応募があった際も、候補医師とのやりとりや面接シナリオの作成など、きめ細やかに対応していただき、安心して採用活動をお任せすることができました。
30~40代の医師5名を採用。若手・中堅の取り組みで業績が躍進
――採用活動の成果はどのようなものでしたか。
2019年1月に委託を開始し、同年10月までに紹介会社を通じて5名の医師を採用させていただきました。1名を除き全員30~40代で、診療科は循環器内科、耳鼻咽喉科、総合診療科、リハビリ科、消化器内科(内視鏡専門医)などと幅広いです。その他にも在職医師からの紹介で1名が入職しました。
おかげで医局の平均年齢が若返るとともに、病院全体の雰囲気も良くなり、風通しの良い職場風土となりました。看護部やその他の部門でも「医局の先生方がとても協力的で仕事がしやすくなった」などの声が上がっています。
――病院の業績への効果はありましたか。
新規入職された先生方が新しいことに積極的にチャレンジされており、業績は飛躍的に伸びています。当院で今まで出来ていなかった検査や診療報酬加算、地域の他医療機関や施設などへのアプローチを実施していただいています。
4~8月度は前年同期比で、外来患者数116.9%、入院患者数107.5%、救急車受入れ件数170.5%となり、病院総収入は106.6%になりました。
特に救急車の受け入れについては、若手・中堅の先生方が中心となり、診療科を超えた“救急担当医師”の枠を設けたことが、件数の大幅な増加につながりました。日中は当番となっている救急担当医師が受け入れ専用電話を所持することにより、救急対応を一元化しています。
医師が働く場所を自由に選ぶ時代を実感
――複数の紹介会社から5名を採用できましたが、今回、紹介会社を利用してみてどうでしたか。
はじめこそ効果については半信半疑でしたし、正直なところ、紹介会社を利用する医師に対して「スキルや意識の低い医師」という偏見も持っていました。しかし、いざ採用活動が始まると、複数の紹介会社から、いい医師を次々とご紹介いただいたことに驚きました。他業界・多職種では、転職は一般的になり、ヘッドハンティングも珍しくない時代です。医療業界も同様で、特に若手の医師は、医局に縛られず、働く場所を自由に選ぶ世の中になってきたのだと感じました。
――貴院の今後の展望について教えてください。
医師に限らず、全職種が働きやすい環境を作り、その環境を維持していくことが大事だと思っています。今年は“働き方改革元年”と言われますが、みんなが生き生きと働けて、明日への希望を語れるような、風通しがいい組織づくりに取り組んでいきたいです。
また、医師が本来の診療行為に集中できる環境を整えていきます。具体的には医師の負担軽減のために、医師事務作業補助者を育成し、配属することを考えています。診療情報管理士をはじめとして、医事課職員を積極的に採用し、全員に医師事務作業補助者研修を受けてもらう予定です。これらのスタッフが、外来などでもクラークとして事務作業をカバーすることで、外来スタッフの業務効率が高まり、さらなる患者増加に対応できる体制を作っていけると思います。
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